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エデン  作者: ko-da
5章 エリア・アスタロス編

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消さぬ後悔

沈黙が、しばらく続いていた。機械の音だけが、一定のリズムで鳴り続ける。規則正しいはずのその音が、やけに遠く感じられた。エデンは俯いたまま、動かない。だがその呼吸は、少しずつ変わっていた。重く、詰まるようだったものが、わずかに揺らいでいる。亜爆の言葉が、頭の中で繰り返される。

(……最善だった)

何度も、何度も。あの時の自分の判断。あの瞬間の選択。それを、“最善”と呼べるのか。あの戦いでエデンはエイリポルに騙され、結果二人が死んだ。考えようとするほど、胸の奥が軋んだ。指先が、わずかに震える。シーツを握る力が、無意識に強くなる。

「……最善……」

かすれた声が、ようやく零れた。小さく、途切れそうな声。それでも、確かに言葉だった。エデンは、少しだけ顔を上げる。視線はまだ下に落ちたまま。だが、止まっていた思考が、動き出している。

「でも……」

言葉が、続く。うまくまとまらないまま、それでも絞り出すように。

「やっぱり、俺は……」

一瞬、息が詰まる。喉の奥が、締まる。それでも、逃げない。

「……俺が、判断を間違えたから。弱かったから」

拳が、震える。

「カイトとリナは……」

その先の言葉が、出てこない。言えば、完全に現実になる気がした。だが。逃げるわけにはいかなかった。

「……死んだ」

絞り出すように、そう言った。その一言で、何かが確定した。もう、戻らない。胸の奥が、深く沈む。エデンの視界が、わずかに揺れる。

「……亜爆さん」

名前を呼ぶ。それだけで、少しだけ息が整う。言葉を繋ぐための、支えのように。

「俺……」

何を言うべきか、探している。だが、見つからない。だから、そのまま出す。

「……俺、多分……」

声が、弱くなる。

「そんなに強くない」

静かな告白。

「心も……力も……だから」

ゆっくりと、息を吸う。痛みが走る。それでも、止めない。

「亜爆さんみたいに……」

言葉が少しだけ揺れる。

「最善だって、考えるようには……できない」

否定だった。だが、拒絶ではない。ただ、自分にはまだ辿り着けない場所だと、認めている。沈黙が落ちる。だが、先ほどのものとは違う。止まっていたものではなく、次に進むための“間”。エデンは、ゆっくりと顔を上げた。まだ完全ではない。だが、目は――前を向こうとしていた。

「……だから、決めました」

小さく、しかしはっきりと。その言葉には、さっきまでなかった芯があった。

「俺……」

一度、息を整える。そして。


「もっと、後悔するようにします」


その言葉は、静かで、重かった。逃げるためではない。背負うための言葉。

「忘れないように......二度と、同じことを繰り返さないように」

拳を、ゆっくりと握る。震えは、まだ止まらない。

「誰も、死なせないように」

視線が、わずかに強くなる。

「……もっと、強くなります」

その決意は、完成されたものではない。未熟で、危うくて、どこか歪んでいる。それでも確かに、前を向いていた。亜爆は、その言葉を遮らなかった。否定もしない。すぐに肯定もしない。ただ、静かに聞いている。エデンの選んだ“答え”を。しばらくの沈黙の後。亜爆は、ゆっくりと口を開いた。

「……そうですか」

短く、静かに。それだけを言う。肯定でも、否定でもない。ただ、受け入れる言葉。亜爆は、わずかに視線を緩める。

「その考えで進むなら」

言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。

「君は後悔を抱え続けることになる」

強くはない。だが、芯の通った声。

「心を強く保たなくちゃならない」

それは忠告であり、確認でもあった。エデンの選んだ道は、軽いものではない。抱え続けることを、自分で選んだのだから。

「……はい」

小さく、しかしはっきりとした返事。エデンの視線は、もう下を向いていなかった。完全ではない。まだ痛みも、迷いも残っている。それでも。その瞳は、確かに前を見ていた。病室には、再び静かな時間が流れる。だがその静けさは、先ほどまでとは違う。押し潰すような重さではなく、何かを抱えたまま進もうとする者の、静かな覚悟の空気だった。

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