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エデン  作者: ko-da
5章 エリア・アスタロス編

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消えぬ後悔

洞窟の外。湿った空気から一転して、外の空気は冷たく、鋭かった。担ぎ出された三人の体を、待機していた救急隊がすぐに受け取る。

「こっちだ、急げ!」

慌ただしい声。担架に乗せられるカイト。続いてリナ。そしてエデン。意識は、すでに薄れていた。視界がぼやける。誰かが何かを言っている。だが、音が遠い。身体の感覚が、ゆっくりと切り離されていく。

(……終わった……のか……)

思考も、曖昧になる。そのまま意識は、内側へと沈んでいった。暗い空間。何もない、静かな場所。エデンはそこに立っていた。足元も、天井も、境界もない。ただ、無限の闇。だが、不思議と恐怖はなかった。

「……ケイ」

呼びかける。すぐに、返答があった。

『……ああ』

低い声。いつも通りの、落ち着いた響き。エデンは少しだけ目を伏せた。

「……ごめん」

短く、そう言う。

「無理した」

間。言葉を探すように、ゆっくりと続ける。

「逃げろって言ってたのに……無視した」

静かな空間に、その声だけが響く。

『……ああ』

ケイは否定しない。

ただ、事実として受け止める。

『君は、限界を超えた』

淡々とした言葉。

『リミットリフレクスとリミットフォースを同時に使うなど、本来は想定されていない』

一拍。

『神経系への負荷、身体への反動。どちらも致命的になり得る』

静かな警告。

『次に同じことをすれば、動けなくなるだけでは済まない可能性もある』

その言葉は、重かった。現実として。エデンはそれを、受け止める。

「……うん」

小さく頷く。理解している。危険だったことも。無謀だったことも。全部。それでも。エデンは顔を上げた。

「でも……」

言葉を紡ぐ。

「あの時、戦わなかったら」

洞窟の光景が、脳裏に浮かぶ。倒れているカイトとリナ。迫る棘。逃げ場のない状況。

「……もっと、危険だったと思う」

静かな確信。

ケイは、すぐには答えなかった。わずかな沈黙。

『……否定はしない』

低く、短く。だが、それは明確な肯定だった。

『あの状況で退いた場合、被害は拡大していた可能性が高い』

冷静な結論。

『お前の行動には、意味があった』

はっきりとした言葉。エデンは、わずかに目を見開く。ケイが続ける。

『ただし』

一拍。

『それと、無理をしていい理由は別だ』

静かな指摘。

『生き延びることが前提だ』

その言葉に、エデンは苦笑した。

「……分かってる」

完全には守れていないことも、分かっている。それでも。

「ありがとう」

小さく、そう言った。暗闇の中で。その言葉だけが、わずかに温かく響いた。数日後。アモリス支部。医療棟の一室。白い天井。消毒の匂い。静かな機械音。エデンはベッドの上で、ゆっくりと目を開けていた。身体はまだ重い。力を入れると、鈍い痛みが走る。だが、意識ははっきりしていた。

(……生きてる)

その実感が、じわりと広がる。天井を見つめたまま、しばらく動かない。戦いの記憶が、ゆっくりと蘇る。エイリポル。リミットの新たな力。そこで、思考が一瞬止まる。ドアが、静かに開いた。足音。振り向くと、そこにいたのはジエルだった。

「……よう」

いつものように軽く言う。だが。どこか違う。エデンはすぐに気付いた。

「……ジエル?」

自然に口から出る。ジエルは何も言わない。ただ、エデンを見ている。その表情は普段の彼からは想像できないものだった。強気でも、不機嫌そうでもない。どこか――言葉を選んでいるような顔。気まずさ。エデンの胸が、わずかにざわつく。

「……何かあったの?」

少しだけ真剣な声で問う。ジエルは、視線を一瞬だけ逸らした。そして、また戻す。口を開く。

「……ええっと」

言葉が、途切れる。らしくない。

「カイトとリナ……」

その名前が出た瞬間。エデンの鼓動が、強くなる。嫌な予感。胸の奥が、冷たくなる。ジエルは、少しだけ歯を食いしばるような仕草をしてから。言った。


「……死んだ」


その一言が。静かな病室に、重く落ちた。音が消える。時間が止まる。エデンの視界が、揺れる。

(……は?)

頭が理解を拒む。救急隊に運ばれ、処置を受けたはず。

「……嘘……だよね……?」

かすれた声。自分でも分かる。その問いが、どれだけ弱いものか。ジエルは、答えない。ただ、目を逸らさない。それが――答えだった。胸の奥が、音を立てて崩れる。呼吸が、うまくできない。何か言おうとしても、言葉が出ない。頭の中に浮かぶのは。あの時の光景。棘が、刺さった瞬間。自分が、信じた瞬間。

(……俺のせいだ)

その考えが、離れない。止まらない。エデンの手が、震える。シーツを強く握る。視界が、にじむ。声にならない何かが、喉に詰まる。病室は静かだった。あまりにも静かで。その沈黙が、現実をより強く突きつけていた。

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