戦闘終了
ジエルがエデンの腕を肩に回し、無理やり立たせる。
「立てるか」
短い声。エデンの足は震えていたが、それでもわずかに力を込める。
「……うん」
かすれた返事。その瞬間、エデンは顔を上げ、大山の方を見た。
「……核です」
息を整える余裕もないまま、言葉を絞り出す。
「エイリポルの核は……尻尾にあります」
短い情報。だが、それだけで十分だった。大山の目が鋭く細まる。
「分かった」
それだけを返し、前へと意識を戻す。ドロイとジエルはすぐに動いた。ドロイがカイトを担ぎ、ジエルがエデンとリナを支える。三人を連れて、その場を離脱しようとする。だが──
「逃がすかよぉ!!」
エイリポルの叫び。口が大きく開き、棘が放たれる。一直線に、退路を塞ぐ軌道。だが、その前に。
「――失礼」
静かな声。熔煉亜炭が、一歩前に出た。自らの腕に手を添える。擦るように動かす。次の瞬間、発火。炎が、彼女の腕から立ち上る。それを、迷いなく前方へと放つ。弧を描く炎が、飛来する棘へとぶつかる。一瞬で燃え上がり、焼き尽くす。黒い灰が、空中で散った。亜炭は表情を一切変えない。ただ、わずかにジエル達の方を振り返る。
「……頼みました」
落ち着いた声。ジエルとドロイは、小さく頷いた。言葉はない。だが、それで十分だった。三人を連れ、洞窟の出口へと進み始める。足音が、遠ざかっていく。残されたのは大山、風黒、亜炭。そして、エイリポル。空気が変わる。風黒はゆっくりと槍を構える。亜炭は腰の銃を抜き、静かに狙いを定める。大山は一歩前に出て、地面に意識を落とす。三人とも、臨戦態勢。エイリポルが苛立ちを露わにする。
「ぞろぞろ出てきやがって。なんなんだよ……おまえら!」
再び棘を放つ。
「無駄だ」
大山の低い声。地面が隆起し、防壁が形成される。棘はすべて、それに阻まれた。その直後。乾いた銃声。亜炭の銃撃が炸裂する。炎を纏った弾丸が、一直線にエイリポルへと突き刺さる。爆ぜる炎。その隙を逃さない。
「――風車」
風黒の声。風を受けて、身体に力が集まる。次の瞬間。姿が、消えた。一気に間合いを詰める。エイリポルは即座に反応する。巨体に似合わぬ速度で、回避行動に入る。しかし、退路は塞がれていた。大山の防壁に挟まれる。
「っ!?」
その一瞬の隙。亜炭の銃撃が重なる。炎が、身体を焼く。そして風黒の槍。エネルギーが充填される。空気が震える。振り抜く。斬撃が放たれ、エイリポルを切り裂く。だが、それでも。エイリポルは、強引に壁から抜け出した。身体を削りながら。
「くそっ!」
焦り。明確な恐怖。そのまま、壁を這い上がり――逃げようとする。だが。その進行方向。空気を裂いて、何かが飛んだ。――槍。風黒が投げた一撃。一直線にエイリポルの頭部へ突き刺さる。
「がっ――!?」
動きが止まる。その瞬間。風黒の姿が、消えた。次に現れたのは槍の地点。一瞬で距離を詰めていた。槍を引き抜き、間髪入れず、体を捻る。その狙いは尻尾。迷いのない一撃。深く、正確に核を貫いた。
静寂。そして。エイリポルの体が、崩れ始める。輪郭が揺らぎ、崩壊していく。
「……ふざけ……んな……」
掠れた声。悔しさと憎悪が混ざった、みじめな言葉。だが。三人は、誰一人としてそれを見なかった。視線すら向けない。すでに興味はない。任務は完了した。それだけだった。風黒が槍を軽く払う。亜炭は銃を戻す。大山は静かに振り返る。三人は、そのまま歩き出した。エデンたちの元へ。背後で、エイリポルは完全に消滅した。戦いは終わった。洞窟に、再び静寂が戻る。だがその静けさは、先ほどまでとは違う意味を持っていた。




