守れない
地面に転がる核が、かすかに脈動する。不気味な鼓動。その中心からじわり、と何かが伸び始めた。肉のような組織が、形を持つ。細く、長く。やがてそれは、はっきりとした“尻尾”へと変わっていく。
(……再生してる……!)
エデンの瞳が見開かれる。終わっていない。いや、ここからが本当の脅威だった。動かなければ。今のうちに、完全に破壊しなければ。そう頭では理解している。だが、身体が動かない。
「……っ」
足と腕に力を込める。だが、まるで他人の体のように反応しない。エデンはその場に崩れる。膝が折れ、地面に手をつく。
「うそ……だろ……」
声が震える。
「動けない……」
呼吸が乱れる。身体の奥から、何かが抜けていく感覚。限界を超えた反動。無理やり引き出した力の代償。頭の中で、必死に叫ぶ。
(動け)
(動け、動け……!)
だが、応えはない。その間にも。再生は進む。尻尾だけではない。肉が盛り上がり、骨格が形成され、外殻が再び形を持つ。やがて。完全な姿が、そこに立っていた。エイリポル。無傷ではない。だが、確かに“復活”している。
「……あひゃ」
歪んだ笑み。ゆっくりとエデンを見下ろす。
「もう動けないのかぁ?」
楽しそうに、首を傾ける。
「さっきまであんなにイキってたのにぃ?」
嘲り。その声が、耳に刺さる。エデンは歯を食いしばる。それでも、身体は動かない。カイトとリナも同じだった。毒。そして、ダメージ。三人とも、戦闘不能に近い状態。エイリポルはゆっくりと口を開く。
「あーあ」
つまらなそうに呟く。
「じゃあさ」
その目が、細く歪む。
「お仲間達と一緒に――あの世に行きなぁ!」
その瞬間。口内が膨らむ。無数の棘が、生成される。狙いは――三人。一斉に、放たれる。一直線に迫る死。エデンは、それを見ていた。
動けないまま。
避けられないまま。
(……ここで、終わりか)
そんな考えが、よぎる。視界の端に、カイトとリナの姿。二人も動けない。守れない。
「……ごめん」
小さく呟く。声が、震える。
「ごめん、カイト……リナ……」
瞳に、涙が浮かぶ。悔しさ。無力さ。後悔。そのすべてが、胸を締め付ける。棘が、迫る。
その瞬間――
「――大地防壁」
低く、力強い声が響いた。直後。地面が、隆起する。轟音と共に土と岩がせり上がり、三人の前に巨大な壁を形成した。棘が、防壁に突き刺さる。鈍い衝撃音が連続する。だが、貫通はしない。全て、受け止められた。
「――エデン!」
聞き慣れた声。
「二人も、大丈夫か!」
防壁の向こうから、駆け寄ってくる足音。エデンは、ゆっくりと顔を上げた。そこにいたのは大山。その背後には。熔煉亜炭。風黒幕人。ジエル。そして、ドロイ。援軍。間違いなく、最悪の状況を覆す存在。エイリポルが、大きく目を見開く。
「なんだ!おまえら!」
苛立ちと驚愕が混じった叫び。だが風黒は、いつもの調子で一歩前に出る。状況を一瞬で把握した目。軽く周囲を見渡し、即座に判断を下す。
「ジエル君、ドロイ君」
穏やかな声。だが、迷いはない。
「君たちは負傷者を頼みます」
視線がエデンたちへ向く。
「外には救急隊が待機していますので、そこまで運んでください」
的確な指示。無駄がない。そして。ゆっくりと、エイリポルへと視線を移す。その目が、わずかに細められる。
「この進化個体は――」
一歩、踏み出す。
大山と、熔煉も並ぶ。
「私たち三人で処理しましょう」
軽い口調。だが。その場の空気が、一気に変わる。絶望だったはずの戦場に。
確かな“逆転の気配”が満ちていた。




