危険じゃないエイリ星人
風黒の背中を追いながら、エデンたちはさらに奥へと進んでいた。洞窟の空気は重く、どこか張り詰めている。先ほどの戦闘の余韻が、まだ微かに残っていた。その時だった。
――ゴゴゴゴ、と。
低い振動が足元から伝わる。
「……っ!?」
エデンが顔を上げる。次の瞬間、洞窟全体が大きく揺れた。天井の岩が軋み、砂がぱらぱらと降り落ちる。足場が崩れ、視界が揺れる。
「まずい、崩れるぞ!」
カイトが叫ぶ。
直後――
轟音。
前方と後方、両方から岩が崩れ落ちる。逃げ場を塞ぐように、巨大な岩塊が通路を埋め尽くした。
「くそっ……!」
エデンは振り返る。
だが、そこにあったはずの風黒の姿は――ない。
「風黒さん!?」
声を張る。返答はない。分断された。その事実が、遅れて理解として落ちてくる。その時、通信機が小さく音を立てた。
『――ああ、聞こえますか?』
いつもの調子の声。風黒だった。ノイズ混じりだが、はっきりと届く。
『どうやら分断されたようですね~』
まるで他人事のような口調。だが、その奥には冷静さがある。
『私は問題ありませんので』
一拍。
『皆さんは一度、入口まで戻ってください』
指示は明確だった。
『熔煉隊員たちには、こちらから連絡を入れておきます』
通信が途切れる。静寂が戻る。カイトが舌打ちをする。
「……マジか」
リナはすぐに状況を整理する。
「ここに留まり続けるのは危険かも、来た道を引き返そうよ」
冷静な判断。エデンも頷く。三人は来た道を引き返し始めた。
だが――
数歩進んだ、その時。足が止まる。前方。通路の先。
そこに――“いた”。
巨大な影。岩のような皮膚。長く太い尾。そして、低く構えたその姿は、トカゲのような異形の生物。
(……こんなの、さっきはいなかった)
エデンの背中に冷たいものが走る。カイトとリナは即座に構えた。
「新手か……!」
緊張が一気に高まる。その時。リナが、わずかに眉をひそめた。
「……もしかして」
小さく呟く。
「エイリ星人の……進化個体?」
その言葉に、空気がさらに重くなる。次の瞬間。その異形が、口を開いた。
「……そ、そうです」
か細い声。震えている。
「わたしのなまえは……エイリポル」
ゆっくりと、言葉を紡ぐ。敵意は感じられない。むしろ――怯えている。
「わたしは……わるいエイリ星人じゃないです」
その声は弱々しく、今にも消えそうだった。
「ほかのエイリ星人に……いじめられてるんです」
巨大な体とは不釣り合いな言葉。
「……みのがしてください」
頭をわずかに下げる。懇願。その姿に、違和感が広がる。だが、カイトは一切緩めない。
「騙されるな」
低く言う。
「エイリ星人に危険性の無い個体なんていない」
リナも頷く。冷静な分析。二人とも、戦闘態勢を崩さない。いつでも動ける距離。だがエデンだけは、動かなかった。じっと、その生物を見つめている。エデンは違和感を感じる。視線を、体へと向ける。身体のあちこちに刻まれた、無数の傷跡。新しいものもあれば、古いものもある。
(……本当に、いじめられてるのか?)
胸の奥が、わずかにざわつく。オルのことを思い出す。“危険じゃないエイリ星人”が存在する可能性。
目の前の存在は敵か。それとも。エデンは、ゆっくりと一歩前に出た。
「エデン!?」
カイトが声を上げる。
だが、エデンは止まらない。その目は、真っ直ぐエイリポルを見ていた。
(もし……)
ほんのわずかでも。助けられる可能性があるなら。見捨てたらきっと、後悔する。エデンは、静かに口を開いた。
「……本当に、敵じゃないんだな?」
洞窟の中で。
緊張と疑念が、静かに交錯していた。




