風車
エデンたちは、ジエルたちとは反対の通路へと足を進めた。洞窟の奥へ進むほどに、光は薄れ、空気はさらに冷たくなる。足元の感触も不安定で、わずかな油断が命取りになりかねない。先頭を歩く風黒は、相変わらず緊張感のない足取りだった。だが、その背中から目を離す者はいない。しばらく進んだ、その時だった。
――気配。前方の暗闇の中に、複数の影が蠢く。ゆっくりと姿を現したのは、エイリ星人。低く唸りながら、こちらを捉える。
「来たか……!」
カイトが即座に構える。リナも一歩前に出て、戦闘態勢に入る。
だが――
「――ああ、少しお待ちを」
その動きを、風黒の声が止めた。二人の前に、すっと一歩出る。
「ここは、私が行きましょうか」
軽い口調。まるで散歩の途中で何かを見つけたかのような、気負いのない言い方だった。カイトが一瞬眉をひそめる。だが、止める前に、風黒は動いていた。背中に背負っていた槍を、滑らかな動作で取り出す。同時に、もう一方の手が左肩へと添えられる。その位置。インターフェース。左肩に埋め込まれた装置が、わずかに光を帯びる。次の瞬間。風黒の姿が、消えた。
(……速い!?)
エデンの視界から、一瞬でいなくなる。気付いた時には、すでにエイリ星人の懐に入り込んでいた。距離を詰めるというより、“そこにいた”。そんな錯覚すら覚える速度。槍が、突き出される。無駄のない一撃。深く、正確に。エイリ星人の体を貫く。だが、それで終わりではない。風黒の周囲に、風が集まり始める。洞窟の中で、本来あり得ない流れ。空気が渦を巻き、彼の身体へと吸い込まれていく。
「――風車」
静かな声。風を受け、蓄える。その力を――己の力へと変える。次の動きが、さらに速くなる。引き抜かれた槍が、再び閃く。連撃。風を纏った一撃一撃が、エイリ星人を切り裂く。
そして――
最後に、溜め込まれた風が、解き放たれた。
――爆ぜる。圧縮された風が一気に放出され、周囲を薙ぎ払う。エイリ星人の身体が宙に浮き、そのまま岩壁へと叩きつけられる。衝撃。そして、静寂。動かない。やがて、その体は崩れ、消滅していく。あまりにも、一瞬だった。風黒は何事もなかったかのように槍を軽く振り、付着した汚れを払う。そして、ゆっくりと振り返った。
「……こんなところでしょうか」
穏やかな声。まるで今の戦闘が、特別なものではないかのように。エデンは言葉を失ったまま、その姿を見つめていた。
(……強い)
それも異質な強さ。軽さの奥にある、本物の実力。カイトも小さく息を吐く。
「……強すぎる」
リナはそう呟き、わずかに目を細める。風黒はそんな反応を気にした様子もなく、にこりと笑う。
「では、進みましょうか」
再び、何事もなかったかのように歩き出す。その背中を、三人は黙って追いかけた。洞窟の奥。そこに潜むものが、わずかに蠢いた気がした。




