二手に
亜炭は洞窟を見る。洞窟の入口は、口を開けたままこちらを呑み込もうとしているかのようだった。外の乾いた風はそこには届かず、代わりにひんやりとした湿気が肌にまとわりつく。足を踏み入れた瞬間、空気が変わるのがはっきりと分かった。薄暗い通路。天井からは水滴がぽたり、ぽたりと落ち、その音が静寂の中でやけに大きく響く。先頭を歩くのは亜炭だった。落ち着いた足取りで進みながら、振り返ることなく口を開く。
「ここで、今回の任務を簡単におさらいしておきますね」
その声は、洞窟の壁に反響し、柔らかく広がった。
「近頃、このエリアではエイリ星人の活動が活発化しています」
足を止めず、淡々と続ける。
「そのため、今回の任務は――この一帯に出現する個体の掃討」
短く、だが明確な説明。足元の岩を踏む音が重なる。
「そして、ここに出現するエイリ星人ですが……」
わずかに間を置く。
「最低でも、ランクC相当」
その言葉が落ちた瞬間、空気が少しだけ重くなった。エデンは無意識に喉を鳴らす。
(ランクC……)
自分の現在のランクはD-3。決して低くはない。だが、それでも。明確な“格上”が相手になる。亜炭の声は変わらない。
「そのため、今回はランクがCに近い隊員が選出されています」
視線だけで周囲を確認する。
「無理は禁物です。連携を最優先に」
静かに、だが確実に釘を刺す。やがて、洞窟の通路は大きく枝分かれしていった。左右に伸びる道。さらに奥へと続く暗闇。まるで迷路のように入り組んでいる。
「……複雑だな」
ジエルが小さく呟く。その声が反響し、どこからともなく返ってくる。亜炭は足を止め、振り返った。
「ご覧の通り、この洞窟は非常に入り組んでいます」
壁に手を添え、軽くなぞる。
「全員で行動すると、かえって効率が落ちる可能性があります」
わずかに視線を巡らせる。
「ですので――ここからは二手に分かれます」
その一言で、場の空気が引き締まった。短い話し合いが行われる。互いの実力、相性、役割。それらを踏まえた上で、編成が決まっていく。やがて、結論が出た。エデン、カイト、リナ――そして風黒の一班。もう一方は、ジエル、ドロイ、亜炭、大山の二班。自然と、役割が分かれた形だった。だが――
「……で、支部長は?」
ジエルが眉をひそめる。その言葉に、わずかな沈黙が落ちた。本来、この場にいるはずの人物。だが、未だ姿はない。
「後から合流と聞いています」
亜炭が静かに答える。その声に焦りはない。
「それまでは――」
視線がエデンたちへ向く。
「こちらで待機を」
判断は的確だった。戦力が揃わない状態での深入りは危険。誰も異論はなかった。ジエルは小さく息を吐き、肩を回す。
「了解。じゃあ俺たちは先に行くか」
その言葉に、エデンが頷く。
「無理はしないで」
ドロイも無言で一礼し、亜炭の後ろに付く。亜炭は最後にエデンたちを一瞥した。
「何かあれば、すぐに連絡を」
穏やかな声。だが、その奥には確かな信頼が込められていた。そして、四人は暗闇の奥へと進んでいく。足音が次第に遠ざかり、やがて完全に消えた。残されたのは、エデン、カイト、リナの三人。そして、まだ見ぬ風黒。洞窟の静寂が、再び戻ってくる。水滴の音だけが、規則正しく響く。エデンはその場に立ったまま、奥へと続く闇を見つめた。
(ここで待機……か)
理解はしている。それでも。胸の奥に、わずかなざわつきが残る。何かが起きる。そんな予感だけが、静かに広がっていた。暗闇は、何も語らない。だが――その奥には確かに、“何か”が潜んでいた。




