エリア・アスタロス
エリア・アスタロス任務に着任することになったエデンは、ECO職員に隊員証を提出し、隊員証の更新を待つ。その間、教室でエデンは任務着任とランクの昇格を伝えた。
「ランクD-9から一気にD-3まで上がるって上がりすぎじゃね?」
ジエルはわずかに眉をひそめ、不思議そうな表情を浮かべた。だが、その疑問も長くは続かない。小さく肩をすくめると、「……まあ、いいか」と呟き、深く考えるのをやめた。
ジエルもまた、任務に着くことを職員から聞かされ――
その視線は自然にエデンに向いた。
「俺とエデンだけじゃないんだろ?その任務」
職員は一つ頷き、手元の端末に視線を落とした。
静かな操作音が教室に響く。
「もちろんです。今回のエリア・アスタロス任務には、他にも二人が着任します」
淡々とした口調のまま、続ける。
「大山隊員。そして――風黒支部長が同行します」
その名前を聞いた瞬間、エデンはジエルに聞く。
「風黒支部長ってどんな人なの?」
今さっき大山隊員と聞いた時にも、出ていた名前。風黒支部長。聞き慣れない名前だった。
思わず口にすると、隣にいたジエルが反応する。
「ああ、あの人か」
少しだけ顔をしかめ、吐き捨てるように言った。
「なんか胡散臭そうな人だぞ」
その一言に、空気がわずかに揺れる。だがすぐに、天記が苦笑しながら口を挟んだ。
「それはちょっと言い過ぎかな」
柔らかい声だった。天記は誤解を解こうとエデンに説明する。
「確かに誤解されやすい人ではあるけど……ちゃんといい人だよ」
ジエルは「まあ」と気のない返事を返し、それ以上は追及しなかった。エデンは二人のやり取りを見ながら、頭の中でその名前を反芻する。
(風黒支部長……)
どんな人物なのか。少しだけ、不安と興味が入り混じる。だが、それ以上に任務への緊張の方が大きかった。胸の奥で、何かが静かに脈打っている。
――数日後。
アモリス地区とウバク地区の中間に位置する区域、エリア・アスタロス。山間部を抜けた奥には、大きな洞窟が広がっていた。乾いた風が吹き抜け、地面にはかつての戦闘の痕跡が色濃く残っている。このエリア・アスタロスは昔、炭坑として栄えていた。その証が、洞窟の入口周辺にいくつも残っていた。錆びついたレールが地面に半ば埋もれ、崩れかけた木製の支柱が斜めに立っている。風が吹くたび、どこかで古い金属がカラン…と鳴った。
ここが安全な場所ではないことは、一目で分かった。エデンはその光景を見つめながら、ゆっくりと息を吐く。隣にはジエル。少し離れた場所には、大山の姿もあった。
だが――
「……まだ来てねぇのか?」
ジエルが周囲を見回しながら呟く。その視線の先に、本来いるはずの人物はいない。風黒支部長。事前に「後から合流する」と聞かされていたため、焦りはない。それでも、この場にいないという事実が、わずかな違和感を生む。大山は腕を組み、遠くを見ながら言った。
「まぁ、そのうち来るだろ」
落ち着いた声だった。その言葉に、エデンも小さく頷く。
そして――
しばらくして。遠くから、複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。乾いた地面を踏みしめる音。全員の視線がそちらへ向く。やがて、山間部の向こうから姿を現したのは――四人の隊員。ウバク地区からの増援だった。見覚えのある顔が見える。
「……カイト?」
エデンが小さく呟く。その隣にはリナ。さらに後方には、機械の身体を持つドロイの姿もあった。しかし、その中に、一人だけ見知らぬ隊員がいた。おそらくは大人の女性。風に揺れる赤い髪。無駄のない立ち姿。その雰囲気は、新人ではないことを感じさせた。エデンは無意識に、その人物から目を離せなくなる。
(……誰だ?)
新たな任務。新たな仲間。
そして――まだ姿を見せない、風黒支部長。静かに、だが確実に、この任務は、ただの任務では終わらない。そんな予感が、エデンの中で形を持ち始めていた。




