お礼と久しぶり
研究結果の報告が終わった後。
研究者が言う。
「ECOの上層部にも連絡を入れます」
「この個体は前例がありません」
天記がうなずく。
「特別管理対象になるね」
数時間後。
支部の教室。
天記が声をかける。
「エデン君」
エデンが振り向く。
「どうしたんですか?」
天記が言う。
「君に会いたいという人が来ているよ」
「え?」
ジエルが横から聞く。
「誰だ?」
天記が答える。
「安室正道さんです」
エデンが少し驚く。
「安室さん?」
ドアの方を見る。そこに立っていたのは、スーツ姿の男性だった。
安室正道。休日中にエデン達が死神から助けた人物。
彼はエデンを見つけると深く頭を下げる。
「こんにちは」
エデンも頭を下げる。
「こんにちは」
安室正道が言う。
「突然すみません。どうしてもお礼が言いたくて」
手に持っていた箱を差し出す。
「これはほんの気持ちです」
「菓子折りです」
エデンが少し慌てる。
「い、いえ、そんな」
安室が静かに言う。
「受け取ってください」
「あなたは命の恩人です」
亜爆が小声で言う。
「誰ですか?」
「休日中に色々あって、その時に助けたんです」
エデンは小声で説明する。
ジエルは「お前、休みに人助けてんのかよ」とつっこむ。
安室が続ける。
「ウバク地区にいるドロイさん達には、すでにお礼を申し上げました」
エデンが言う。
「そうだったんですね」
安室がうなずく。
「はい」
少し間を置く。
「この度は本当に、ありがとうございました」
深く頭を下げる。
「あなたがいなければ、私は今ここにいません」
静かな声だった。
エデンは真面目な顔をして言う。
「いえ……自分は、やるべきことをやっただけです。それに、もっと早く会いに行ってれば、危険にさらすこともなかったですし....」
安室が微笑む。
「でも、そのおかげで犯人は捕らえられた」
「それは事実です」
ジエルが言う。
「素直に受け取っとけよ」
エデンが少し考える。
そして、箱を受け取る。
「……ありがとうございます」
安室がほっとしたように笑う。
「それでは、私はこれで」
軽く頭を下げる。
「今後のご活躍を祈っています」
そう言って、静かに教室を出ていった。
ドアが閉まる。
静かな空気が流れる。
ジエルが言う。
「いい人だったな」
天記もうなずく。
「うん」
エデンが菓子折りを見る。
「……」
少し笑う。
「感謝されるって、嬉しいな」
ジエルが肩を叩く。
「そりゃそうだろ」
「俺はよく知らねぇけど。人を救ったんだろ。当然だ」
オルが近づいてくる。
「食べ物ですぞ?」
エデンが笑う。
「そうだよ」
オルが目を輝かせる。
「食べていいですぞ?」
ジエルがすぐに言う。
「待て」
「まずは俺が....」
ジエルが菓子折りに手を伸ばすとオルがその手に乗る。
「エデンが貰ったんですぞ!ジエルが食うのは後ですぞ!」
そう言い、争い始める二人。天記が少し笑う。
支部の空気は、少しだけ穏やかになっていた。
エデンは菓子折りを見ながら、静かに思う。
(誰かを守ることができた)
(それだけで、十分だ)
その表情は、少しだけ誇らしげだった。
コンコン
教室のドアが叩かれる。
「今度は誰だ?」
ジエルがそう言い、ドアを開けると、そこには一人の隊員がいた。
「エデンはいるか?」
「大山さん!」
エデンは驚き、大山のもとに駆け付ける。
大山大地。エデンがエイリ星人からおばあちゃんを庇った時、救助した隊員。ECOに入るきっかけをくれた人物。
「遠征任務も終わったからな、少し様子を見に来たんだ」
大山はジエルと亜爆を見て、微笑む。
「いい仲間が出来たみたいだな」
「はい!」
エデンは頷き、返事をする。
その後も、談笑をするエデン達。
「小さいエイリ星人って俺は今まで見たことなかったぞ。しかも、危険じゃないらしいな」
「オルですぞー」
「可愛いなぁお前!」
──
「というか、天記も久しぶりだよな。いつぶりだ?」
「前の、エリア・アスタロス任務以来じゃないかな?」
その言葉を聞き、大山は「あ」とあることを思い出したように言った。
「そうそう。そのエリア・アスタロスなんだが、最近エイリ星人がまた発生したらしい。風黒支部長が言ってたよ」
真剣な顔になる天記。
「そうなんだ。また、他の支部との共同任務?」
「ああ、こことウバク地区の二つの支部から四人ずつ。八人で任務をするらしい」
「そりゃまた、大掛かりな任務だね。八人か」
二人が話をしているのを見つめるエデン。
「あの、その任務って、俺達も行くんですか?」
大山は困った顔をして頭をかく。
「誰がどう任務に行くかは、まだ分からん。それに.....」
「この任務は最低でもランクD-4の隊員でなければならない」
「確か、エデンはまだランクD-4じゃなかったろ?」
そう言うと、大山はエデンの肩を優しく叩く。
「エデン。お前のことだから、行きたいって思ってるんだろ?でもな、任務はそれに合った実力を持ったやつじゃないと行っちゃいけない。ECOは人手不足だ。一人でも失うわけにはいかない。そのために、ランク制度がある」
エデンはそれでも行きたそうな顔をしている。大山はその表情を見て、少し考える。
「.....エデン。ちょっと席をはずそう。皆、少し待っててくれ」
大山はエデンと一緒に教室から出る。
「なぁ、エデン。前から気になってはいたんだが」
「お前は、どうしてECOを続けているんだ?」
大山はそのまま話し続ける。
「俺は、母親がエイリ星人による被害で亡くなった。だから俺は、俺みたいにエイリ星人のせいで悲しむ人が増えて欲しくないからECOに入った。勿論、その代償も理解した上でだ」
「代償....」
エデンが呟く。
「インターフェースを埋め込んで、寿命が減るだけが代償じゃない、危険な任務との隣り合わせ、そもそも、インターフェースを埋め込んでも、ラベジニウムに適正が無かったら何も出来ない」
「まぁ、ラベジニウムへの適正があるかどうかは、事前に調べられるけどな」
「........」
二人の間に少しの沈黙が生まれる。
大山が口を開く。
「でも、お前はそうじゃない。事前に何の代償も知らずに、インターフェースを埋め込まれて、それを受け入れて戦ってる」
「もし、俺がお前ぐらいの年だったら絶対に受け入れられない。」
「もう一度聞く。どうして、ECOを続けられるんだ?どうして、逃げたりしないんだ?」
エデンは大山の真剣な表情を見て、考える。自身がECOを続ける理由を。
「俺が、ECOを続ける理由...」
ECOになろうと思った理由は、あの時エイリ星人に襲われていたおばあちゃんを、自分一人の力では助けられなかったという自身の力不足。
なら──
続けられる理由は?逃げない理由は?
窓から夕陽が差し込む。
「悔いの無い生き方をしろ!」
頭の中に声が響く。
エデンの過去の記憶。




