二つの能力
エデンたちは病院を飛び出し、
全速力でアモリス中央公園へ向かった。
夕方の公園。
少し暗い、街。
その奥には――
濃い霧が広がっていた。
エデンが立ち止まる。
「……あれだ」
霧の中から
ドォン!!
激しい音が響いた。
次の瞬間、人が吹き飛ばされる。
「きゃあああ!!」
逃げ惑う一般人。倒れて怪我を負っている警察。そして霧の奥からゆっくり歩いてくる影。黒い外套。影に隠れた顔。死神だった。
エデンが言う。
「……あいつだ」
しかし、今までの事件とは様子が違った。死神は潜んでいない。
むしろ――
暴れている。
霧の中で腕を振るい、ベンチを破壊し、逃げ遅れた人間を襲おうとしている。
リナの目が大きく開く。
「……!」
公園の入口で、子どもをかばう母親が転んだ。死神が母親にゆっくり近づく。霧の中で腕が持ち上がる。
その一撃が落ちれば――
エデンが叫ぶ。
「まずい!」
しかしその瞬間、リナが前に出た。
「……止めないと」
足を一歩踏み出す。
そして小さく言った。
「疾歩疾走」
リナの足が地面を踏む。
タッ
もう一歩。
タッ
その瞬間、体が前に加速する。
エデンが驚く。
「速い」
(早くなる能力か、)
リナはさらに踏む。
タッ タッ タッ
ステップを踏むたび、スピードが上がる。地面を蹴るたびに加速していく。人間の速度を超えていく。
数秒で、リナは霧の中へ突っ込んだ。
死神の腕が母親へ振り下ろされる――
ドン!
霧が晴れると、リナは死神の攻撃から母親を抱えてよけていた。
母親をおろし、息を切らしながら言う。
「逃げて!」
「こっちだ!」
アグレスは母親を支えて、そばの子どもを抱え、逃げていく。
「皆!私は周りの人に避難を促してくる!おそらくすぐに警察の救援が来るから、それまで耐えていて!」
死神の視線がリナに向いた。また死神の周りに霧が発生する。
エデンたちは霧の中へ入る。
「リナ!」
カイトが低く言う。
「……無茶をするな」
リナは死神から距離をとり、言う。
「エデン!カイト!救援が来るまで、逃がさず耐えるよ!」
エデンが拳を握る。
「分かってる」
霧の奥で死神が動く。黒い外套が揺れる。
そして――
今さっきよりも濃い霧が噴き出した。
エデンが驚く。
「霧がもっと濃く!」
霧の中で死神の姿が消えた。
リナが周囲を見回す。
「……見えない」
エデンも警戒する。
「さっきまでここに――」
その瞬間。
ドン!!
エデンの横の木が吹き飛んだ。
リナが驚く。
「えっ!?」
しかし、そこには誰もいない。
カイトが冷静に判断する。
「奇襲されてる。一旦、霧から出たほうがいい」
しかし、霧は既に広範囲に広がっていた。エデンが歯を食いしばる。
「クソ、霧が多すぎる....」
その時だった。
カイトが一歩前に出る。
「……任せろ」
エデンが振り向く。
「カイト?」
カイトは静かに言った。
「能力を使う」
「行動先読」
カイトの視線が鋭くなる。
霧の奥を見据える。
まるで何かを見ているように。
数秒後――
カイトが突然叫んだ。
「エデン!右だ!」
エデンが反射的に振り向く。
次の瞬間。
霧の中から死神の拳が飛び出す。
ガン!!
視覚外からの攻撃、エデンは視認出来なかった。しかし、エデンはすでにリミットナイトを発動し、右側を腕で防御した。拳は鎧により防がれる。
「どうして分かったの?」
エデンがカイトに聞く。
カイトは静かに答える。
「俺のラベジニウムの能力は次の動きが見える」
カイトの方を見ているエデン。
「……次は後ろだ!」
エデンがすぐに振り向く。今度は視認が出来た。
死神が霧から飛び出すが、それもまた防ぐ。
(..?)
その攻撃は、今さっきの攻撃よりも威力が段違いに弱かった。
霧の中。
死神がゆっくり距離を取る。
どうやら、攻撃が当たらないことに気づき始めたようだった。
エデンが拳を握る。
「よし」
「これなら戦える」
しかしその時。
カイトの目がわずかに細くなる。
「……?」
エデンが聞く。
「どうした?」
カイトが低く言った。
「おかしい」
リナが聞く。
「何が?」
カイトは霧の奥を見つめたまま言う。
「さっきから」
「こいつ」
「同じ動きしかしない」
エデンが眉をひそめる。
「同じ?」
カイトは小さく頷く。
「殴って、離れて、霧を出す」
「また殴る」
「……それだけだ」
エデンは霧を見つめて言う。
「決まった行動を繰り返してる?」
その瞬間。
霧の奥で死神がゆっくり首を傾けた。
そして──
死神の体が震え始めた。




