被害者の共通点と病院
エネルギー研究室。
解析の結果、死神の霧はラベジニウムのエネルギーだと分かった。
しかし――
エデンたちは黙り込んでいた。
エデンが机に手をつく。
「……人間が、ラベジニウムで殺人」
リナも困った顔をする。
「でもさ、そんなことする意味ある?」
カイトが短く言う。
「目的がない」
アグレスも腕を組む。
「普通の犯罪だったら金、復讐、恨みとか、大体は理由があるけど」
エデンが言う。
「でも、心臓をえぐるって……」
ドロイが補足する。
「被害者の死因は全員」
「心臓の損傷」
研究室の空気が重くなる。
リナが小さく言う。
「なんか……儀式みたい」
エデンも同じことを考えていた。
「ただ色んな人間を殺してる感じじゃない」
アグレスが資料を取り出す。
「被害者については警察がある程度まとめてる」
エデンが顔を上げる。
「何か共通点は?」
アグレスは少し考えたあと言う。
「それを今から話そうと思ってた」
写真を取り出す。
「死神事件の被害者は」
「これまで5人」
顔写真が並ぶ。
リナが見て言う。
「年齢バラバラだね」
確かにそうだった。20代の人間もいれば、50代の人間もいる。その職業も違う。
会社員
警備員
運送業
飲食店店長
不動産関係
カイトが言う。
「関連性がない」
エデンも頷く。
「全員関係なさそう」
アグレスが言う。
「警察もそこが分からなかったんだ。年齢も職業もバラバラで、生活圏も違う」
リナが首を傾げる。
「じゃあランダム?」
ドロイが資料を見ながら言う。
「いえ」
「完全な無差別ではない可能性があります」
エデンが聞く。
「どういうこと?」
アグレスが静かに言う。
「実は、ある特徴がある」
研究室の空気が少し変わる。
エデンが身を乗り出す。
「特徴?」
アグレスが資料を切り替える。
被害者の情報の中にある項目が並んでいた。
アグレスが言う。
「この5人は全員――」
少し間を置く。
「同じ病院に通っていた」
リナが目を見開く。
「病院?」
カイトが言う。
「なるほど」
ドロイも頷く。
「確かに」
エデンが聞く。
「どこの病院なんですか?」
アグレスは画面を指す。
そこに書かれていたのは――
アモリス中央病院
エデンは考える。
「心臓」
「ラベジニウム」
「患者」
ゆっくり顔を上げる。
「これ、偶然じゃない気がする」
研究室にいる全員が同じ予感を感じていた。
死神事件。
その裏には――
アモリス中央病院が関わっている可能性があった。
その日の午後、エデンたちはアモリス中央病院に来ていた。大きな総合病院で、救急車がひっきりなしに出入りしている。
アグレスが受付に警察手帳を見せながら言う。
「警察です」
「少しお話を伺いたいのですが」
受付の職員は少し驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。
「分かりました。担当の者を呼びます」
数分後。
エデンたちは病院の小さな会議室に案内された。向かいに座ったのは、病院の職員の男性だった。
「それで……」
「どのような件でしょうか?」
アグレスが資料を机に置く。
そこには死神事件の被害者5人の写真が並んでいた。
「この人たちについてです」
職員は写真を見る。
そして少し驚いた。
「……この方たち」
エデンが聞く。
「知ってるんですか?」
職員は頷いた。
「ええ」
「全員、この病院の患者でした」
リナが小声で言う。
「やっぱり……」
アグレスが続ける。
「この人たちには何か共通点がありますか?」
職員は少し考える。
そして資料を見ながら言った。
「そうですね……」
「確か」
資料をめくる。
数秒後――
「あ」
職員の表情が変わった。
「共通点があります」
エデンが身を乗り出す。
「何ですか?」
職員は答える。
「この5人全員――」
「緊急手術を受けています」
アグレスが眉をひそめる。
「緊急手術?」
職員は頷く。
「はい」
「交通事故に転落事故などで重度の外傷を負っていました」
エデンが言う。
「つまり、救急搬送されたってことですか」
職員は答える。
「そうです。この病院はこの地区の救急医療の中心ですから」
リナが聞く。
「その手術の担当医は?……」
「全員同じ医師です」
エデンたちが一斉に反応する。
「同じ?」
アグレスが身を乗り出す。
「誰ですか?」
職員は答える。
「この病院の医師です」
そして少し誇らしげに言った。
「天才外科医ですよ」
「この病院のエースです」
エデンが聞く。
「そんなにすごいんですか?」
職員は頷く。
「ええ、この先生は、先月ぐらいから医者になった新人なのに、緊急手術をほぼ確実に成功させるんです」
リナが驚く。
「新人でほぼ確実って……」
「そんなことある?」
職員は真剣な顔で言う。
「この先生が担当した重症患者の生存率は異常に高いんです。他の医師では助からないような患者でも助けてしまう」
カイトが静かに言う。
「……天才」
ドロイも資料を見る。
「確かに」
「統計上、かなり異常な数値ですね」
エデンが聞く。
「そのお医者さんの名前は?」
職員は答えた。
「ドクター・グレイ」
会議室に少し沈黙が落ちる。アグレスが静かに言う。
「被害者5人」
「全員、同じ医者に命を救われている」
エデンが呟く。
「そのあと」
「心臓をえぐられて殺されてる……」
リナが少し怖そうに言う。
「ねえ」
「これってさ……」
エデンも同じ考えに至っていた。
「まさか」
カイトが低く言う。
「……関係者」
ドロイも頷く。
「可能性はあります」
アグレスが職員に聞く。
「その医師、今どこにいますか?」
職員は少し驚いた顔をした。
「ドクター・グレイですか?」
「今は――」
カルテを確認する。
「手術中です」
エデンたちは顔を見合わせた。
もしこの事件に関係しているなら――
今この瞬間も
誰かの心臓を触っている医者かもしれない。




