死神事件
数日間の休養を勧められたエデンは、久しぶりに自宅へ戻っていた。
玄関の扉を開ける。
「ただいまー」
すぐに奥から声が返ってくる。
「おかえり、エデン!」
家族が出迎え、久しぶりの帰宅に少し賑やかな空気になる。
リビングで座りながら、家族と他愛もない話をする。
「最近どう?ECOでは」
エデンは少し笑いながら答える。
「まぁ、いろいろあったけど。なんとかやってるよ」
母親は安心したように笑った。
テレビの音、台所の匂い、他愛のない会話。ECOの任務とはまるで違う、束の間の平穏だった。
しばらくして――
「そうだエデン」
母親が言う。
「悪いんだけど、買い物お願いしていい?」
エデンは立ち上がる。
「いいよ」
メモを受け取る。
「近くのスーパーだよね?」
「うん、これだけ買ってきて」
エデンは軽く身支度を済ませ、玄関に向かう。
「行ってきまーす」
外に出ると、夕方の街は穏やかだった。
人の声、車の音、普通の街の風景。
(こういうの久しぶりだな)
その時、頭の中でケイが言う。
『平和な環境は貴重だ』
エデンは少し笑う。
(だよな)
そのままスーパーへ向かって歩いていると――
突然
「っ……!」
遠くで物音がした。それを聞いたエデンは足を止める。
(今の……)
物音は路地から聞こえる。
「くっ……!」
女性の声だった。
エデンはすぐに走る。
路地を曲がると――
そこにはエイリ星人がいた。そして、その前で倒れかけている一人の女性。警察の制服を着ている。
エイリ星人が女性に向かって腕を振り上げる。女性警官は防御姿勢を取るが、明らかに劣勢だった。
エデンは迷わずエイリ星人に向かっていく。
「やめろ!」
エイリ星人が振り向く。
その瞬間――
エデンは腕を構える。
「リミットフォース!」
体にエネルギーが流れる。
流れは以前よりも滑らかに力が集中する。
エイリ星人が飛びかかる。
だが――
エデンの拳が先に動いた。
「はぁっ!」
ドンッ!!
一撃。
エネルギーが爆発し、エイリ星人は吹き飛び、そのまま壁に叩きつけられ、動かなくなり消滅した。
静寂。
エデンは息を整える。
(……今の)
エデンは自身の腕を見る。以前のように能力を使用しても体が重くない。
ケイが言う。
『リミットフォースの出力制御が改善されている』
エデンは少し嬉しそうに言う。
(ほんとだ。前より負荷が軽い)
ケイが冷静に言う。
『君の調整が上達している証拠だ』
エデンは少し笑った。
(やった)
その時――
後ろから声がした。
「すごい……」
エデンが振り向く。さっき助けた女性警察官が立ち上がっていた。
彼女はエデンを見る。
「君、ECOの隊員だよね」
エデンは少し照れくさそうに答える。
「はい、まぁ……」
女性刑事は驚いた顔で言う。
「すごい力だ!エイリ星人を一撃で倒すなんて!」
エデンは少し頭をかいた。
「いや、たまたまです」
女性刑事は少し笑った。
「たまたまであんな戦い方はできないよ」
そして手を差し出す。
「助けてくれてありがとう。私はアグレス」
エデンはその手を握り返した。
「俺はエデンです」
アグレスはエデンをじっと見た。
「さっきの戦い。かなり慣れてたね」
エデンは少し困ったように笑う。
「まぁ……仕事なので」
アグレスは真剣な顔になる。
「.......ねぇ、エデン君、少し頼みがあるんだけど」
エデンが少し驚く。
「頼み?」
アグレスは周囲を一度確認してから言った。
「今、私たち警察で追っている事件があるんだけどね」
「その名前は――」
少し声を落とす。
「死神事件」
エデンが眉をひそめる。
「死神事件?」
アグレスは頷いた。
「先月からこの地区で不可解な殺人事件が続いてる」
「被害者は全員同じような状態で発見されてて」
エデンは黙って聞く。
アグレスは続けた。
「目撃者の証言では、犯人は黒い影のように現れて」
「一瞬で人を殺す」
「そして消える」
エデンの頭の中でケイが静かに呟く。
『……興味深い』
アグレスはエデンを見る。
「警察はずっと追ってる」
「でも」
少し悔しそうに言う。
「まったく捕まえられない」
そしてエデンの方に一歩近づく。
「さっきの君の戦いを見て思った。君は普通じゃない力を持ってる。だから」
真剣な目でエデンの手を握り、言った。
「捜査に協力してほしい」
エデンは一瞬驚く。
「え?」
アグレスは手を離し、話を続ける。
「もちろん正式な捜査員じゃなくていい」
「少し情報を共有して力を貸してくれれば」
エデンは少し考えた後、首を横に振った。
「……すみませんそれはできません」
アグレスが少し驚く。
「どうして?」
エデンは真面目な顔で言う。
「ECOにはルールがあります。普通の人間による犯罪には関与しない」
「それは警察の管轄だから」
アグレスは黙る。
エデンは続けた。
「エイリ星人や進化個体なら別ですけど」
「人間の事件にはECOは動けないんです」
アグレスは少し困った顔をする。
「そうか……」
しばらく沈黙。
その時、
エデンの頭の中でケイが言う。
『エデン』
エデンは心の中で答える。
(なに?)
ケイは冷静に言った。
『その刑事の話』
『一つ気になる点がある』
エデンが少し意識を向ける。
(気になる点?)
ケイは短く言った。
『犯人が一瞬で現れて消える』
『人間の犯罪としては不自然だ』
エデンは少し目を細める。
(つまり?)
ケイは静かに言う。
『この事件。人間だけが関係しているとは限らない』
エデンは少し考え込む。
その様子を見て、アグレスが言った。
「……やっぱり無理かな」
エデンはまだ答えず、少しだけ考えていた。
エデンが少し考え込んでいると、アグレスが静かに口を開いた。
「……エデン君」
エデンは顔を上げる。
「はい?」
アグレスは真剣な表情だった。
「君はさっき言ったね。ECOは普通の人間の犯罪には関与しないって」
エデンは頷く。
「はい」
アグレスは少し間を置いてから言った。
「でもね。私は、この事件の犯人が普通の人間だと思ってない」
エデンの表情が少し変わる。
「え?」
アグレスは腕を組み、路地の奥を見る。
「警察はまだ確証がないから、公式には言えない。でも、現場を何度も見てきた私の感覚ではどう考えてもおかしい」
エデンは静かに聞く。
アグレスは指を立てながら言う。
「まず被害者の傷、刃物でも銃でもない」
「なのに一瞬で致命傷になっている」
そしてもう一つ。
「次に目撃証言、犯人は突然現れてそして影みたいに消える」
エデンの頭の中でケイが言う。
『やはりな』
アグレスは続ける。
「それに現場には」
少し声を落とす。
「人間じゃない痕跡がある」
エデンが聞く。
「人間じゃない痕跡?」
アグレスは頷いた。
「説明できないエネルギー反応と霧だ」
「エネルギー反応と霧?」
エデンは困惑する。
「現場には、警察の機材じゃ特定できないエネルギー反応と、不自然な霧が発生していたんだ」
アグレスはゆっくり言う。
「これらの情報から、もしかしたらこの事件は、人間の事件じゃない可能性もあるとは思わない?」
エデンは黙る。
ケイが静かに言う。
『その刑事の推測は合理的だ』
エデンは心の中で聞く。
(やっぱり?)
ケイは続ける。
『現象が人間の能力を超えている。もし事実なら、ECOの管轄に入る可能性がある』
エデンは黙る。
アグレスは言った。
「もちろん、ただの勘かもしれない」
「でも」
少し悔しそうに言う。
「警察だけじゃ解決は出来ないかもしれない」
そしてエデンに向き直る。
「だからもしこの事件にエイリ星人が関わっているなら」
「少しでいい力を貸してくれないか」
エデンは答える
「わかりました。協力します」
アグレスは驚く。
「本当に、協力してくれるのか?」
「もし、エイリ星人が関わっているなら、見過ごせない」
エデンは真剣な表情で言う。
夕方の路地に静かな風が吹いた。




