そう言えば言ってなかった
アモリス支部襲撃事件から、数日後――。
ECO支部の教室。
黒板の前に立つ天記が、チョークで式を書いていた。
「つまり、このエネルギー波形がラベジニウムの出力変換に影響して――」
教室の机にはエデン、ジエル、そして亜爆が座っている。
だが、エデンはノートを取りながらも、どこか上の空だった。
(エイリワス……)
頭の中に、あの研究室での言葉がよみがえる。
「君のそのインターフェースを埋め込んだのは私だ」
拳がわずかに握られる。
(あいつ……)
天記が黒板の前で振り向く。
「エデン君?」
「聞いてる?」
エデンはハッとする。
「あ、うん!」
「聞いてます!」
ジエルが横でニヤニヤする。
「ぜってー聞いてねぇな」
「聞いてるって」
エデンが小声で言い返す。
亜爆は静かにノートを取っていた。
やがて――
「今日はここまでにしようか」
天記がチョークを置く。
「授業終了」
ジエルが大きく伸びをする。
「やっと終わった」
亜爆はノートを閉じる。
エデンは席に座ったまま、少し考えていた。
(そういえば……)
頭の中で声がする。
『どうした?』
エデンは心の中で答える。
(そう言えば俺、ケイのことみんなに言ってなかった)
少し間が空く。
ケイが答える。
『……確かにそうだな』
(みんなに言ってもいい?)
少しだけ沈黙。
そしてケイが言う。
『構わない。隠す理由もないだろう』
エデンは立ち上がる。
「みんな」
ジエルが振り向く。
「ん?」
天記も見る。
亜爆も顔を上げた。
エデンは少しだけ言いにくそうに言う。
「俺さ、実は、ラベジニウムの中に」
少し間を置く。
「意思があるんだ」
ジエルが眉をひそめる。
「……は?」
天記も首を傾げる。
エデンは続けた。
「名前はケイって言って、俺と話せるんだ」
教室が一瞬静かになる。
エデンは少し不安になる。
(やっぱり信じてもらえないかも……)
だが――
天記がすぐに言った。
「なるほど」
エデンが驚く。
「え?」
天記は普通に頷く。
「エデン君は嘘をつくような人じゃないからね」
ジエルも腕を組む。
「まぁ」
「そのラベジニウム、なんか能力複数あるっぽいしな」
エデンを見る。
「意思もってても不思議じゃねぇだろ」
エデンが少し拍子抜けする。
「……え、信じるの?」
亜爆も静かに頷いた。
「そういう存在がいても不自然ではないと思います」
天記が笑う。
「むしろ面白いね」
ジエルがニヤッとする。
「で?」
「そのケイってやつ」
「どんな奴なんだ?」
エデンは少し笑った。
「結構冷静なやつ」
その瞬間、
頭の中で声がする。
『余計なことは言うな』
エデンが思わず笑う。
ジエルが不思議そうに見る。
「なに笑ってんだ?」
エデンは首を振る。
「いや」
「今ケイが喋った」
天記が興味深そうに身を乗り出す。
「へぇ」
「それはぜひ会話してみたいね」
エデンの頭の中でケイが呟く。
『騒がしい連中だな』
しかしその声には、
どこか嫌そうではない響きもあった。
そうしていると支部の職員が教室に入ってきた。
「エデン隊員、ジエル隊員、亜爆隊員はいらっしゃいますか?」
三人が反応する。
「はい?」
職員は丁寧に言った。
「お三方にお伝えしたいことがあります」
天記が少し首を傾げる。
「何かあったんですか?」
職員は頷く。
「実は」
「アモリス地区の区長が、お三方にお会いしたいとのことです」
ジエルが眉を上げる。
「区長?」
エデンも少し驚く。
「俺たちに?」
職員は説明する。
「先日のアモリス支部襲撃事件の件です」
「お三方が事件の解決に関わったと聞き」
「直接お礼と話をしたいそうです」
亜爆が静かに言う。
「なるほど?」
ジエルは少し面倒そうに頭をかく。
「役所の人間か……」
エデンは天記を見る。
「行った方がいいのかな」
天記は少し考え、
そして頷いた。
「区長さんが呼んでいるなら」
「行った方がいいだろうね」
ジエルが立ち上がる。
「まぁいいか。行こうぜ」
亜爆も席を立つ。
「では向かいましょう」
エデンも頷いた。
「うん」
三人は教室を出る準備をする。
その時、
エデンの頭の中で声がする。
『区長か』
エデンは心の中で答える。
(うん)
(なんか用事みたい)
ケイは少し考えるように言った。
『……妙だな』
エデンが少し驚く。
(え?)
ケイは静かに続ける。
『ただ礼を言うだけなら、わざわざ三人を呼ぶ必要はない。何か別の目的がある可能性が高い』
エデンは少し不安になる。
(そうなのかな)
ケイは落ち着いた声で言った。
『行けば分かるだろうな』
『しかし注意しておけ』
エデンは小さく頷いた。
「……うん」
そして三人は、
アモリス地区の区長に会うため
支部の建物を後にした。




