次なる計画
エデンの意識がゆっくりと戻る。
「……ん」
ぼやけた視界の中、天井が見えた。
ここは――
教室だった。
隣から声がする。
「……チッ、頭いてぇ」
ジエルも目を覚ましていた。
その様子を見て、目の前にいた天記が身を乗り出す。
「二人とも!」
「大丈夫だった?」
エデンは体を起こしながら答える。
「はい……なんとか」
ジエルも首を回す。
「生きてる」
その時、教室の奥にいた時輪もこちらを見た。
「目が覚めたか」
エデンはすぐに思い出す。
「そうだ、白寄さんが――」
ジエルが言葉を引き取る。
「あいつ」
「あの白寄って研究員」
少し苛立ったように言う。
「エイリ星人だった」
天記が目を見開く。
「……何?」
エデンが続ける。
「名前はエイリワス」
「自分のことをエイリ星人の王だって言ってた」
教室の空気が少し重くなる。
ジエルも続けた。
「あいつの目的は進化だ」
「生命の進化を研究してるとか言ってた」
「それで俺たちを研究対象だって」
話を聞いた時輪は腕を組む。
「……なるほど」
数秒の沈黙の後、時輪が口を開く。
「実はこちらも調べていた」
エデンが振り向く。
「何かわかったんですか?」
時輪は頷く。
「地下の研究区画に、不自然な部屋が作られていた」
エデンが反応する。
「不自然?」
「研究用途にしては妙な構造だった」
時輪は続ける。
「そしてそこからエイリ星人の痕跡も見つかった」
ジエルが言う。
「……ってことは」
時輪は静かに答えた。
「おそらく」
「あそこにエイリ星人を忍ばせていたのだろう」
天記が眉をひそめる。
「じゃあ研究者たちは?」
時輪は答える。
「現在、研究者は全員別棟の研究室に避難している」
それを聞いたジエルとエデンが同時に反応する。
「……全員?」
ジエルが聞き返す。
時輪は少し間を置いた。
そして静かに言う。
「正確には」
「全員ではない」
エデンが首を傾げる。
「え?」
時輪は二人を見る。
そして告げた。
「白寄という研究者はこの世にいない」
エデンが驚く。
「存在しないってことですか?」
時輪は首を横に振った。
「いや」
その声は重かった。
「白寄研究員は既に死んでいる」
教室の空気が一瞬で凍りつく。
エデンが思わず聞き返す。
「……え?」
「死んでるって……どういうことですか」
時輪は静かに続ける。
「白寄という研究員は確かに存在していた」
「だが」
「資料によれば、三年前に事故で死亡している」
ジエルの表情が険しくなる。
「じゃあ俺たちが会ったあいつは……」
時輪は淡々と答えた。
「エイリワスが成り代わっていたのだろう」
エデンの背中に冷たいものが走る。
「成り代わる……」
天記も言葉を失っていた。
「あの人……普通に研究員として話してましたよ」
時輪は頷く。
「恐らく長期間潜伏していた」
「研究施設の内部情報も完全に把握していた」
ジエルが腕を組み、舌打ちする。
「……だからエイリ星人を施設の中に忍ばせられたってわけか」
エデンは黙っていた。
頭の中で
さっきの言葉が何度も響く。
「君の目的は何だ?」
「流されてきただけだろう。」
その様子を見て察したジエルが突然立ち上がる。
「……あーもう」
腕をぐっと伸ばす。
「気にすんなエデン」
エデンが顔を上げる。ジエルはいつもの調子で言った。
「ああいう奴は人のこと揺さぶるのが得意なんだよ」
「研究者とか言ってたしな」
そして少し笑う。
「だいたい王様がコソコソ潜入してる時点でロクなやつじゃねぇ」
静かに椅子から立ち上がる亜爆は腕を組みながら周囲を見渡す。
「状況は理解しました」
落ち着いた声で言う。
「エイリワスはすでに研究区画から離れてます」
「しかし」
少し間を置く。
「まだ支部内にいる可能性は十分にあります。エレベーターの前で待機していた時に、エイリワスと思われる研究員を見ました。どっちに向かったかも分かります」
周りを見る。
「今のうちに」
「支部内を捜索するべきではないでしょうか」
ジエルがすぐに反応する。
「賛成だな」
「見つけたら今度こそ逃がさねぇ」
ECO支部の中を、エデンたちはくまなく捜索した。
研究区画、通路、格納庫、訓練室――
隠れられそうな場所はすべて確認していく。
ジエルが壁にもたれながら舌打ちする。
「……いねぇな」
天記が端末を見ながら言う。
「監視カメラの記録にもそれらしい姿は映ってない。監視カメラがどこにあるか分かっているのかも」
亜爆も周囲を確認しながら静かに言った。
「かなり時間も経ったし、既に支部を離れた可能性が高いですね」
エデンは廊下の奥を見つめる。
「……」
さっきまで確かにいたはずなのに、まるで最初から存在しなかったかのようだった。
時輪が無線越しに告げる。
「こちらでも確認した」
「支部内にエイリワスの反応はない」
ジエルがため息をつく。
「逃げられたか」
エデンは拳を軽く握る。
「……またどこかに潜伏する気かな」
時輪の声が続く。
「可能性は高い」
「だが」
「エイリワスの目的は進化の研究だ」
「必ずどこかで動く」
ジエルがニヤッと笑う。
「なら」
「その時に叩くだけだ」
その頃――
ECO支部から離れた場所。
夜の街を見下ろす高い建物の屋上に、
白衣の男が立っていた。
エイリワス。
風に白衣が揺れる。
彼は静かに街を見下ろしていた。
「……やはり」
「まだ未熟だ」
エデンとジエルの姿を思い出す。
だがその目は興味に満ちていた。
「だが」
「可能性はある」
ゆっくりと空を見上げる。
「進化とは」
「圧力によって促進されるもの」
エイリワスは静かに呟く。
「ならば」
「より強い圧力を与えようではないか」
その目が赤く光る。
「次の段階だ」
彼は端末を取り出す。
画面には、
新たな計画の設計図が表示されていた。
「エミット・エデン」
「ジエル・レート」
わずかに笑う。
「君たちの進化」
「楽しみにしているよ」
夜の闇の中で、
エイリワスの姿は静かに消えていった。
次なる計画を胸に――。




