研究と王
右の通路。
白寄の案内で、エデンとジエルはエネルギー研究室へ向かっていた。
廊下には大型のケーブルやエネルギー制御装置が並んでいる。研究区画特有の機械音が低く響いていた。
やがて――
白寄が立ち止まる。
「ここです」
扉の上にはエネルギー研究室と表示されていた。白寄が端末にカードを通す。
ガシュッ
扉がゆっくり開いた。
中には大型の解析装置、エネルギータンク、計測機器が並んでいる。
だが――
ここにもやはり人の姿はない。
ジエルが言う。
「……ここもか」
エデンも周囲を見回す。
「研究区画なのに、誰もいないなんて」
白寄は少し申し訳なさそうに言った。
「申し訳ありません」
「本来なら研究員が数人いるはずなのですが」
ジエルは機械の近くに近づく。
「まぁいい」
「とりあえずエイリ星人の痕跡がないか調べるぞ」
エデンも頷いた。
「はい」
三人は研究室の中を調べ始める。
エデンは床や壁を確認する。
「ここも、破壊跡はない....」
ジエルは装置の端末を見ながら言う。
「エネルギー反応も特に異常はねぇか……」
白寄も棚のデータパッドを確認していた。
「研究データも問題ありません」
しばらく沈黙が続く。
エデンがふと聞いた。
「白寄さんって、ここで何を研究してるんですか?」
白寄は振り向く。
「エネルギー転換技術です」
「主に、外部エネルギーを安全に変換する研究ですね」
ジエルが言う。
「外部エネルギーって?」
白寄は説明する。
「例えば未知のエネルギーや異星由来のエネルギーです」
「そのままでは危険なものを、安全に制御できるようにする研究ですね」
エデンが少し驚く。
「すごい研究ですね」
白寄は控えめに笑った。
「いえ、まだ実験段階ですが」
その時。
ジエルが床を見て言う。
「……ん?」
エデンが振り向く。
「どうしたの?」
ジエルは床の一点を指さした。
そこには――
ほんのわずかな黒い粉のようなものが落ちていた。
エデンがしゃがんで見る。
「これ……」
ジエルが低く言う。
「エイリ星人の残骸だ」
エデンの目が鋭くなる。
「やっぱり来てたんだ」
白寄も近づいてきた。
「本当ですか?」
ジエルは頷く。
「戦闘で倒したエイリ星人は、消滅するときこういう粒子を残す」
エデンが言う。
「ってことは、この研究室にもエイリ星人が――」
その時。
研究室の奥で白寄は静かに研究室の扉を見ていた。
そして――
ゆっくりとロックが作動した。
ガシャン
研究室の扉が完全に閉鎖された。
エデンが振り向く。
「え?」
ジエルがすぐに反応する。
「はっ?」
扉へ駆け寄り、操作パネルを叩く。
「開かねぇ」
エデンも端末を確認する。
「白寄さん!これは――」
しかし。
白寄は動かなかった。扉の横に立ったまま、静かに二人を見ている。
エデンの胸に嫌な予感が走る。
「……白寄さん?」
白寄は眼鏡を指で軽く押し上げた。
「ここまで綺麗に誘導できるとは....」
その言葉は冷たかった。
その声に何かを感じたジエルは声が低くなる。
「お前、誰だ」
エデンがハッとする。
ジエルは一歩前に出る。
「エイリ星人か?」
白寄はしばらく沈黙したあと、静かに眼鏡に手をかけた。
そして――ゆっくりと外す。
その瞬間、彼の瞳がわずかに赤く光る。人間とは違う、冷たい光だった。
エデンが息をのむ。
「……!」
白寄は笑いながら言う
「そうだ、私は人間ではない」
その声は落ち着いていたが、先ほどまでの研究員のものとは違う。
白寄はゆっくりと両手を広げる。
そして静かに名乗った。
「エイリワス、エイリ星人だ」
エデンの表情が変わる。
「エイリワス……!」
白寄――いや、エイリワスは穏やかな声で続ける。
「私は研究者でもあり」
一歩、二人に近づく。
そして静かに言い放つ。
「王でもある。」
少し間を置き、
冷たい笑みを浮かべる。
エデンが驚く。
「王……!?」
ジエルの目がさらに鋭くなる。
「……どういうことだ」
エイリワスは淡々と続ける。
「私は進化というものを研究している」
「生命は常に進化する」
「だが自然の進化は遅すぎる」
その目が鋭く光る。
「だからこそ私は」
「進化を加速させる研究をしている」
そしてエデンとジエルを見つめた。
その視線はまるで実験対象を見る研究者そのものだった。




