地下研究区画
地下へ続くエレベーター前。
時輪、天記、エデン、ジエルの四人が集まっていた。
そこへ 亜爆 が静かに声をかけた。
「私はここに残ります」
エデンが振り向く。
「え?」
亜爆は落ち着いた様子で続ける。
「先ほどの戦闘で外壁が破壊されてるでしょう。もし別のエイリ星人が外から侵入すれば、ここが無防備になります」
ジエルが腕を組む。
「一人で大丈夫なんですか?」
亜爆はわずかに微笑んだ。
「ご心配なく。警戒任務には慣れてるんで」
時輪が短く頷く。
「合理的な判断だ。亜爆、地上警戒を任せる」
亜爆は軽く頭を下げた。
「承知しました」
「どうかお気をつけて」
エレベーターの扉が閉まる。四人はそのまま地下へ降りていった。
地下研究区画
扉が開くと、静まり返った廊下が現れた。白い壁、整然と並ぶ研究室。
だが――
人の気配がほとんどない。
エデンが小声で言う。
「……静かすぎない?」
ジエルも周囲を見回す。
「研究区画って普通もっと人いるだろ」
天記が端末を操作する。
「うん、本来ならこの時間帯は研究員が十人以上いるはずなんだけど」
時輪は床や壁を観察していた。
「戦闘の形跡はないな」
壁も設備も無傷。
破壊痕も血痕もない。
エデンは白い壁にそっと触れた。
「エイリ星人に襲われたなら、もっと荒れてるはずですよね」
天記は頷く。
「避難したにしても、不自然なくらい静かだ」
ジエルが低く言う。
「……妙だな」
時輪は奥の通路を見る。
四人は研究区画の奥へ歩いていく。
しばらく進んだ時。
一つの研究室の扉が開いた。
中から白衣を着た男が出てくる。
三十代ほどの研究員。眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の人物だった。男は四人を見ると少し驚いた表情を浮かべる。
「おや」
「戦闘部隊の方々ですか」
天記が前に出る。
「ええ。研究区画の状況確認に来ました」
研究員は頷いた。
「そうでしたか」
「地上が少し騒がしかったので、何かあったのかと思っていました」
エデンが聞く。
「ここ、他の研究員はいないんですか?」
研究員は少し考えるようにして答える。
「ええ」
「先ほど別棟の研究室に呼ばれていまして.....この区画には、今は私しかいないはずです」
時輪が鋭い目で男を見る。
「名前は」
男は礼儀正しく軽く頭を下げた。
「申し遅れました」
「私は――」
「白寄 と申します」
白寄と合流した後。五人は研究区画の奥へと進んでいた。静まり返っている廊下の中で機械の作動音だけが微かに響いていた。
エデンが小声で言う。
「本当に誰もいませんね……」
天記も周囲を見渡す。
「研究員が全員別棟に行くなんて、そんな偶然あるかな」
先頭を歩いていた時輪が足を止めた。
その先で廊下が――
左右に分かれていた。T字路だった。白寄が少し考えるように周囲を見る。
「この先は研究区画の中心部です」
「左が生体研究室、右がエネルギー研究室ですね」
天記が言う。
「両方確認した方がよさそうだね」
白寄は頷いた。
「でしたら、二手に分かれた方が効率的でしょう」
そう言いながら、自然な口調で続ける。
「時輪隊員と天記隊員は左へ」
「生体研究室は設備が多いので、専門知識のある天記隊員がいた方が良いでしょう」
天記は確かに、と納得したように頷く。
白寄は次にエデンとジエルを見る。
「エネルギー研究室は右です」
「私もそちらの研究区画に所属していますので、案内できます」
「ですから」
白寄は落ち着いた声で言った。
「ジエル隊員とエデン隊員は、私と一緒に右へ」
ジエルが腕を組む。
「……なるほどな」
エデンは少し考えるが、時輪を見る。
時輪は短く頷いた。
「問題ない」
天記も言う。
「何かあれば通信する」
白寄は軽く頭を下げた。
「では、こちらへ」
白寄は右の通路へ歩き出す。エデンとジエルもそれに続いた。
そして――
三人の背中を見送りながら、時輪はわずかに眉をひそめた。
天記が小声で聞く。
「どうしたんですか?」
時輪は短く答える。
「……違和感がある」
「だが、まだ確証はない」
一方――
右の通路。
白寄の表情はエデン達からは見えない位置でわずかに歪んでいた。
まるで――
計画通りだと言うように。




