予感
アモリス支部の会議室。
任務の連絡は相変わらず来ない。
だが、ジエルは珍しく真面目な顔をしていた。
机に肘をつき、三人を見る。
「……ちょっといいか」
エデンが顔を上げる。
天記も椅子に座り直した。
亜爆は壁にもたれながら静かに聞く姿勢を取る。
「なんだい?」
天記がいつもの柔らかい口調で聞く。
ジエルは腕を組んだ。
「エリア・ベヘモトの任務」
その言葉で空気が少しだけ重くなる。
「覚えてるよな」
エデンはうなずいた。
「……ああ」
ジエルは続ける。
「アイツら」
「俺達の能力、知ってたよな」
沈黙。
天記がゆっくり息を吐く。
「……そうだね」
「やっぱり、僕も気になってたよ」
天記は少し遠くを見るような目をした。
「あの任務は……」
「正直、僕達には重すぎた」
エデンが少し驚く。
天記が弱気なことを言うのは珍しい。
「エデン」
天記は穏やかに言った。
「君はまだECOに入って間もない」
「本来なら、あの任務を受ける段階じゃなかったんだ」
「新人が行くような場所じゃない」
エデンは少し視線を落とす。
ジエルがすぐに言う。
「でも行った」
「しかも俺らの能力をピンポイントで対策してきた」
ジエルの目が鋭くなる。
「つまりだ」
「ECOの内部情報が漏れてる可能性がある」
その言葉に、部屋の空気が冷えた。
天記も否定しない。
「……あり得るね」
「能力の情報は基本的に外部には出ないはずだから」
その時だった。
エデンがハッとする。
「……あ」
ジエルが見る。
「どうした?」
エデンは少し迷ってから言った。
「俺……」
「インターフェースがあるだろ」
自分の右手に手を当てる。
「これ」
「誰かに付けられたんだ」
ジエルが眉をひそめる。
「......付けられた?」
エデンは続けた。
「俺は覚えてないけど……」
「もし、その人物が関係してるなら……」
「情報が漏れてる可能性もある」
沈黙。
天記は少し考えるような顔をした。
「……なるほど」
「確かにゼロじゃないね」
ジエルは頭をかく。
「でもよ」
「そんなピンポイントで能力情報抜けるか?」
エデンは小さく言う。
「……わからない」
「でも、他に思いつかないんだ」
その時だった。
横から静かな声が入る。
「……あの」
三人が振り向く。
亜爆だった。
腕を組んだまま、少し困った顔をしている。
「この話」
少し間を置く。
「私、必要ですか?」
三人が固まる。
ジエルが「あ」と声を出す。
天記が苦笑する。
「そういえば」
「亜爆くん、まだ来たばかりだったね」
亜爆は淡々と言う。
「はい」
「エリア・ベヘモトの件も」
「能力情報がどうこうという話も」
「初耳です」
ジエルが頭を抱える。
「しまった」
「普通に巻き込んでた」
亜爆は小さく肩をすくめる。
「まぁ構いませんけど」
「機密なら席を外しますが」
天記が手を振る。
「いやいや、大丈夫だよ」
「どうせ同じ支部の隊員だしね」
ジエルが言う。
「ただの推測だしな」
亜爆は少しだけ考えた。
「……なるほど」
「内部情報が漏れている可能性ですか」
「それなら」
窓の外を見る。
夜のアモリス地区。
街の明かりが遠くに見える。
「もし本当に漏れているなら」
「敵は次に何をしますかね」
ジエルが答える。
「決まってる..」
「もっとデカい情報を取りに来る」
亜爆が静かに言う。
「そうだな」
「例えば――」
少しだけ間。
「支部そのものを襲う、とか」
その言葉にエデンが一瞬だけ背筋を冷たくした。
外では風が強くなっていた。
窓がカタ…と小さく鳴る。
誰も気づいていない。
アモリス支部の遥か上空。
黒い影が
静かに
ゆっくりと近づいていることを。
そして――
それはもう
すぐそこまで来ていた。




