守るための経験
カティアは血刃を睨みつけたまま、ふんと鼻を鳴らした。だが、すぐに視線をエデンたちへと移すと、今度は別の不満を口にした。
「ていうか何で、こんなに連れてきてるの? 一人だけ連れてくるって言ってたじゃない」
「いや、それはじゃな……」
「言い訳は後でいいわ」
血刃が説明しようとするのを遮り、カティアは四人を上から下まで眺めた。
値踏みするような視線だった。エデンは思わず背筋を伸ばし、緋山も先ほどまでの明るい表情を引っ込める。シオンは静かにカティアを見返し、フルトは緊張した面持ちで立っていた。
やがて、カティアは腕を組んだまま尋ねた。
「あんたら、ランクは?」
「俺はB-8です」
エデンが答えると、カティアの眉がわずかに動いた。
「ぼくたちは全員、D-9です」
シオンが続ける。緋山とフルトも、それぞれ自分たちのランクを伝えた。
四人の返答を聞いたカティアは、一瞬だけ言葉を失った。
そして、次の瞬間。
「はあ!? こんな危険な任務にDランク連れて来たの?」
訓練室でも聞いたことがないほどの大声が、山の入り口に響き渡った。
「バカなの? ランクBやA相当のエイリ星人がいるって説明を受けてないわけ? 進化個体になりかけのやつまでいるのよ!」
「えっと……」
エデンが何か言おうとしたが、カティアの勢いに押されて言葉が出てこなかった。
「死んだらどう責任取るのよ!」
カティアは血刃に詰め寄った。先ほどまでのせっかちな態度とは違う。声には明確な怒りがこもっていた。
「こいつらはまだ経験も浅いんでしょ? そんな連中を連れてくるなんて、何を考えてるのよ!」
血刃は黙ってカティアの言葉を聞いていた。
エデンたちは顔を見合わせた。
確かに、彼女の言うことにも一理ある。ランクBやA相当のエイリ星人を相手にするのは、Dランクの隊員にとって危険な任務だ。自分たちが力不足であることは、昨日までの訓練でも十分に理解していた。
それでも、ここまで真正面から拒絶されるとは思っていなかった。
緋山は何か言いたげに唇を結び、シオンはカティアの反応を慎重に見極めている。フルトは俯きかけたが、すぐに顔を上げた。
自分たちが弱いからこそ、強くなるためにここにいる。
その思いまで否定されたくはなかった。
だが、四人が口を開くより先に、血刃が静かに声を発した。
「カティア」
その声に、先ほどまでの気安さはなかった。
血刃はカティアをまっすぐに見つめていた。いつも浮かべている穏やかな表情は消え、長年にわたって戦場を経験してきた者の真剣な眼差しが、その顔に浮かんでいた。
「こいつらは、人を守るためにECOに入った」
カティアは言葉を止めた。
血刃は続ける。
「誰かを守れる程強くなるためには経験がいる」
その言葉を聞き、エデンは血刃の横顔を見つめた。
昨日までの訓練を思い出す。何度も構えを直され、攻撃を受け流す練習を繰り返した。連携を教えられたのも、一人ひとりの実力を上げようとしていたのも、すべては実戦で仲間を守れるようにするためだった。
血刃は四人を振り返ることなく、カティアに言葉を投げかけた。
「いつまでも安全な場所にいては誰も守れんだろ」
山から吹き下ろす風が、五人の間を通り抜けていった。
カティアは血刃を睨んだまま、何も言わなかった。
彼女が心配しているのは、Dランクの四人が危険にさらされることだ。実力の足りない者を戦場へ連れていけば、命を落とす可能性がある。その危険を無視するつもりはないのだろう。
しかし、血刃もまた、彼らがただ守られるだけの存在であり続けることを望んではいなかった。
力をつけるには経験がいる。経験を積むには、いつか危険な場所へ足を踏み入れなければならない。
その一歩を、彼らは今、踏み出そうとしているのだ。
しばらくして、カティアは視線を逸らした。
「……ふん、じゃあ勝手にしなさい」
吐き捨てるように言うと、彼女は腕を組み直した。
納得したわけではない。少なくとも、表情を見る限りでは不満が残っているようだった。それでも、これ以上血刃と言い争うつもりはないらしい。
血刃は小さく息を吐いた。
「助かる」
「勘違いしないで。危険な目に遭わせていいって言ったわけじゃないから」
カティアは鋭い視線を四人へ向けた。
「自分の実力を過信しないこと。指示には従うこと。勝手な行動を取ったら承知しないわよ」
「は、はい!」
エデンたちは揃って返事をした。
カティアはそれ以上何も言わず、山の奥へと視線を向ける。
その先には、強力なエイリ星人が潜むエリア・アガレスが広がっている。
先ほどのやり取りで、エデンたちは改めて自分たちが置かれている状況を理解した。
ここは訓練室ではない。失敗すれば、本当に命に関わる場所なのだ。
それでも、引き返すつもりはなかった。
エデンは隣に立つ緋山たちを見てから、山の奥へと目を向けた。
(経験を積んで、強くなる。誰かを守れるように)
そのための任務が、いよいよ始まろうとしていた。




