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エデン  作者: ko-da
第2部 5章 恐怖と剣編

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カティア

任務の概要を説明し終えた血刃(けつば)は、ふと思い出したように四人を見渡した。

「そうじゃ、お前たち、武器はいるか?」

突然の問いかけに、エデンたちは顔を上げた。

「もし、何か必要ならわしが掛け合おう」

血刃はそう言って、壁に立てかけられた木刀へ目を向けた。昨日の訓練では、それぞれが自分に合った武器を使っていた。任務の内容を考えれば、武器を用意しておくに越したことはない。

もっとも、武器を使うかどうかは本人の戦い方にもよる。血刃は無理に勧めるつもりはないらしく、四人の返事を待った。

最初に答えたのはエデンだった。

「俺はいいです」


「そうか」

血刃は短く頷いた。

エデンは普段から素手で戦っている。ラベジニウムの能力を使い分けながら戦う彼にとって、余計な武器を持つことは、かえって動きの妨げになる可能性があった。

続いて、緋山(ひやま)が元気よく手を挙げた。

「棍棒も中々良かったけど、やっぱり素手がやりやすいです!」

昨日の訓練では棍棒を選んでいた緋山だったが、実際に使ってみて、自分には素手の方が合っていると感じたらしい。彼女は両手を握ったり開いたりしながら、いつもの明るい笑顔を浮かべていた。

「わかった。では、シオンはどうじゃ?」

血刃が尋ねると、シオンは少し考え込んだ。

昨日の訓練では槍を使い、弾力膜を組み合わせた攻撃で血刃の体勢を崩すことにも成功していた。武器と能力の相性は悪くない。むしろ、使い方次第では大きな強みになるだろう。

「ぼくは、槍がいいかも」


「槍じゃな。よし、手配しておこう」

血刃は迷うことなく答えた。

そして、最後にフルトへ視線を向ける。

「お前はどうする?」

フルトはすぐには答えなかった。

視線がわずかに下がり、両手が落ち着かなさそうに動く。

彼にとって、剣は単なる武器ではなかった。家での訓練、兄弟たちとの比較、そして自分が剣をうまく扱えなかったという記憶。剣を握るたびに、そうした過去が頭をよぎっていた。

けれど、昨日の訓練で木剣を振るい、血刃の攻撃に立ち向かったことで、少しだけ考え方が変わっていた。

怖いからといって、避け続ける必要はない。

恐怖を抱えたままでも、前へ進むことはできる。

フルトは一度息を吸い、顔を上げた。

「剣……剣でお願いします」

声にはまだ迷いが残っていた。それでも、言葉を最後まで口にすることができた。

血刃はフルトをじっと見つめたあと、ゆっくりと頷いた。

「よかろう。剣を用意させよう」

その返事を聞き、フルトの表情がほんの少し和らいだ。

自分から剣を望んだのは、いつ以来だろうか。

まだ、剣を恐れなくなったわけではない。明日の任務で本当に使えるのか、不安も残っている。それでも、自分で選んだのだ。

エデンはそんなフルトの横顔を見て、静かに微笑んだ。

それぞれが、自分に必要なものを選んだ。

あとは、明日の任務でそれをどう生かすかだ。

血刃は四人を見渡すと、改めて表情を引き締めた。

「武器の手配はこちらでしておく。明日に備えて、今日はしっかり休んでおけ」


「はい!」

四人の返事が訓練室に響いた。

明日、彼らはブウタ地区のエリア・アガレスへ向かう。

その先に何が待っているのか、まだ誰も知らなかった。


当日。ブウタ地区、エリア・アガレス。

山岳地帯の入り口には、鬱蒼とした木々が生い茂り、その奥には険しい山道が続いていた。ところどころに大きな岩が転がり、木々の隙間から見える斜面は急勾配になっている。人の手がほとんど入っていないのか、周囲には自然のままの荒々しさが残っていた。

その入り口へ向かって、五人の人影が歩いていた。

エデン、緋山、シオン、フルト。そして、先頭を歩く血刃虎三。

血刃は時計を確認すると、眉間に皺を寄せた。

「まずいな、ちょっと遅れとる」


「あれ?」

緋山がスマートフォンを取り出し、時刻を確かめる。

「いや、遅れてないですよ? このままいけば四分前には着きます」


「うーむ……まあ、そうなんじゃが」

血刃はどうにも釈然としない様子で唸った。

「その、支部長はちょっと……いや、かなりせっかちでの」


「せっかち?」

エデンは思わず呟いた。

集合時刻より四分も早く着く予定なのに、それでも遅れていると言われるのか。エデンには、支部長がどれほど時間に厳しい人物なのか、まったく想像がつかなかった。

(どんな人なんだろう……)

エデンがそんなことを考えているうちに、五人は山岳地帯の入り口へとたどり着いた。

そこには、すでに二人の男が待っていた。

どちらも屈強な体格をしている。一人は腕にいくつもの傷跡が刻まれた男で、立っているだけでも鍛え抜かれた肉体が目を引いた。もう一人は眼鏡をかけた男で、こちらも身体つきはがっしりとしている。

二人は五人の姿を確認すると、こちらへ視線を向けた。

「あっ……お、遅れてすいません」

エデンは反射的に頭を下げた。血刃がせっかちだと言っていた支部長が、すでに到着しているのかもしれない。そう考えると、自然と謝罪の言葉が口から出ていた。

すると、眼鏡をかけた男がエデンに向かって歩いてきた。

一歩、また一歩。

男はエデンの目の前まで来ると、その顔をじっと見下ろした。

エデンは思わず背筋を伸ばした。

(この人が支部長?)

目の前に立たれると、想像以上の威圧感があった。体格の大きさもさることながら、何を考えているのか分からない表情が、余計に緊張を誘う。

『……威圧感のある男だ』

頭の中で、ケイの声が響いた。

エデンも内心で同意しかけた、そのときだった。

男は突然、腰を低くしてエデンへ手を差し出した。

「アモリス支部からの救援ですよね!!やっぱり!そうですよね。私たち二人だけじゃ心細くて怖かったんですよ、ありがとうございます。あ、私の名前はブコンと申します、以後お見知りおきを」


「……え?」

あまりの変わりように、エデンは目を丸くした。

先ほどまで自分を見下ろしていた威圧的な男が、今では腰を低くし、息継ぎも忘れたかのような勢いで話しかけてくる。言葉が次から次へと飛び出してくるため、エデンは返事を挟む隙さえ見つけられなかった。

「あ、はい……エデンです。よろしくお願いします」

差し出された手を握り返しながら、どうにか挨拶を返す。

その様子を見ていたもう一人の男が、ゆっくりと口を開いた。

「俺の名前はテイシャだ。よろしく頼む」

低く落ち着いた声だった。腕に傷跡のある男は、余計なことを話すつもりはないらしく、簡潔に名乗ると軽く頷いた。

ブコンとは正反対の雰囲気だ。

「よろしくお願いします」

エデンが改めて頭を下げる。

そのとき、二人の後方から足音が聞こえてきた。

「何悠長に話してんのよ」

鋭い女の声だった。五人がそちらを振り向くと、一人の女性がこちらへ歩いてくるところだった。

その女性は二人の男を睨みつけると、呆れたようにため息をついた。

「関係者以外ここに近づかせるなって何度も言ったじゃない」


「姉貴。この方達はアモリスからの救援だよ」

ブコンが慌てて説明する。

「姉貴……」

シオンが小さく呟いた。

血刃は女性の姿を見ると、どこか気まずそうに頭を掻いた。

「これがブウタ地区の支部長、カティアじゃ」


「これ、とは何よ!舐めてんの?」

カティアは即座に血刃を睨みつけた。

「す、すまん」

血刃は思わず自分の頭に手を置いた。先ほどまで訓練で四人を圧倒していた歴戦の隊員が、まるで叱られた子どものようになっている。

エデンはその光景に、思わず目を瞬かせた。

(血刃さんが謝ってる……)

昨日までの厳しい指導を思い返すと、なんだか不思議な光景だった。

しかし、カティアの怒りはそれだけでは収まらなかった。

「ていうか、何でこんなにも遅いわけ? 五分前には着いてなさいよ」


「いや、まだ集合時刻の四分前なんじゃが……」


「言い訳しない!」


「はい……」

血刃は口を閉じた。

カティアは腕を組み、さらに何か言いたげな様子で血刃を睨みつけている。

エデンは隣に立つ緋山と目を合わせた。緋山もまた、困惑したような笑みを浮かべている。シオンは静かに様子を窺い、フルトは少しでも目立たないようにと、身体を縮こまらせていた。

(なるほど……これは確かに、せっかちな人だ)

エデンはようやく、血刃が先ほど言いかけた言葉の意味を理解した。

どうやら今回の任務は、エイリ星人との戦いが始まる前から、一筋縄ではいかないらしい。

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