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エデン  作者: ko-da
第2部 5章 恐怖と剣編

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落ちこぼれ

訓練が始まった。

四人はそれぞれ自分が選んだ方法で、目の前のドラム缶へ向き合っていた。

「はあっ!」

緋山(ひやま)が棍棒を大きく振り上げる。

そして、全身の力を込めて振り下ろした。鈍い金属音が訓練室に響く。ドラム缶の側面が大きくへこんだ。

「よしっ!」

緋山は一度棍棒を持ち直すと、もう一度振り上げる。

「まだまだ!」

再び叩きつける。さらにへこみが深くなっていく。

一方、その隣ではエデンも素手でドラム缶に挑んでいた。

「……!」

拳を握り、身体を捻る。そして――。

拳がドラム缶へ叩き込まれた。金属が大きく歪む。エデンは拳を軽く振りながら、へこんだ部分を見る。

「……思ったより硬いな」

それでも、もう一度拳を構える。ラベジニウムによる身体強化は使えない。いつものような力は出せない。だからこそ、自分の身体だけでどこまでできるのかを確かめるように、エデンは何度も拳を叩き込んでいく。

そのさらに隣では、シオンが槍を使っていた。

「はっ!」

槍の先端をドラム缶へ突き出す。

「……くっ」

一度では大きくへこまない。

しかしシオンは諦めず、再び槍を構える。

何度も突き続ける。槍の先端が同じ場所へ集中して当たり、少しずつ金属が歪んでいく。

三人がそれぞれドラム缶を破壊しようと奮闘する中、フルトだけは武器を持ったまま立ち尽くしていた。

彼の前にあるドラム缶には、ほとんど傷がついていない。

「……」

フルトは一度、棍棒を振ってみた。しかし、ほとんどへこまない。次に槍を手に取る。何度か突いてみても、結果は同じだった。

「……駄目だ」

フルトは小さく呟く。武器を変えてみる。別の棒を使ってみる。それでも、ドラム缶はほとんど変化しなかった。自分だけが取り残されているような気がした。

「……」

フルトは武器を下ろす。視線の先に、一本の木剣があった。先ほど血刃から渡されたものと同じ、訓練用の剣。フルトはそれを見つめる。

あれなら。先ほどは、一振りだけだった。身体が自然に動いた。もしかしたら、剣ならこのドラム缶を――。

フルトは木剣へ手を伸ばしかけた。しかし、その手が止まった。脳裏に、昔の記憶が蘇る。


『お前は本当に何も出来ないな』


『ラング家の人間なのに、なんでそんなことも出来ないんだ?』


『落ちこぼれめ』

何度も聞かされた言葉。

家にいる兄弟たちから向けられた言葉だった。フルトは唇を噛む。ラング家。剣の名家。その家に生まれた以上、剣を扱えることを期待されるのは当然だった。けれど、自分にはそれができなかった。

兄弟たちが剣を振る姿を見ながら、自分だけが上手くできない。何度練習しても、思うようにいかない。失敗するたびに、自分だけが取り残されていく。

『落ちこぼれ』

その言葉が、いつの間にか自分自身の中にも染みついていた。

父も母も、そんなことは言わなかった。むしろ二人はいつもフルトを庇ってくれた。失敗しても怒らず、できなくても責めなかった。それでも――。

周囲から何度も言われ続けた言葉は、簡単には消えてくれなかった。

フルト自身が、自分を落ちこぼれだと思うようになっていたからだ。

「……僕は」

フルトは伸ばしかけた手を引っ込める。剣を握れば、また思い出してしまう。ラング家の名前。期待失敗。そして、自分は何もできないという感覚。

「……駄目だ」

フルトは俯く。その時、少し離れた場所から金属音が響いた。

緋山がドラム缶を叩いた音だった。

「まだまだ!」

続いてエデンの拳が叩き込まれる。

シオンも槍を突き出している。

三人は、それぞれ苦戦しながらも前へ進んでいた。

フルトはそんな三人を見つめる。自分だけが何もできていない。また、その感覚が胸の中に広がっていく。そしてフルトの視線は、再び木剣へ向けられた。手を伸ばせば、届く距離にある。けれど、その一歩を踏み出すことができなかった。

訓練室には、金属を叩く音が何度も響いていた。

血刃はそんなフルトの様子をしばらく黙って見ていた。

やがて、木剣へ向けられたフルトの視線に気づく。

「……何を悩んどる?」


「え……」

フルトが顔を上げる。

血刃はフルトの視線を追い、その先にある木剣を見る。

「剣が気になるんじゃろ」

フルトは少しだけ黙った。

そして、小さく頷く。

「……はい」


「振りたいなら振ればいい」

血刃の言葉はあまりにも簡単だった。

まるで、悩む必要など最初からないと言っているようだった。

しかしフルトは、すぐには木剣へ手を伸ばさない。

「でも……」

俯いたフルトの声が小さくなる。

「やっぱり、剣は怖くて」

その言葉を聞いた瞬間、エデンの拳が止まった。

ドラム缶へ振り下ろす直前だった拳を下ろし、エデンはフルトを見る。

緋山とシオンも手を止めた。

血刃だけは、静かにフルトを見つめている。

「今さっき剣振ったじゃろ」


「す……素振りでしたから」

フルトは木剣を見つめる。

「何かに当てるのは……」

そこで言葉が途切れた。

フルトは木剣から目を逸らす。

「家での鍛錬を思い出して……」

その声には、苦しさが混じっていた。

家で剣を振っていた頃。

周囲から期待され、それに応えられず、何度も失敗した記憶。

剣を握るたびに、自分が落ちこぼれだと思い知らされるような感覚。

ただ振るだけなら、まだできる。

けれど、何かに向かって剣を振り下ろそうとすると、その記憶が蘇ってくる。

フルトは両手を強く握った。

「剣を持つと……また、あの頃のことを思い出しそうで」

訓練室が静かになる。

エデンはフルトを見つめたまま、何も言わなかった。

血刃もすぐには口を開かなかった。

ただ、フルトの言葉を聞き終えるまで、じっと待っていた。

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