エリア・デイゴン
ホワイトは、エデンたちの反応を静かに見つめていた。やがて、ゆっくりと口を開く。
「エイリヲル」
その名が、教室に響く。
「それはECOの隊員達が大きな犠牲を払い退けた存在」
エデンは黙ってホワイトの話を聞いていた。
亜爆も腕を組んだまま、視線を逸らさない。
「とどめはさせていない」
ホワイトの声は穏やかだった。
しかし、その内容には重みがあった。
30年前。
まだ現在のECOの体制が整うよりも前の時代。
一体のエイリ星人を退けるため、多くの隊員が戦った。
その戦いで払われた犠牲は、決して小さなものではなかった。
「ECOが退けてから、この30年間やつは現れていない」
「……」
教室の中に、沈黙が広がる。30年。エイリ星人との戦いが続くこの世界において、それだけ長い間姿を見せていない存在。それがエイリヲルだった。
緋山は一人、拳を固く握っていた。
その表情からは、言葉にはできない感情が滲んでいる。
「エイリヲル……」
小さく呟く。
ドロイはホワイトの話を整理するように、静かに尋ねる。
「今どこにいるのかも分からない、ということですね」
ホワイトは、ドロイの言葉を聞くと少しだけ表情を変えた。
まるで、それだけではないと言うような顔だった。
「……そういうわけでもない」
「え?」
ドロイが目を向ける。
ホワイトは教室の窓の外へ視線を向けた。
「エイリヲルとの戦いは、ある場所で行われた」
その言葉に、エデンも顔を上げる。
「ある場所……?」
「君たちは、エリア・デイゴンという場所を知っているか?」
その名前を聞いた瞬間、教室の空気が変わった。
エデンは、少しだけ目を見開く。エリア・デイゴン。ライサム最大のエリア。
ホワイトは、そんな彼らの反応を見ながら静かに続けた。
「そこには、30年前の戦いの痕跡が残っている」
誰も口を開かない。
ホワイトの言葉を待つように、全員がその場に留まっていた。
「そして――」
ホワイトは、静かにエリア・デイゴンの名を口にした。
「エイリヲルが最後に確認された場所でもある」
ホワイトは、教室にいる全員の反応を確かめるように、一人ずつ視線を向けた。
「エリア・デイゴンとは、ライサムにある巨大な島全体がエリア指定されている場所だ」
エデンたちは黙って聞いている。
ライサムには数多くのエリアが存在する。しかし、一つの島そのものがエリアに指定されている場所はない。
「そこは元々、フォーカン地区という名前だった」
「フォーカン……」
エデンが小さく呟く。
その名前を知っている者もいれば、初めて聞く者もいた。
ホワイトは話を続ける。
「フォーカン地区がエリア・デイゴンとなった、その原因がエイリヲルのエネルギーだ」
教室の空気が、再び静まり返る。
エリア指定。それは単純に、エイリ星人が多く出現する場所という意味ではない。大気中に存在するエイリ星人のエネルギーが一定以上の濃度になっている地域。その状態が続く限り、エイリ星人が生まれ続ける。
「つまり……」
ドロイが呟く。
ホワイトは頷いた。
「そういうことだ」
エデンは窓の外を見る。これまで何度も聞いてきた、エリアという言葉。だが、その原因がエイリ星人そのものではなく、その残したエネルギーであることを改めて考えると、話の意味が変わってくる。
ホワイトは静かに続けた。
「フォーカン地区でエイリヲルが戦った結果、そのエネルギーが大地と大気に残った」
「そして、それが長い年月を経ても消えずに残っている」
亜爆が眉を寄せる。
「30年も……ですか」
「ああ」
ホワイトは答える。
「だからこそ、エリア・デイゴンは今もエリア指定されたままだ」
その言葉を聞いた緋山は、再び拳を握りしめた。
「じゃあ……」
緋山の視線がホワイトへ向く。
「エイリヲルは……」
ホワイトは静かに答えた。
「エイリヲルは、そこにいる可能性がある」
その一言が、教室に重く落ちた。誰も、すぐには言葉を返さなかった。
30年間、姿を見せていないエイリヲル。
その存在が、遠い過去のものではなく、今もどこかに潜んでいるかもしれない。
そして、その可能性を示しているのが、巨大な島そのものに残されたエネルギーだった。
ホワイトは、静かに教室を見渡した。
誰も口を開かない。
先ほどまでの話によって、エリア・デイゴンという場所が、ただの巨大なエリアではないことを全員が理解し始めていた。
「エイリヲルはエリア・デイゴンにいるかもしれない。という可能性は高い」
ホワイトは、そう前置きしてから続ける。
「だが、確かめるすべはない」
その言葉に、エデンは黙ってホワイトを見る。
エイリヲルが本当にそこにいるのか。
それを確かめる方法は、今のところ存在しない。
30年間、姿を見せていない存在。
それだけに、情報も限られていた。
「エリア・デイゴンの広大な土地には、おそらく大量のエイリ星人がいるだろう」
教室の空気が、さらに重くなる。
巨大な島全体がエリアに指定されている。
その広さは、これまでエデンたちが活動してきたエリアとは比べものにならない。
そこに大量のエイリ星人が存在しているとすれば、調査そのものが簡単なものではない。
ドロイが静かに考え込む。
「それだけ広いとなると、エイリヲルを探すのは難しそうですね」
「ああ」
ホワイトは頷く。
「仮にそこにいたとしても、エイリ星人の中から一体を見つけ出すのは容易ではない」
亜爆も腕を組んだまま、何も言わずに考えていた。30年前の戦い。エイリヲルのエネルギー。そして、それによって生まれた現在のエリア・デイゴン。
すべてが一本の線で繋がり始めている。エデンは、しばらく黙っていた。そして、ゆっくりと口を開く。
「……じゃあ、今は何も分からないってことですか?」
「そういうことになるね」
ホワイトは穏やかに答えた。
「少なくとも、エイリヲルがそこにいると断言できる証拠はない」
「……」
エデンは窓の外へ視線を向ける。
遠くに広がる街並み。
そこには、いつも通りの日常がある。
しかし、その遥か先には巨大な島があり、その場所には大量のエイリ星人が存在しているかもしれない。
そして、その中には――30年前にECOが退けた存在が潜んでいる可能性もある。
エデンは、静かに拳を握った。




