未来と王
ドロイと亜爆が驚いたように目を見開いた。
「ホワイトさん……?」
「どうしてここに?」
二人の反応に、緋山たちも戸惑う。
区長が、なぜECOの教室に来ているのか。
しかも、エデンや亜爆だけでなく、ドロイまで知っている様子だった。
「この人は?」
緋山が小さく呟く。
「なんでアモリス地区の区長がここに?」
ナロクも驚いたようにホワイトを見る。
グラスやフルト、シオンも状況が理解できず、互いに顔を見合わせる。
そんな中、エデンだけは落ち着いていた。そして、ホワイトを真っ直ぐ見つめる。
「未来のことですよね?」
その言葉に、ホワイトは少しだけ目を細めた。
「……やはり君は察しが早いね」
「ジエルがいなくなったから、ホワイトさんの見た未来が変わったりしたんですか?」
その言葉を聞いた瞬間、亜爆も何かに気づいたように表情を変えた。
「……そういうことですか」
数か月前。
エデン、亜爆、そしてジエル。三人はホワイトから、ある話を聞かされていた。
ホワイトの家系に代々伝わっているという、未来視。
ホワイトが見た未来には、エイリ星人によって世界が大きく混乱する光景があった。
街が壊れ、人々が逃げ惑い、世界そのものが大きく揺らいでいく。そして、その混乱を止めるための鍵となる存在がいる。その時の新人隊員。ホワイトは、その三人がエデン、亜爆、そしてジエルだと考えていた。だからこそ、三人に未来の話を伝えた。しかし――
ジエルがいなくなった。その事実を考えれば、未来が変化していてもおかしくはない。エデンはそう考えたのだ。
ホワイトは、そんなエデンを見つめながら静かに口を開く。
「その話なのは合っている、しかし」
一度言葉を止める。
教室の空気が、少しだけ張り詰めた。
「……あれから未来は見えていない」
「……え?」
エデンの目が僅かに開く。
亜爆も黙ってホワイトを見る。
一方で、その場にいた他の隊員たちは何が何だか分からない。
「未来が……見えてない?」
シオンが呟く。
「どういうことですか?」
緋山も困惑した表情を浮かべる。
ナロクはエデンと亜爆を交互に見た。
二人だけが、この話を知っている。
自分たちは何も知らない。
その状況に、後輩たちは置いていかれたような感覚を覚えていた。
ホワイトはそんな彼らの様子を見て、少し申し訳なさそうに笑う。
「そうだったね。君たちには、まだ話していなかった」
ホワイトは教室の中を見渡す。
「まず、最初から説明しよう」
その声は穏やかだった。
しかし、その言葉にはこれから話す内容が決して軽いものではないことを感じさせる重みがあった。
ホワイトは静かに歩き、教室の前方へ進む。
そして、エデンたちを見つめる。
「私の家系には、代々受け継がれている力がある」
「未来を見る力だ」
教室が静まり返る。
緋山たちは、ただ黙ってホワイトの言葉を聞いていた。
「ただし、未来が見えるのは突然だ」
ホワイトはそこで一度、言葉を区切る。
「私が以前見た未来では、エイリ星人によって世界が大きな混乱に陥っていた」
その言葉に、緋山たちの表情が変わる。
「そして、その混乱を止める鍵となる者がいることも知っていた」
ホワイトの視線がエデンへ向く。
「その時の新人隊員だった君たち二人――エデン君、亜爆君、そしてジエル君だ」
亜爆は黙って聞いていた。
エデンも、ホワイトの言葉を静かに受け止める。
だが、ジエルの名前が出た瞬間だけ、エデンの表情が僅かに曇った。
ホワイトはそれを見逃さなかった。
「しかし、ジエル君がいなくなった」
「……」
「そして、それから未来が見えなくなった」
教室に沈黙が落ちる。
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
未来が変わったのか。
それとも、未来そのものが見えなくなった理由が別にあるのか。
それすらも、今は分からない。
ホワイトは穏やかな表情のまま、静かに告げる。
「だから私は、今日ここへ来た」
教室の空気が、再び変わった。
誰もがホワイトの次の言葉を待っていた。
ホワイトは、教室にいる全員をゆっくりと見渡した。
その視線が、再びエデンと亜爆へ向けられる。
「私は未来視によって得た未来を止めるための鍵は、エデン君、亜爆君、そしてジエル君だと思っていた」
エデンは黙ってホワイトの話を聞いている。
亜爆も腕を組んだまま、静かに耳を傾けていた。
「一番その可能性が高かったからだ」
ホワイトの言葉は穏やかだった。
しかし、その内容は決して軽いものではない。
世界を覆うほどの混乱。
その未来を変える可能性を持った三人。
それが、かつてのエデンたちだった。
「しかし、今はドロイ君、きみもそのうちの一人だと私は思っている」
「俺ですか?」
突然名前を呼ばれたドロイが、少し驚いたように自分を指差す。
「ああ」
ホワイトは頷いた。
「まあ、だからどうということでもないけどね」
あまりにもあっさりと言われ、ドロイは困ったように目を瞬かせる。
ホワイトはそのまま穏やかな笑みを浮かべた。
「もしかしたら悪い未来を変えられる鍵かもしれないと思っていればいいよ」
「……分かりました」
ドロイは少し考えた後、静かに頷いた。
自分が世界の未来を変える鍵かもしれない。そう言われても、実感が湧くわけではない。それでも、ホワイトが冗談で言っているわけではないことだけは分かった。
ホワイトは、そんなドロイの反応を見た後、今度は緋山たちへ視線を向ける。
「勿論、未来を変える人物の対象ではないが、君たちにも期待しているよ」
「……」
緋山たちは黙ってホワイトを見る。
未来を変える人物ではない。その言葉だけを聞けば、自分たちは関係ないようにも思える。しかし、ホワイトの声には、決して突き放すような響きはなかった。
「未来視で見えている人物だけが、未来を変えられるとは限らないからね」
ホワイトはそう付け加えた。
「君たち自身が何かを成し遂げる可能性だって、十分にある」
その言葉に、緋山たちはそれぞれ顔を見合わせる。
しばらくの間、教室には静かな空気が流れた。
誰もすぐには口を開かなかった。
そんな沈黙を破ったのは、エデンだった。
「ホワイトさんの未来視で見たエイリ星人って、結局エイリワスじゃなかったんですかね?」
ホワイトがエデンを見る。
「ジエル君が倒したのだろう?」
「多分、そうだと思います」
エデンは少し考える。
エイリワスとの戦い。
ジエルが最後に放った一撃。
そして、その後に起きたこと。
「エイリワスが消滅した所は見てないし、もしかしたら」
一度、言葉を止める。
「生きている可能性もありますけど」
その言葉に、亜爆の表情が僅かに変わった。
ドロイも黙ってエデンを見る。
ホワイトは少しだけ目を細めた。
「だとすれば」
静かな声が教室に響く。
「可能性は、もう一体の王になるね」
エデンの脳裏に、一つの名前が浮かぶ。
エイリワスとは別の、もう一体。区長ホワイトが話していた、かつてECOが大きな犠牲を払って撃退したという存在。そして、エイリ星人の中でも「王」と呼ばれる存在。
「……エイリヲル」
エデンが、その名を呟いた。
その瞬間、教室の空気が僅かに変わった。
亜爆は何も言わない。
ドロイも黙っている。
後輩たちは、まだその名前の意味を完全には理解していなかった。
しかし、エデンの表情を見れば分かる。
その名が、決して軽い存在ではないことだけは。
ホワイトはエデンを見つめながら、静かに口を閉じた。
未来視によって見えたもの。そこから外れたジエルの存在。そして、まだ見えない未来。その先に何が待っているのか。この時の彼らには、まだ分からなかった。




