隊員証と区長
数日後。
ECOアモリス支部の教室では、訓練が終わった隊員たちがそれぞれ思い思いに過ごしていた。
エデンは席に座りながら、近くにいた緋山たちと話をしている。
シオンもその輪の中にいた。
少しずつではあるが、新しく入った隊員たちもこの場所に馴染み始めている。
そんな中、エデンがふと思い出したように口を開いた。
「そういえば後輩の皆とシオン、隊員証ってもらったの?」
「隊員証ですか?」
緋山が首を傾げる。
「うん。ECOの隊員なら持ってるやつ」
エデンがそう言うと、緋山たちは顔を見合わせた。
「ああ、それなら持ってますよ」
緋山が自分の隊員証を取り出した。
それに続いてナロク、グラス、フルトもそれぞれ隊員証を取り出していく。
シオンも少し遅れて、自分の隊員証を手にした。
「これです」
「見せて見せて」
エデンが身を乗り出す。
一枚ずつ確認していく。
そこに記されていたランクは――
全員、D-9だった。
「おお……」
エデンは思わず声を漏らした。
全員が同じランクなのを見て、どこか懐かしい気持ちになる。
D-9。
それは、ECO隊員としての最初の位置。
エデン自身も、最初はそこから始まった。
隊員証を見つめながら、エデンは昔のことを思い出す。
自分も最初はDランクだった。
右も左も分からないままECOに入り、初めてエイリ星人と戦った。
あの頃は、自分がここまで強くなるなんて考えもしなかった。
「エデンさん?」
緋山の声で、エデンは我に返った。
「ん?」
「どうかしました?」
「いや……ちょっと昔のこと思い出してた」
そう言って、エデンは笑った。
「俺も最初はDランクだったんだよ」
「そうなんですか?」
「うん」
緋山たちは興味深そうにエデンを見る。
その時だった。
教室の扉が開いた。
「エデンさん、ドロイさん、亜爆さん」
入ってきたのは、ECOの職員だった。
三人が振り向く。
「はい?」
「ランク更新の手続きが終わりましたので、こちらを」
職員は三人に隊員証を渡した。
エデンは受け取った隊員証を眺める。
「ランク更新?」
「はい。これまでの活動記録や任務結果などをもとに、更新されています」
そう言って職員は、三人の反応を待つことなく部屋を出ていった。
エデンは新しい隊員証を手の中でひっくり返す。
ドロイも自分の隊員証を見ながら首を傾げた。
「どれぐらい上がるんでしょう?」
亜爆は腕を組みながら答える。
「結構上がるんじゃないですか?」
そして、エデンとドロイを見る。
「エデンさんとドロイさんの実力的に」
「亜爆さんも上がると思うけど……」
エデンがそう言うと、亜爆は少しだけ苦笑した。
「そうですかね」
三人はそれぞれ隊員証を手にしたまま、しばらく待った。
周囲にいた緋山たちも、三人の更新結果が気になるのか、自然と視線を向けている。
やがて、数分が経った。
「できました」
先ほどの職員が戻ってきた。
三人のもとへ歩いてくると、それぞれに新しい隊員証を手渡した。
エデンは受け取った隊員証に目を落とす。
そこに記されていた文字を確認した瞬間――
「……B-8」
エデンのランクは、D-9からB-8へ。
大きく二段階以上も上がっていた。
「Bランク……」
緋山が驚いた声を漏らす。
エデン自身も、少しだけ目を見開いている。
「結構上がったな……」
その隣では、ドロイが自分の隊員証を確認していた。
「俺は……C-2です」
DランクからCランクへ。
ドロイも驚いたように隊員証を見つめる。
「こちらも思ったより上がりましたね」
そして最後に、亜爆が自分の隊員証を見る。
「……C-5」
亜爆もDランクからCランクへと更新されていた。
「亜爆さんもCランクです!」
緋山が嬉しそうに言う。
亜爆は隊員証を眺めながら、少しだけ口元を緩めた。
「なるほど……」
三人の新しいランクが、教室の中で並ぶ。
B-8。
C-2。
C-5。
それは、これまで三人が積み重ねてきた戦いの結果だった。
エデンは改めて自分の隊員証を見る。
かつてはD-9だった。
それが今では、Bランク。
数字だけを見れば、大きな変化だ。
けれどエデンにとっては、その間にあった出来事の一つ一つの方が印象に残っていた。
戦って、負けて。
誰かに助けられて。
誰かを助けて。
そして、また前へ進んできた。
「……俺、結構上がったんだな」
エデンが小さく呟く。
その言葉を聞いた緋山たちは、それぞれの隊員証を見つめる。
今は全員がD-9。
まだ始まったばかりだ。
エデンも、最初は同じ場所にいた。だからこそ、その数字の先に何があるのか。彼らにはまだ分からない。
その時。教室の扉が開いた。一人のECO職員が入ってくる。
「エデンさん、ドロイさん、亜爆さん」
三人が振り向く。
「はい?」
職員は手元の書類を確認しながら、少し戸惑ったように口を開いた。
「ええっと、あの……」
何かを伝えようとしているようだったが、言葉が続かない。
その様子を見て、教室にいた全員が職員へ視線を向ける。
すると――
「私から説明しよう」
職員の後ろから、落ち着いた声が聞こえた。
その声とともに、一人の男性が教室へ入ってくる。
白い髪。
整えられた服装。
穏やかな表情。
その姿からは、どこか人を安心させるような雰囲気が漂っていた。
エデンは、その人物を見た瞬間に気づく。
「……ホワイトさん」
アモリス地区の区長。
ホワイト。
かつてエデンたちの前に現れ、未来について語った人物だった。
「やあ、久しぶりだね」
ホワイトは穏やかな笑みを浮かべる。




