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エデン  作者: ko-da
第2部 4章 才と勇気編

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気晴らし

ドロイは、グラスをしばらく静かに見つめていた。立派な使命を持ってECOに入ったわけではない。グラスはそう言った。

グラスが自分を卑下していることは分かっていた。

けれど、それをすぐに否定するつもりはなかった。ECOに入った理由は、人によって違う。

誰かを守りたいという者もいれば、エイリ星人への恐怖から力を求める者もいる。

自分自身の事情を抱えている者もいる。

そして、グラスのように――自分にできることを求めて、この場所へ来た者もいる。それを立派かどうかで決める必要はない。ドロイはそう考えていた。

「……グラスさん」


「はい」


「少し、外を歩きませんか?」


「外……ですか?」

グラスが顔を上げる。


「ええ」

ドロイは窓の外へ視線を向けた。

夕日はすでに低い位置まで沈み、街全体を柔らかな光で照らしている。

「気晴らしに、散歩でもしましょう」

そう言ってから、ドロイは少しだけ笑った。

「せっかくですから、パトロールも兼ねて」


「パトロール……」

グラスは窓の外を見る。

いつもなら、授業や訓練が終わればすぐに寮へ戻る。今日もそうするつもりだった。けれど、今は少しだけ外へ出てみたい気分だった。

「……いいんですか?」


「もちろんです」

ドロイは立ち上がった。

机の上を片付け、教科書を鞄へしまう。

グラスもそれに続いて、自分の荷物をまとめ始めた。二人で教室を出る。廊下には、もうほとんど人の姿がない。夕方のアモリス支部は昼間とは違って静かだった。窓から差し込む橙色の光が廊下を長く照らし、二人の影を床へ伸ばしている。

外へ出た瞬間、少し冷たい風が二人の間を通り抜けた。

グラスは思わず空を見上げた。

「……綺麗な空ですね」


「ええ」

空は赤と橙が混ざり合い、その向こうには少しずつ夜の色が広がり始めている。

街にも明かりが灯り始めていた。

仕事を終えて帰宅する人。買い物袋を持って歩く人。学校帰りの学生。昼間と変わらない、いつもの街の光景だった。

ドロイはゆっくりと歩き出す。

グラスもその隣を歩いた。

「夕日を見ながら街を歩くのもいいものですよ」


「……そうですね」

グラスは小さく頷いた。

さっきまで胸の中にあった重さが、ほんの少しだけ薄くなった気がした。もちろん、悩みが消えたわけではない。自分の不器用さも。勉強が苦手なことも。これまで友達が少なかったことも。何も変わってはいない。それでも――

こうして誰かと並んで歩いている。

それだけのことが、グラスには少し新鮮だった。



二人は街を歩きながら、周囲へ目を向ける。

異常がないか。困っている人はいないか。いつものパトロールだ。けれど今日だけは、グラスにとって少し違っていた。戦うためでもない。訓練のためでもない。

夕日はさらに低くなり、建物の隙間から差し込む光も少しずつ弱くなっている。

街には仕事帰りの人や、買い物を終えた人々が行き交っていた。グラスも周囲を見渡しながら歩いていた。特別な異常はない。エイリ星人の姿も見えない。穏やかな時間だった。

そんな中、ドロイがふと足を止めた。

「そういえば……」


「どうしました?」


「少し買いたいものがあるんでした」

ドロイは周囲を見回す。どうやら近くに店があるらしい。

「グラスさんは、ここで少し待っていてもらえますか?」


「分かりました」


ドロイは近くの店へ向かおうとする。

「すぐ戻ります」


「はい」


そう言って、ドロイは歩いていった。

グラスはその場に残った。

近くにはベンチが置かれている。グラスはそこへ腰を下ろした。背もたれに身体を預け、空を見上げる。先ほどまでの夕焼けは少しずつ色を変え、街には夜の気配が近づいていた。

「……」

静かだった。人々の話し声。車が通り過ぎる音。店から聞こえてくる音楽。どれも、いつもと変わらない街の音だった。

グラスはぼんやりとそれを聞いていた。

今日一日のことを思い返す。授業で何度も間違えたこと。ドロイに教えてもらったこと。ECOに入った理由を話したこと。そして、こうして一緒に街を歩いていること。

「……少しは、変われるのかもな」

小さく呟いた。その時だった。

「――――!」

突然、街の一角から大きな悲鳴が響いた。

グラスの身体が反射的に動く。


「きゃあああっ!」


「逃げろ!」


「エイリ星人だ!」


その言葉が聞こえた瞬間――

グラスの表情から、それまでの穏やかさが消えた。

立ち上がる。

周囲の人々も、一斉に悲鳴の聞こえた方向へ視線を向けていた。

逃げ惑う人。子供の手を引く親。

その場から離れようとする人々。街の空気が、一瞬にして変わった。


「エイリ星人……!」

グラスは息を呑んだ。

ドロイはまだ戻っていない。

けれど、考えている暇はなかった。

「どうすれば....」

グラスは悲鳴の聞こえた方向を見据えた。

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