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エデン  作者: ko-da
第2部 3章 罪と力編

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復讐のための力

ナロクは、犯人の腕を掴んだまま離さなかった。

先ほどまでなら振りほどかれていたはずの腕が、今はまるで固定されたように動かない。

犯人は何度も腕を引く。それでも、ナロクの指は離れなかった。

「あなたが何をされてきたのかは分かりました」

ナロクは真っ直ぐに犯人を見る。

「……知ってるなら止めるな!」

犯人が怒鳴る。

「俺がどんな目にあってきたか知ってるなら......俺に復讐させろ!」


ナロクは答える。

「それは出来ません」


ナロクは掴んでいる腕に、さらに力を込めた。

「……」

ギュッ、と指が食い込む。ラベジニウムの力によって生まれた異常な摩擦が、犯人の腕を逃がさない。

「力は人を傷つけるために、罪を作るためにあるんじゃない!」


犯人の目が揺れる。


「こんなことはやめてください!」


「……」

一瞬の沈黙。

そして――

犯人は笑った。

「……はは、力は罪を作るためにあるんじゃない?」

「それはどうかな」


ナロクが眉をひそめる。

「何がおかしいんですか」


「力があるから復讐を考えるんだよ」

「こんな力を得なきゃ……」

犯人は俯いたまま、静かに笑っていた。

「復讐も考えなかったさ」


ナロクの表情が曇る。

犯人はゆっくりと顔を上げた。その目には、長年積み重なった怒りが宿っている。

「ずっと心の中で何度も復讐を考えてた、でも出来なかった」

「ついに、俺は得たんだ」

自分の腕を掴んでいるナロクの手を見る。

「復讐できるほどの力を」


「……」


「昔の俺には何もなかった」

犯人は続ける。

「何をされても、何もできなかった」

その言葉には、怒りだけではなく、過去の無力さへの苦しみが滲んでいた。

「だけど今は違う」


ナロクは黙って聞いている。

「俺には力がある」

犯人は笑う。

「だから……今度は俺が、あいつらに思い知らせる番なんだ」


ナロクはその言葉を聞きながら、掴んだ手をさらに強くした。

(この人は……力を手に入れたことで、過去から抜け出せたんじゃない)


むしろ――


(力に、過去を縛られてる)

ナロクは静かに犯人を見つめた。

「……それでも」


「?」


「俺は、あなたを止めます」


犯人の笑みが消えた。

ナロクの目には、迷いがなかった。

犯人の表情が歪んだ。

ナロクに掴まれている腕を見つめ、それから鋭い目でナロクを睨みつける。

「離せ!」

犯人は叫んだ。しかし、ナロクの指は微動だにしない。摩擦力によって強く固定された腕。

どれだけ力を込めても、先ほどのように簡単に振りほどくことはできなかった。


「くっ……!」

犯人は掴まれていない方の手を振り上げる。

「だったら――!」


拳がナロクへ向かって振り抜かれる。

「!」

ナロクは咄嗟に身体を捻った。

拳を避ける。そして、そのままもう一方の手を伸ばした。

ガシッ!

「なっ……!」

犯人の拳を、ナロクの手が掴む。

両腕を完全に押さえ込まれた。

犯人は目を見開く。

ナロクは息を荒くしながらも、真剣な表情で犯人を見つめた。

「離すわけにはいかない!」

その声が、夜の街に響いた。犯人は歯を食いしばる。

「こいつ……!」

両腕を押さえられている。それでも、犯人にはまだ一つだけ手段が残されていた。足元。

そこへ――再び円が浮かび上がる。円が、地面に広がっていく。ナロクがそれに気づいた。

「また……!」


犯人は口元を歪める。

「飛ばせ!」

円が大きくなる。このまま円の中へ入れば、再びどこかへ移動できる。


「逃がさない!」

ナロクは犯人の身体を思い切り引っ張った。


「うおっ!」

犯人の足が円の範囲から外れる。

円は地面に残っている。だが、犯人の身体はその中に入っていない。


「なっ……!」

犯人が驚く。

ナロクはそのまま腕を引き、犯人を円から遠ざけた。


「くそ!」

犯人が怒鳴る。

「俺は……あいつらに!復讐するんだ!」


「させません……」

ナロクの声は、今までよりも静かだった。

だが、その言葉には強い意志が込められていた。

犯人が睨みつける。

ナロクは両手で犯人の腕を押さえながら、真っ直ぐにその目を見る。

「これ以上……」

一瞬、言葉を詰まらせる。

目の前にいる男が、どれだけ長い間苦しんできたのか。どれだけ怒りを抱えてきたのか。ナロクには分からない。けれど――今このまま放っておけば、この人は自分自身の怒りや憎悪に飲み込まれてしまう。そして、さらに誰かを傷つける。

「あなたが罪を重ねる必要はない!」

犯人の目が揺れた。

「……!」


「あなたは……」

ナロクはさらに強く腕を掴む。

「まだ戻れるんです!」


その言葉が、犯人の胸に突き刺さった。

「……戻れる?」

犯人が小さく呟く。

「何を言ってる……」


「過去に戻れなくても……」

ナロクは答える。

「これからを変えることはできます」


犯人は黙った。

先ほどまで激しく抵抗していた身体が、ほんの一瞬だけ止まる。


「復讐したって……」

ナロクは続ける。

「あなたが受けた苦しみが消えるわけじゃない」


犯人の顔から、怒りの表情が少しずつ崩れていく。


「だから……」

ナロクは決して手を離さなかった。

「これ以上、自分まで傷つけるようなことをしないでください」

夜風が二人の間を通り抜ける。

地面に浮かんでいた円が、静かに消えていった。

犯人は何も言わない。

ただ、ナロクに掴まれた両腕を見つめていた。その姿は、先ほどまでの復讐者とは少し違って見えた。

まるで――

長い間閉じ込めていた感情を、初めて真正面から受け止めようとしているようだった。 

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