巨体
廃工場地帯。
割れた窓。
崩れた煙突。
鉄の匂いと、焦げた空気。
エデン、ジエル、天記の三人は慎重に進む。
「反応、近いよ」
天記が端末を見る。
『複数体いる』
ケイの声。
次の瞬間。
影が、蠢いた。
歪んだ人型。
灰色の皮膚。
関節が逆に曲がり、目が赤く光る。
通常個体のエイリ星人。
だが数が多い。
一体、二体、三体……十以上。
ジエルが笑う。
「ウォーミングアップにちょうどいい」
地面を蹴る。
発電機発動。
走る。
動く。
電力が溜まる。
最前列へ一直線。
「らぁ!!」
拳と同時に放電。
一体が爆散。
だが後続が一斉に飛びかかる。
エデンも踏み込む。
リミットフォース発動。
一体の爪を回避。
掌底で喉元を破壊。
回転蹴り。
二体沈黙。
しかし。
「多いな……!」
包囲される。
ジエルは被弾しながらも突っ込む。
肩を裂かれる。
だが止まらない。
動くほど電流が増す。
雷撃が周囲を焼く。
「おらぁ!!」
エデンも打撃を放つ。
「はぁ!」
二人の呼吸が合う。
だが――
後方から一体が高速で接近。
気づくのが遅れる。
爪がエデンの首元へ――
その瞬間。
天記が銃をうつ。
「──止まれ」
憶流の声。
いつもより低い。
エイリ星人の動きが一瞬鈍る。
憶流が素早く接近し、額に触れる。
「あなたは“ここに来ていない”」
静かな言葉。
エイリ星人の目の光が揺らぐ。
記憶操作。
戦闘直前の記憶を消去。
混乱。
動きが止まる。
その隙にエデンが叩き伏せる。
「助かりました!」
「お安い御用だよ。」
だが数はまだいる。
ジエルが叫ぶ。
「まとめて来い!」
突撃。
発電量急上昇。
電流が弧を描く。
複数体を同時に貫く。
エデンも連撃を加える。
破壊。
やがて。
最後の一体が倒れ、静寂が戻る。
荒い呼吸。
焦げた臭い。
ジエルが肩で息をする。
「……弱ぇな」
だが天記は周囲を警戒したまま動かない。
「……妙だ」
「妙?」
エデンが問う。
「通常個体にしては統率があった」
その時。
地面が微かに震える。
遠くで、何かが動く音。
重い。
大きい。
『何かがいる』
ケイの声が低くなる。
天記の表情が強張る。
ジエルが笑う。
「やっと本番か」
そう言うと、足早に音のする方に向かっていった。
エデンと天記もついていく。
大量の瓦礫。
その中から一体のエイリ星人が現れた。
外見は他と変わらない。
灰色の皮膚。
歪んだ関節。
赤い眼。
ジエルが肩を鳴らす。
「発電....」
踏み込もうとした、その時。
――「マテ」
三人の動きが止まる。
空気が凍る。
今のは。
明らかに、人語だった。
エデンが目を見開く。
「……今、喋った?」
エイリ星人の口元が、ぎこちなく歪む。
――「カンサツ、カンリョウ」
低く、濁った声。
だが確かに言葉。
天記の表情が一変する。
「下がって」
声が鋭い。
「その個体、おそらく....l」
エイリ星人の目が三人を順番に見る。
――「リミット。メモリーコントロール。ジェネレーター。トウバツタイショウ。」
エデンの背筋が冷える。
(能力を知ってる?討伐対象……?)
憶流が叫ぶ。
「二人とも距離を――」
その瞬間。
エイリ星人の身体がぶくりと膨らむ。
内部から何かが膨張するように。
皮膚が裂け、液体状の肉体が広がる。
腕が伸びる。
二本の巨大な腕へと変貌。
地面が軋む。
ジエルが歯を食いしばる。
「今さっきの音はコイツのか……!」
天記が銃を構える。
「撤退も視野に!」
だが遅い。
エイリ星人が一歩踏み出す。
地面が陥没。
次の瞬間。
巨大腕が横薙ぎに振られる。
速い。
想定よりも。
「エデン!!」
衝撃。
エデンの身体が直撃を受ける。
防御姿勢を取る暇もない。
吹き飛ばされる。
瓦礫を突き破り、壁に叩きつけられる。
轟音。
粉塵。
ジエルの瞳が血走る。
「てめぇ……!!」
発電機全開。
床が焦げる。
電流が爆発的に増幅。
だが天記が叫ぶ。
「ジエルくん、待って!」
エイリ星人の目が光る。
――「イカリ。タンジュンナコウゲキ。」
挑発。
理解している。
ジエルがさらに踏み込もうとする。
その時。
瓦礫の奥から、咳き込む音。
エデン。
立ち上がる。
腕が震えている。
(……重い)
肋骨が軋む。
『拡張するか.....』
ケイの声。
(まだ……)
視界の端で、ジエルが暴走寸前なのが見える。
天記も、銃を構えながら判断を迷っている。
エイリ星人がゆっくりと告げる。
――「ジャイアント」
肉体がさらに膨張する。
巨大化。
さっきよりも、明らかに大きい。
天記の声が低くなる。
「……これは、まずい」
その瞬間。
エイリ星人が再び踏み込む。
狙いは――
今度はジエル。
夜のベヘモトに、雷鳴のような轟音が響く。




