同じ中学
アグレスの情報提供により、商店街の近くまで来たエデン達。
商店街の近くを探し回っても、犯人の姿はどこにも見つからなかった。
エデン、亜爆、緋山、ナロクの四人は、それぞれ別の通りを調べ、不審な人物がいないか、路地裏や建物の陰まで確認していた。
しかし、手掛かりは一向に増えない。円を描く能力。突然現れ、被害者を襲い、そして再び円の中へ消えていく。目撃者がいても、犯人がどこから現れ、どこへ消えたのかまでは分からない。まるで街そのものを自由に移動しているかのようだった。
そして――
被害者の数は、少しずつ増えていった。
最初の一人から始まった事件は現在、六人にまで達していた。
「……六人目」
アグレスから届いた報告を聞いたエデンは、通信機を握ったまま顔をしかめた。
「どうして見つからないんだ……」
「神出鬼没すぎますね」
亜爆も周囲を見渡す。
「能力の発動条件が分からない以上、待ち伏せも難しい」
「円が出る場所もバラバラなんですよね?」
緋山が尋ねる。
「そうですね」
亜爆が答える。
「だからこそ、犯人がどこにいるのか絞り込めない」
四人の間に沈黙が落ちた。街はいつも通り人が歩いている。店が開き、車が走り、子供たちの声も聞こえる。ほんの少し前までは、エデンが「こんな日常がずっと続けばいい」と思った場所だった。
その日常のすぐ隣で、誰かが襲われている。犯人はどこにいるのか。何のためにやっているのか。誰にも分からない。
そんな中、ナロクだけは別のことを考えていた。
「……何かあるのかもしれない」
ナロクは小さく呟いた。
「え?」
緋山が振り向く。
ナロクは被害者たちについて考えていた。犯人は無差別に人を襲っているのか。無差別でないならなぜこの六人なのか。
「被害者同士に……何か関係がある可能性は?」
ナロクはそう考えた。
その考えを確かめるため、ナロクはアグレスへ通信を入れた。
「アグレスさん」
『新人君?どうしたの?』
「被害者の人たちが今どこにいるか教えてもらえませんか」
『……被害者に話を聞くつもり?』
「はい」
『分かった。今いる場所を送るね』
通信が切れる。
ナロクはすぐに走り出した。
「ちょっと、ナロク?」
緋山が驚いて声をかける。
「少し被害者の人たちに話を聞いてきます!」
そう言い残し、ナロクは街の中へ駆けていった。アグレスから送信された情報には被害者の場所だけでなく、被害者達のある共通点も入っていた。被害者達は全員、昔中学校の同級生だった。
最初に襲われた男性を除く五人。ナロクは一人ずつ、被害者のもとを訪ねていった。事件の直後ということもあり、誰もが疲れた表情をしていた。腕を押さえている者。肩に受けた傷の手当てを受けている者。恐怖から、何度も周囲を確認している者。それでもナロクは、一人ずつ丁寧に話を聞いていった。
「犯人について、何か覚えていることはありませんか?」
「……警察の人にも話したよ」
「それでも、何か一つでもいいんです」
「本当に何も分からないんだ。突然、地面に円が出てきて……」
「その円の色は?」
「……黒だった気がする」
「犯人の服装は?」
「見えなかった」
「声は?」
「聞いてない」
どの被害者も、ほとんど同じ答えだった。突然現れた。攻撃された。そして消えた。それ以上のことは、何も分からない。
ナロクは最後の被害者から話を聞き終えると、頭を下げた。
「ありがとうございます。何か思い出したことがあったら、後で警察の人にでも、俺たちにでも教えてください」
「……ああ」
ナロクはその場を離れる。
しかし、歩きながらも頭の中では先ほどまで聞いていた話が繰り返されていた。共通点がないわけではない。ナロクはアグレスから提供された情報を思い出す。
――被害者全員、昔同じ中学校に通っていた。
「……中学」
その言葉を口にした瞬間、ナロクは考え込んだ。それが何を意味するのかは分からない。同じ学校に通っていた。それだけなら、ただの偶然かもしれない。しかし、六人も同じ学校の出身者が狙われている。偶然と片付けるには、あまりにも引っかかる。ナロクがその場で立ち止まって考えていると、後ろから声がした。
「ナロク君」
振り返る。そこには亜爆が立っていた。亜爆はナロクの姿を見つけてから、しばらく様子を見ていたらしい。
「ずいぶん必死に犯人を捜してますけど……何か思うことでもあるんですか?」
ナロクは少し黙った。そして、視線を街の向こうへ向ける。
「……自分はただ、知りたいんです」
「知りたい?」
「なんでこんなことするのか」
ナロクの声は静かだった。怒っているわけでもない。犯人を憎んでいるわけでもない。ただ純粋に、理解しようとしていた。
「力があるなら……もっと他のことに使えるはずなのに」
自分も、これから能力を身につけようとしている。犯人も使っているラベジニウムの力を。力があるなら人を守ることに使える。そう考えるナロクには犯人の行動の意味が分からなかった。なぜ、その力を人を傷つけるために使うのか。なぜ、この六人なのか。何か理由があるのではないか。そう考えずにはいられなかった。
亜爆はそんなナロクを見つめ、少しだけ考える。
「ただの愉快犯なら、足取りを掴むのは不可能ですね」
「……はい」
「目的が分からなければ、次にどこを狙うのかも分からない」
「だから……」
ナロクは拳を握った。
「何か理由があるなら、それを知りたいです」
亜爆は黙ってナロクを見る。
まだ新人隊員。戦闘経験も少ない。能力だって、十分には扱えていない。それでも、事件から目を背けようとはしなかった。むしろ、自分にできることを探している。
亜爆は小さく息を吐いた。
「……分かりました」
「え?」
「もう少し、探してみましょう」
亜爆は街の先へ視線を向ける。
「犯人が何を考えているのか。それが分かれば、次に何をするのかも見えてくるかもしれません」
ナロクは頷いた。
「はい」
二人は再び歩き始めた。
しかし――
二人はまだ知らなかった。
六人の被害者を繋いでいる「同じ中学校」という共通点が、この事件の核心へと繋がっていることを。




