捜索開始
ナロクは、エデンたちの少し後ろを歩いていた。
先ほどまでの出来事が、頭から離れなかった。
街を歩いているだけだった。お年寄りに挨拶をして、子供たちに声をかけられて、何事もなく一日が過ぎていく。ほんの少し前まで、そんな平穏な時間だった。
それなのに――突然、事件が起きた。
能力によって傷つけられたという男性。そして、その犯人はおそらくECOの隊員ではない。能力犯罪者。ナロクは拳を握った。
(なんでなんだ?)
歩きながら、何度も同じ疑問が頭を巡る。能力を持っている。それだけで、普通の人間にはない力を持っている。だったら、その力を誰かを傷つけるために使う必要なんてない。むしろ――
(力があるなら……人を助けられる)
ナロクは前を歩くエデンたちを見る。エデンは周囲を警戒しながら歩いている。亜爆は時折周囲を確認し、緋山にも注意を向けている。
誰かを傷つけるためではない。街にいる人たちを守るために、彼らは力を使っている。ナロクにとって、それが当たり前だった。
だからこそ、分からない。同じように能力を持っている人間が、どうして誰かを傷つけるのか。
(力って……そんなに怖いものなのか?)
ナロク自身、現在能力を習得出来ていない。数日前に亜爆に特訓を頼んだのも、一刻も早く自分の力を使いこなしたかったからだ。けれど――
(もし俺が……力を間違えて使ったら?)
ナロクは足を止めかけた。その瞬間、前を歩いていたエデンが振り返る。
「ナロク?」
「……!」
ナロクは顔を上げる。
「どうしたの?」
「いや……」
ナロクは少し迷った。けれど、すぐに首を横に振る。
「何でもありません!」
「そう?」
エデンは少し不思議そうにしたものの、再び前を向いた。
ナロクも歩き出す。その背中を見つめながら、ナロクは思った。
(俺は……何のために力を使うんだ?)
まだ、はっきりとした答えは分からなかった。力を持つということは、それをどう使うのかを選ばなければならないということ。そして、自分はこれからその選択を何度もすることになるだろうと、そう心の中で思ったナロクは拳を強く握りしめた。
(とにかく俺は……誰かのために力を使いたい)
その決意だけを胸に刻み、ナロクはエデンたちの後を追った。
通信機からアグレスの声が聞こえてくる。その声は普段の落ち着いたものではなかった。
『被害者がまた増えた!』
その連絡を聞いた瞬間、四人の足が止まった。
街中を歩き回っていたエデンたちの間に、先ほどまでとは明らかに違う緊張が走る。
「……また?」
エデンが通信機を握り直す。
『今度は二人。場所は中央通りから少し外れた路地。さっきの事件と同じような傷を負ってる』
「分かりました。すぐ向かいます!」
エデンは返事をすると、すぐに走り出した。
「行こう!」
「はい!」
緋山が続き、ナロクも遅れずに走る。
亜爆は最後尾につきながら、周囲を警戒していた。
犯人は神出鬼没。目撃証言によれば、突然地面に円が現れ、その円から現れる。そして攻撃した直後、再び円を使って姿を消す。もしそれが本当なら、普通に街を歩いて探しているだけでは見つからない。こちらが探している間にも、犯人は別の場所へ現れる。まるで街そのものを自由に移動しているようだった。
「亜爆さん!」
ナロクが走りながら声をかける。
「なんでしょう?」
「この犯人……捕まえられるんでしょうか!」
「分かりません」
亜爆は即答した。
「ですが、被害者の証言が正しければ、円でワープするはずです。簡単には捕まらないでしょう」
「円……」
ナロクが呟く。
頭の中に、最初の被害者が語っていた光景が浮かんだ。
地面に突然現れた円。そこから出てきた人間。そして、別の場所に現れた円。
「……円でワープするだけなのか?」
エデンは前を見たまま言う。
「能力の全貌が分からなくても、被害を止めることが先だ」
「はい!」
四人は路地へと入った。そこには、すでに何人かの警察官が集まっていた。その中心にアグレスがいる。
「エデン君!」
アグレスがこちらに気づく。
「被害者は?」
エデンが駆け寄る。
「こっち」
アグレスが路地の奥を指差した。
そこには二人の男性が座り込んでいた。どちらも腕を押さえている。
幸い、命に関わるような状態ではなさそうだった。しかし、二人ともひどく怯えている。
「突然出てきたんだ……」
「何もしてないのに……」
被害者の言葉を聞きながら、エデンは周囲を見渡した。
路地には建物が並んでいる。逃げ道はいくつもある。そして――
「……円は残ってないか」
緋山が地面を見た。
「犯人は?」
エデンはアグレスに聞く。
「逃げられてる....」
「皆、探しに行こう」
その言葉を聞いたエデンは犯人による被害を食い止めるために、緋山達と共にまた犯人の捜索をしに行く。
街道を走り回り、路地裏まで隅々まで捜索したが、犯人を見つけることはかなわなかった。
「どこにもいない....」
亜爆がそう呟いたその瞬間。
――通信機が鳴った。
『エデン君! 聞こえる!?』
アグレスの声だった。
「はい!聞こえてます!」
『今、別の場所で円が出たって通報があった!』
「場所は!?」
『中央通りの東側! 商店街の近く!』
エデンはすぐに振り返った。
「行こう!」
四人が一斉に走り出す。
その背後で、ナロクは拳を握っていた。
「……捕まえる」
その目には、初めて明確な戦意が宿っていた。




