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エデン  作者: ko-da
第2部 3章 罪と力編

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パトロール

街の大通りを、四人のECO隊員が並んで歩いていた。

先頭を歩くエデンの隣には緋山(ひやま)。その少し後ろを亜爆(あばく)とナロクが歩いている。

エリア・ストラスでの任務を終え、休暇が終わってから数日が経っていた。オルの調査も本部で進められている。しかし、それ以外に大きな任務は入っていない。だからこそ、大山から言い渡されたのは、街のパトロールだった。エデンは周囲を見渡す。

以前、エイリワスとの戦いによって大きな被害を受けた街。そこにはまだ復旧途中の場所も多く残っている。それでも、人々は少しずつ日常を取り戻していた。

店の前を掃除する人。

学校へ向かう子供たち。

買い物袋を抱えて歩く人。

道路を走る車。

ほんの数ヶ月前まで、当たり前だった光景。それが今、少しずつ戻ってきている。

「おはようございます!」

緋山(ひやま)が前から歩いてきた老人に元気よく挨拶する。

老人は一瞬驚いたように目を丸くした後、穏やかに笑った。

「おお、おはよう。今日もご苦労さん」


「はい!」

緋山は笑顔で返す。

その横で、ナロクも姿勢を正した。

「おはようございます!」


「お、おう……」

老人が少し驚いたように返事をする。

亜爆(あばく)が苦笑する。

「ナロク君、そんなに大声を出さなくても聞こえますよ」


「す、すみません!」


「いや、別に怒ってませんよ」

ナロクは少し恥ずかしそうに頭を掻いた。

エデンはその様子を見ながら笑っていた。少し歩くと、今度は小さな子供たちが道の端で遊んでいるのが見えた。そのうちの一人がECOの制服に気付く。

「あっ! ECOだ!」

子供が指を差す。すると、他の子供たちも一斉に振り向いた。

「ほんとだ!」


「ECOの人だ!」


「エイリ星人やっつけてくれる人!」

子供たちが集まってくる。

緋山はしゃがみ込み、子供たちと目線を合わせた。

「こんにちは」


「こんにちは!」


「危ないところには行っちゃ駄目だよ」


「分かってる!」


「本当に?」


「本当!」

元気な返事に、緋山は笑う。

その様子を少し離れたところから見ていたエデンは、ふと足を止めた。街を見渡す。人々が歩いている。子供たちが笑っている。店からは料理の匂いが漂ってくる。どこにでもあるような、ごく普通の日常。エデンはその光景を静かに眺めていた。

「……こんな日常がずっと続けばいいんだけどね」

ぽつりと呟く。

亜爆がその言葉を聞いた。

「エデンさん……」


エデンは振り返ることなく、再び歩き始める。

「まあ、そう簡単にはいかないんだろうけど」

軽い口調だった。しかし、その声には僅かな寂しさが混じっていた。

エイリワスとの戦いから、四ヶ月。街が復旧していく一方で、ECOの中には未だにあの戦いの傷が残っている。失われた命。傷ついた仲間。そして、消息不明のまま死亡と記録されたジエル。エデンはそれを認めていない。

どこかで生きている。そう信じ続けている。だからこそ――

今こうして街を歩いていると、余計に思う。この日常を守るために、ECOは存在している。二度と、あんな戦いを起こさないために。

「エデン先輩」

緋山が隣に並ぶ。


「どうしたの?」


「……私、こういうパトロール好きです」


「そう?」


「はい。みんな普通に笑ってて……私たちが守ってるんだって感じがします」


エデンは少しだけ目を細めた。

「そっか」


「はい!」

緋山は笑う。

その後ろでは、ナロクが街を真剣な表情で見回していた。

「……」


「ナロク君?」

亜爆が声をかける。

「どうしました?」


「いや……」

ナロクは少しだけ拳を握る。

「こういう日常を守れるなら……自分ももっと強くならないといけないなと思って」


亜爆はその言葉を聞いて、微笑んだ。

「そうですね」

四人は再び歩き始める。街には穏やかな風が吹いていた。誰もが、今日という一日が明日も続くと信じている。ECOの隊員たちも、今はその日常の中を歩いている。

――だが次の瞬間。

「ぐああああ!」

歩くエデン達の先から悲鳴が聞こえた。四人の足が止まる。

エデンはすぐに声のした方向へ顔を向ける。

「今の……!」


「悲鳴ですね」

亜爆も表情を引き締める。

四人はほとんど同時に走り出した。

さっきまでの穏やかなパトロールとは一転して、空気が張り詰めていく。エデンを先頭に路地を曲がると、そこには一人の男性が道路脇に倒れ込んでいた。

腕を押さえている。その隙間から、赤い血が流れていた。

「大丈夫ですか!?」

エデンが駆け寄る。

男性は苦しそうに顔を上げた。

「……やられた……」


「怪我をしたんですか?」


「……ECOに……」

男性の声が震える。そして次の瞬間、まるで恐怖をぶつけるように叫んだ。

「ECOにやられた!」


「……え?」

エデンの表情が固まった。

「本当に……ECOが?」


「そうだ!」

男性は叫びながら、傷ついた腕を押さえる。

「あんな特殊な能力が使えるのはECOだけだろ!」

その言葉に、エデンは何も返せなかった。背後にいた緋山も目を見開いている。ナロクは男性と周囲を交互に見ながら、警戒するように拳を握った。亜爆だけは冷静だった。

「取り敢えず落ち着いてください。救急車を呼びました」

そう声をかけながら、男性の傷の状態を確認する。幸い、出血はあるものの、今すぐ命に関わるような状態には見えなかった。

しかし問題は別にある。ECOの隊員が、市街地で一般人を襲った。もしそれが事実なら、単なる事件では済まされない。ECOそのものへの信頼にも関わる。

亜爆は男性へ視線を戻した。

「その能力の特徴は分かりますか?」


「能力……?」


「はい。相手がどんな能力を使っていたのか、できるだけ詳しく教えてください」

男性は荒い呼吸を繰り返しながら、必死に記憶を辿る。

「……歩いてたら……」

男性の視線が地面へ落ちる。

「急に……地面に円が描かれて……」


「円?」


「そうだ……俺の目の前の地面に……」

男性は震える指で、地面を指した。

「そこから、そいつが出てきたんだ」


エデンは黙って聞いていた。

「人が……地面から?」


「そうだ……突然だった」

男性の声には、まだ恐怖が残っている。

「何が起きたのか分からなくて……逃げようとしたら……」

そこで男性は傷ついた腕を見る。

「そいつが俺の腕を……ナイフで切った」


緋山が息を呑む。

「ナイフ……」


男性は続ける。

「でも……それだけじゃなかった」


「どういうことですか?」

エデンが尋ねる。

男性は地面を見つめたまま答えた。


「俺が切られた瞬間……今度は円が、あいつの下に出たんだ」


「……!」

四人の表情が変わった。

「そして……」

男性は言葉を詰まらせる。

「そいつは……消えた」


「消えた?」


「円の中に……そのまま吸い込まれるみたいに……」


亜爆は静かに考え込んだ。

地面に円を出現させる。そこから姿を現す。攻撃を行った後、再び円を出して消える。単純な瞬間移動とも違う。何らかの空間系能力。しかし、それだけではない。

男性の証言で特に引っかかる部分があった。

「……腕を切った後に、相手の下へ円が出たんですよね?」

亜爆が確認する。


「そうだ……」


「何か条件のようなものはありましたか?」


「条件?」


「例えば、あなたに触れた後だったとか。あるいは、攻撃を受けた後にしか円が出なかったとか」

男性は必死に思い出そうとする。

「……分からない」


「そうですか」

亜爆はそれ以上聞かなかった。

その横でエデンは、男性が言った言葉を何度も頭の中で繰り返していた。

――ECOにやられた。

本当にECOの隊員なのか。それとも、ラベジニウムを使った別の誰かなのか。エデンは自分の左手に埋め込まれているインターフェースを見る。

「……ECO以外にも、能力を使える人間はいる」


亜爆が静かに言った。

「能力犯罪者もいますからね」


緋山は不安そうに周囲を見渡す。ナロクは険しい顔をしていた。

「……もし本当にECOの隊員だったら」

誰も答えない。街の中を、冷たい風が通り抜ける。ついさっきまで、子供や老人と挨拶を交わしていた。何気ない日常だった。エデンが「こんな日常がずっと続けばいい」と言ったばかりだった。それなのに。その日常のすぐ隣で、誰かが能力を使い一般人を襲っている。

「……」

エデンは立ち上がった。

「この事件、ちゃんと調べよう」

その声には、先ほどまでの穏やかさはなかった。

「ECOの隊員がやったのか、それとも別の誰かなのか」

エデンは周囲を見渡す。

「どっちなのか、確かめないと」

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