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エデン  作者: ko-da
第2部 2章 休暇編

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家でのエデン

フェイルは台所に立つと、手際よく食材を並べ始めた。

休日の昼前。

普段なら静かに過ごしているはずの家の中には、今日はいつもより少しだけ賑やかな空気が流れていた。息子がECOの任務で家を離れてから、こうして友人を連れて帰ってくること自体が珍しい。

しかも今日は、エデンが連れてきたというより、偶然ついてきた二人がそのまま家に招かれた形だ。

フェイルはそんな事情など気にする様子もなく、鼻歌交じりに鍋を取り出した。

「せっかくだから、ちょっと早いけど昼ご飯にしましょうか」


「えっ、いいんですか?」

緋山(ひやま)が目を輝かせる。


「もちろんよ。二人とも遠慮しないでね」


「ありがとうございます」

シオンも小さく頭を下げた。

普段のシオンは感情を大きく表に出すことは少ない。だが、フェイルの言葉には少しだけ表情が柔らかくなっていた。

その横ではリュートが杖を片手に椅子へ腰を下ろしている。

「久しぶりのお客さんだからな。フェイルも嬉しくなってるんだ。ぜひ食っていってくれ」


「そんなに久しぶりなんですか?」

緋山(ひやま)が尋ねる。


「まあな。エデンは昔から家に友達を連れてくることが少なかったから」


「父さん、余計なこと言わなくていいって」

エデンが呆れたように言う。


「本当のことだろ」


「そうだけどさ……」


緋山は思わず笑ってしまった。

任務中のエデンしか知らなかった彼女にとって、こうした姿を見るのは新鮮だった。

ECOの隊員として戦うときのエデンは、どこか飄々としているように見えても、戦闘になれば真っ先に前へ出る。だが、家では普通の高校生と変わらない。父親に余計なことを言われれば嫌そうな顔をし、母親に食事を勧められれば断り切れない。その違いが、妙に面白かった。

やがて、台所から香ばしい匂いが漂ってくる。フェイルが鍋の蓋を開けると、湯気とともにカレーの香りが部屋いっぱいに広がった。

「カレーですよ」


「カレー!」

緋山が思わず声を上げる。

シオンも鍋を見る。

「……いい匂い」


「でしょう?」

フェイルは嬉しそうに笑った。

エデンも立ち上がり、台所を覗き込む。

「今日カレーなんだ」


「そうよ。みんなで食べるなら、これくらいがいいかなって」


「うん」

エデンは鍋の中を覗き込む。

そして、少しだけ眉を寄せた。

「……あれ?」


「どうしたの?」


「ルー少ないじゃん」

鍋の底が少し見えていた。人数を考えると、全員分を盛るには少し心許ない量だった。フェイルも鍋を確認する。

「……本当」


「俺、買ってくるよ」

エデンはすぐに玄関へ向かう。


「え? エデン先輩が?」

緋山が驚く。


「この近くに店あるから。二人の分は先に作っておいて」


「でも、せっかくのお休みなのに……」


「別にこれくらいなら大丈夫だって」

エデンは靴を履きながら振り返る。

「シオンと緋山は先に食べて待ってて」


「……分かった」

シオンが頷く。


「はい!」

緋山も元気よく返事をした。

エデンはそのまま玄関の扉を開ける。

「じゃ、行ってくる」


「気をつけてね」

フェイルの声を背中に受けながら、エデンは家を出ていった。

扉が閉まる。家の中に、再び静かな時間が戻った。

「……なんか」

緋山がぽつりと呟く。


「何?」

シオンが尋ねる。


「エデンさんって、家だと普通なんですね」


「普通?」


「はい。もっとこう……」

緋山は少し考える。

「ECOでは強くて、頼りになって、なんでもできる人って感じだったから」


「……確かに」

シオンも頷く。


その言葉に、リュートが小さく笑った。

「あいつは昔から変わらないよ」

リュートは窓の外へ目を向ける。

エデンが歩いていった方向。

「戦いでは強くなったらしいが……家に帰ってくれば、俺たちにとってはいつまでも息子だ」

フェイルが二人の前に皿を置いた。

「二人とも、お腹空いてるでしょう?」


「はい!」


「……ありがとうございます」


「ふふ。遠慮しなくていいからね」

カレーの皿から立ち上る湯気が、二人の視界を少しだけ白くする。シオンはスプーンを手に取った。けれど、すぐには食べず、少しだけカレーを見つめた。

「……先輩」


「え?」


「どうしたら、ちゃんとした先輩になれるんだろう」

突然の言葉だった。

緋山もシオンを見る。

シオンはスプーンを握ったまま、少し俯いている。エリア・ストラスでの出来事が、まだ頭から離れていなかった。フルトに上手く指示を出せなかったこと。その結果、フルトが危険な目に遭ったこと。あのとき大山が助けてくれなければ、どうなっていたか分からない。シオンは自分の判断不足をずっと気にしていた。

「……先輩として、もっとしっかりしないと」


「シオン先輩」

緋山はシオンを見る。

「私も頑張ります」


「……え?」


「私、エデンさんを選んだけど、エデンさんだけに頼るつもりはありません」

緋山はスプーンを握る。

「私も強くなります。だから、シオン先輩も一緒に頑張りましょう」


シオンは少し目を見開いた。そして、ほんの少しだけ笑う。

「……うん」

二人の前に置かれたカレーから、湯気が立ち上っている。その光景は、戦場からはあまりにも遠い。

四ヶ月前。エイリワスとの戦いによって、多くのものが失われた。街は壊れ、多くの隊員が傷つき、そしてジエル・レートは消息を絶った。エデンたちの中には、その傷がまだ残っている。それでも、時間は進んでいく。新しい隊員が入り、新しい関係が生まれ、新しい任務が待っている。そして、その中で彼らは少しずつ先へ進んでいかなければならない。

シオンはスプーンですくったカレーを一口食べる。

「……美味しい」


「本当?」

フェイルが嬉しそうに尋ねる。


「はい」

緋山も一口食べる。

「美味しいです!」


「よかった」


リュートも満足そうに頷いた。

そんな家の中から少し離れた場所。エデンは財布をポケットに入れながら、近所の店へ向かって歩いていた。休日の街。戦いの傷跡が残る場所も多い。それでも、人々は少しずつ日常を取り戻そうとしている。

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