連携
エリア・ストラスに入った瞬間、空気が変わった。装甲車を降りた一行は、大山を先頭にしてゆっくりと進んでいく。エリア・ストラスは、これまでエデンが訪れたエリアと比べても、妙に静かだった。道路の両脇には建物が並んでいるものの、人の姿はない。風が吹くたびに、道端に溜まった砂埃が僅かに舞い上がる。ここにはエイリ星人がいる。それを全員が理解しているからこそ、誰も不用意に騒ぐことはなかった。
そんな中、少し後ろを歩いていたエデンの周囲だけは、比較的穏やかな空気が流れていた。胸ポケットから顔を出したオルと、緋山がエデンに話しかけている。
「オルって、小さくて可愛いね!」
緋山はオルを覗き込みながら、楽しそうに言った。
オルは胸を張るように身体を反らす。
「オルはかわいいですぞ?」
「うん!」
「やはりそうですか!」
「自分で言うんだ……」
エデンは苦笑した。緊張感のある場所だというのに、この二人と一匹が話していると、どうにも空気が柔らかくなる。
その少し後ろでは、ナロクとフルトが歩いていた。ナロクは前を歩くオルを見ながら、ぽつりと口を開く。
「なあ、フルト」
「な、何?」
「オルってエイリ星人なんだよな」
「う、うん……危険じゃないとは聞いてるけど」
フルトはオルをちらりと見る。小さな身体。エデンの胸ポケットに収まり、普通に会話をしている。見た目だけなら、とてもエイリ星人には見えない。
しかし、エデン達がそう呼んでいる以上、普通の生物ではないことだけは分かる。
「..........少し警戒しちゃうね」
「警戒しておくのに越したことはないな」
ナロクはそう言いながらも、それ以上オルについて口を挟むことはなかった。
そして、その時だった。エデンの表情が変わった。先ほどまで緩んでいた目つきが、一瞬で鋭くなる。足が止まった。
「……止まって」
その声に、緋山も立ち止まる。
「エデンさん?」
エデンは答えなかった。前方を見つめている。微かな音。建物の陰。そして、複数の気配。次の瞬間。建物の影から、異形の姿が次々と現れた。エイリ星人。一体ではない。二体、三体……さらにその後ろからも別の個体が姿を現す。
緋山の表情が強張った。
「……っ」
エデンはすぐに緋山の前へ出る。
「下がって」
短い言葉だった。それだけで、先ほどまでの穏やかな雰囲気は完全に消えた。
エデンは構える。そして、エイリ星人が一斉に飛びかかった。
「来る!」
エデンが地面を蹴った。
一体目の攻撃を身体を捻ってかわし、その勢いのまま拳を叩き込む。エイリ星人の身体が吹き飛ぶ。
その横から別の個体が迫る。しかし、その前にドロイが入り込んだ。
「グラスさん、警戒してください」
「え?」
ドロイがグラスへ声をかける。
グラスは一瞬だけ戸惑ったような表情を見せた。だが、すぐに眼鏡を押し上げる。
「……能力発動」
そして、ラベジニウムの力を発動した。
「分身」
その瞬間。グラスの隣に、もう一人のグラスが現れた。姿も服装も、何もかも同じ。まるで鏡から本人が抜け出してきたかのようだった。
エデンが目を見開く。
「あれがグラスの能力……」
分身はすぐさまエイリ星人へ向かって走り出した。本体のグラスは建物の陰へ身を隠す。分身が囮になる。
その意図を理解したドロイも、すぐに動いた。
「行きます」
エイリ星人が分身へ攻撃を繰り出す。分身はそれをかわし、反撃する。その隙にドロイが横から入り込み、鋼鉄の拳を叩き込んだ。鈍い衝撃音。エイリ星人が地面を転がる。さらに分身が追撃し、ドロイが最後の一撃を加える。一体が倒れた。
「上手い……」
エデンは戦いながら、その連携を見ていた。
新人とはいえ、グラスは自分の能力を理解している。ドロイとの連携も悪くない。
一方、亜爆はナロクのところへ爆弾を一つ放った。
「これを相手に投げてください」
「俺が?」
「ええ」
亜爆は淡々と爆弾を生成する。
ナロクは受け取った爆弾を見る。
「……了解しました!」
ナロクが勢いよく投げる。爆弾はエイリ星人の身体へ命中した。
「今です!」
亜爆が合図を出すと、爆弾が爆発する。エイリ星人が大きくよろめいた。そこへ、さらに亜爆が爆弾を投げ込む。二度目の爆発が起こり、エイリ星人の姿が煙の向こうへ消えた。
ナロクは驚いたように目を見開く。
「すごい火力だ!」
「まだ油断しないでください」
「はい!」
亜爆は冷静だった。煙の向こうからエイリ星人が出てくる可能性を警戒している。しかし、しばらくしても動きはなかった。
その頃。
シオンはフルトの方を向いていた。
「フルト」
「は、はい!」
「あっちのを倒して」
シオンが指差した先には、まだこちらへ向かってくるエイリ星人がいた。フルトの顔が引きつる。
「え、えっと……あ……」
足が動かない。頭では動かなければいけないと分かっている。しかし、目の前に迫ってくる異形を前にして、身体が言うことを聞かなかった。エイリ星人が腕を振り上げる。
「……っ!」
フルトがようやく身を引こうとした、その瞬間。地面が大きく隆起した。
「大地防壁」
大山が能力を発動する。地面から巨大な土の壁がせり上がり、エイリ星人の攻撃を受け止めた。轟音が響く。
フルトは尻餅をついた。
目の前には、自分を守るようにそびえ立つ土壁。大山が振り返る。
「大丈夫か?ぼさっとしてると死ぬぞ」
「……す、すみません」
フルトは俯いた。
その横で、シオンも拳を握りしめている。
「……ぼくのせいで」
「え?」
「ぼくが、ちゃんと指示してなかったから……」
シオンは自分を責めるように呟いた。
大山はそれを聞きながら、土壁の向こうにいるエイリ星人を見据える。
「俺がやります!」
エデンはそのエイリ星人に距離をつめ、何もさせずに撃破する。エイリ星人の身体が消滅していく。
エリア・ストラスの静かな街に、エイリ星人の咆哮が響き渡る。




