エリア・ストラス任務開始
エリア・ストラス任務当日。
アモリス地区からエリア・ストラスへ向かう装甲車の中は、走行による低い振動に包まれていた。窓の外では、アモリス地区の街並みが徐々に遠ざかっていく。今回の任務に参加するのは、エデン達教育部隊の八人と、その指揮を担当する大山だった。
エデンは座席に背を預けながら、窓の外を眺めていた。エリア・ストラス。数日前に知らされた今回の調査先。これまでにもエデンは何度かエイリ星人がいるエリアに入ったことがある。エリア・ベヘモト。エリア・アスタロス。
どの場所にもエイリ星人が存在していた。しかし、エリアというものが一体何なのか。以前からエデンは、漠然とした疑問を抱いていた。
「……そういえば」
エデンが口を開く。
車内にいた大山が振り返った。
「どうした?」
「エリア指定って、解除されることはあるんですか?」
その質問に、大山はすぐには答えなかった。少しだけ考えるようにエデンを見る。そして、逆に問い返した。
「エデンは、特定の場所が何でエリア指定されるのか知ってるか?」
「えっと……」
エデンは腕を組む。
「エイリ星人がたくさんいるから……ですか?」
大山は首を横に振った。
「それだけじゃエリア指定されない」
車内の空気が少し変わった。新人たちも自然と大山へ視線を向ける。
シオンは黙って話を聞き、グラスは眼鏡の位置を直した。
緋山も興味深そうに大山を見る。
大山は続けた。
「問題なのは、エイリ星人のエネルギーだ」
「エネルギー……?」
エデンが聞き返す。
「ああ」
大山は窓の外へ視線を向けた。
「エリア指定されている場所には、エイリ星人が持つエネルギーが大気中に蔓延している」
その言葉を聞いて、エデンは少し驚いた。これまでエイリ星人とは、ただ戦う対象として認識していた。だが、その存在そのものが周囲の環境に影響を与えている。そう考えると、エリアというものが単なる危険区域ではないことが分かる。
「エイリ星人は、そのエネルギーから生まれるらしい……」
大山の言葉に、車内が静かになった。
「つまり……」
ドロイが口を開く。
「エイリ星人がいるせいでエイリ星人のエネルギーが増え、そのエネルギーから新たなエイリ星人が生まれるということですか?」
「そういうことだ」
大山は頷いた。
「だから、エリア指定されている場所では、エイリ星人が倒されても完全に安全になったとは言えない」
エデンは黙って考えた。一体倒せば終わり。そういう単純な話ではない。周囲に残ったエネルギーがある限り、また新しいエイリ星人が生まれる可能性がある。そして、それが繰り返される。
「じゃあ……エリア指定は解除されないんですか?」
エデンが尋ねる。
大山は首を横に振った。
「いや、条件を満たせば解除される」
「条件?」
「その場所にあるエイリ星人のエネルギー濃度が、エイリ星人が発生しない濃度まで下がることだ」
エデンは目を見開いた。それなら、長い時間をかければいつかエリア指定を解除できる。そう思った。しかし、大山の表情は明るくなかった。
「……でも、それってかなり時間がかかるんですよね?」
亜爆が尋ねる。
「その通りだ」
大山は答える。
「それに、厄介な問題もある」
「問題?」
「エイリ星人のエネルギー濃度を、意図的に下げる方法が今のところ存在しない」
その言葉に、ドロイが眉を寄せた。
「では、どうやってエリアのエネルギーを減らすんですか?」
「時間経過による自然減少を待つしかない」
大山は淡々と言った。
「だからこそ、俺たちがやることには意味がある」
装甲車が大きく揺れた。誰も言葉を挟まない。
「エイリ星人を放置すれば、そいつらが新たなエネルギーを生み出す」
大山は隊員たちを見渡す。
「そうなれば、エリアの状態はいつまで経っても改善しない」
そして、拳を軽く握った。
「だから俺たちにできることは一つだ」
「これ以上、エイリ星人のエネルギーが増えないようにする」
大山の声が車内に響く。
「定期的にエイリ星人を討伐するんだ」
エデンは窓の外を見る。
遠くに、街の建物が少なくなってきていた。その先に広がるのは、エリア・ストラス。まだ到着していない。それでも、その場所がただの調査区域ではないことだけは分かった。そこには長い間蓄積されてきたエイリ星人のエネルギーがあり、その環境そのものが新たな脅威を生み出している。
「……討伐し続けるしかないのか」
エデンは小さく呟いた。自分たちがこれから向かうのは、単にエイリ星人を倒す場所ではない。人類が長い時間をかけて向き合い続けている場所なのだ。
その時だった。装甲車の前方から、僅かに速度を落とすような動きが伝わってきた。大山が前方を確認する。
「そろそろエリア・ストラスだ」
その一言で、車内の空気が変わった。新人たちも、それぞれ表情を引き締める。
エデンは胸ポケットに手を添えた。そこからオルが小さく顔を出す。
「いよいよですぞ」
ケイの声が頭の中に響く。
『気を付けろ何が来るかは分からん』
「ああ」
エデンは前方を見据えた。
エリア・ストラス。新たな仲間たちとの、最初の任務が始まろうとしていた。




