グラスとフルト
一方、フルトは少し離れたところで、誰を選ぶべきか迷っているようだった。教室の中には、すでに後輩と先輩の組み合わせが少しずつ出来始めている。エデンと緋山。亜爆とナロク。
残るのは、グラス、シオン、ドロイ、フルトの四人。
フルトは周囲を見回したあと、隣にいるグラスへ小さな声で話しかけた。
「……先に……決めてもらっていいよ」
グラスは少し驚いたようにフルトを見る。
「オレが先でいいんですか?」
「うん……」
フルトは遠慮がちに頷いた。グラスは少し考える。教室にいる先輩たちを一人ずつ見ていく。そして、ある人物のところで視線を止めた。
「それなら……オレは.......」
グラスはシオンの方へ歩いていく。
「よろしくお願いします。ドロイさん」
そう言いながら、グラスは丁寧に頭を下げた。
しかし――
グラスが頭を下げた先にいたのは、ドロイではなかった。シオンだった。シオンは突然目の前で頭を下げられ、少し困惑した表情を浮かべる。
「……?」
ドロイは数秒ほど黙っていた。そして、グラスの横から静かに声をかける。
「……グラスさん」
「はい?」
「俺はこっちです」
ドロイが自分の位置を指差す。グラスは固まった。
ゆっくりと首を動かし、自分が頭を下げていた相手を見る。そして、隣にいるドロイを見る。
「…………」
「…………」
シオンも何も言わない。数秒間、教室に妙な沈黙が流れた。
「……す、すみません!」
グラスは慌ててドロイの方へ向き直る。
「よろしくお願いします、ドロイさん!」
今度こそ、ドロイの目の前で深々と頭を下げた。ドロイは少しだけ目を丸くしたあと、穏やかに頷いた。
「はい。よろしくお願いします」
その様子を見ていたエデンが、思わず口元を緩める。
「グラスって、結構うっかりするタイプなのか?」
「……要領悪くてすみません」
グラスは眼鏡を直しながら、少し気まずそうに答えた。シオンはそんなグラスを見て、ぽつりと言う。
「……面白い人」
こうして、グラスの担当はドロイに決まった。最後に残ったのは、フルトだった。フルトは教室の中を見回していた。エデンには緋山。亜爆にはナロク。ドロイにはグラス。そして、まだ担当の決まっていないシオンがいる。フルトはしばらく悩んだあと、小さく息を吐いた。
「じゃあ……僕はシオンさんで……」
その言葉を聞いたシオンが、フルトを見る。
「……ぼく?」
「は.....はい」
フルトは頷いた。だが、すぐに何かに気付いたように慌てて両手を振った。
「ああ! いや、別に消去法で選んだとか、そういうわけじゃなくて!」
「……?」
シオンは首を傾げる。
フルトはさらに焦ったように言葉を続けた。
「皆さん全員いい人そうだなと思って、ずっと悩んでただけで……!」
「……うん」
「その……僕、優柔不断なんですよ」
そこまで言って、フルトは気まずそうに俯いた。
シオンはしばらくフルトを見つめていた。やがて、ほんの少しだけ表情を緩める。
「別に気にしてない」
「……本当ですか?」
「うん」
「よかった……」
フルトは胸を撫で下ろした。
その様子を見ていたエデンは、どこか微笑ましい気持ちになっていた。
こうして、四人の担当が決まった。
エデンと緋山天狐。亜爆とナロク。ドロイとグラス。そしてシオンとフルト。大山は全員を見渡す。
「よし。これで担当は決定だ」
教室の中に、少しだけ新鮮な空気が流れた。
四ヶ月前。エイリワスとの戦いによって、多くのものが失われた。ジエルも、その一人だった。けれど今、ECOには新しい隊員たちが入ってきた。新しい力。新しい関係。そして、これから始まる新しい戦い。エデンは目の前に並ぶ後輩たちを見ながら、静かに思った。
(……ここから、また始まるんだ)
胸ポケットからオルが少し顔を出す。
「なんだか賑やかになったですぞ」
「そうだな」
エデンは小さく笑った。
大山は四人の新人を見渡す。先ほどまでの自己紹介を終え、教室には少し落ち着いた空気が戻っていた。しかし、大山はまだ話を終えていなかった。
「……さて」
大山は教卓に置かれていた資料を手に取る。
「早速だが、新人にも経験を積んでもらわないといけない」
その言葉を聞いた瞬間、緋山が姿勢を正した。ナロクも真剣な表情になる。グラスは眼鏡を直し、フルトは少し緊張したように大山を見る。大山は資料をめくりながら続けた。
「5日後、アモリス地区にあるエリア・ストラスへの調査任務が入っている」
「エリア・ストラス?……」
エデンが呟く。聞き覚えのない場所だった。大山は教室にいる全員へ視線を向ける。
「エイリ星人を探していたら討伐するっていう任務だ」
「今回は、お前達八人と俺が行くことになっている」
エデン、亜爆、ドロイ、シオン。そして、緋山、ナロク、グラス、フルト。合わせて八人。そこに教育担当の大山が加わる。新人たちにとっては、初めての本格的な任務になる。
大山は話を続ける。
「エリアに入る以上、エイリ星人と遭遇する可能性は考えておけ」
その言葉に、教室の空気が少しだけ引き締まった。新人達の顔に少し不安が浮かぶ。大山はそんな新人たちへ、最後に告げる。
「それまでに鍛えておけよ」
「はい!」
真っ先に返事をしたのは緋山だった。ナロクもすぐに続く。
「承知しました!」
グラスは頷き、フルトも小さく頷いた。シオンは静かに答える。
「分かった」
大山は満足そうに頷いた。
「よし。今日はここまでだ」
椅子が動き、教室の中が少しずつ騒がしくなる。
5日後に、新たな八人による、最初の任務が始まる。




