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エデン  作者: ko-da
10章 エイリワス決戦編

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エイリワス決着

ジエルは止まらなかった。左腕を失い、全身は傷だらけ。呼吸をするたびに胸が軋み、足は鉛のように重い。それでも前へ進む。この戦いだけは、絶対に終わらせなければならない。そんな強い意志だけが、ジエルの身体を動かしていた。

黒い電気が全身を駆け巡る。進化の種によって膨れ上がった莫大なエネルギーが、暴れ狂うように放電を続けている。ジエルは、その全てを惜しみなく解き放った。拳を振るう。蹴りを叩き込む。電撃を浴びせる。一撃一撃に、自分の命を削る覚悟を乗せながら、エイリワスへ叩き込み続けた。

エイリワスも死体を操り応戦する。エイリワスはもう次元(ディメンション)使うことはできない。攻撃を確実に避ける方法はなく、肉弾戦をするしかない。その差が、戦況を大きく変えていた。

「ッ!!」

ジエルの拳がエイリワスの腹部へめり込む。衝撃でエイリワスの身体が大きく仰け反る。肘打ち。回し蹴り。雷撃。追撃をくらわせる。まるで嵐だった。攻撃が止まらない。その最中だった。

右拳を振り抜いた衝撃で、左肩へ巻いていた青いはちまきが風に舞った。布が宙を舞い、海風へさらわれていく。露わになる傷口。しかし――

そこから血は流れていなかった。既に傷は塞がっている。それを見た瞬間、エイリワスの目が見開かれる。

(進化の種は再生力を高める効果がある....)

(やはり進化の種は埋め込んでいるままか……)

(再生力の向上は埋め込んだ後の一時的なものだと思っていたが.......ここまで進化が進むとこうなるのか)

(腕にないなら....どこにある?)


考える暇を与えない。ジエルがさらに踏み込む。渾身の蹴りが炸裂した。

「ぐっ……!」

エイリワスは大きく吹き飛ぶ。ジエルは着地すると、その場で右脚へ全神経を集中させた。黒い雷が右脚へ吸い寄せられていく。大気が震える。足元の地面が砕ける。バチバチという音が空気を裂き、エネルギーは爆発的に膨れ上がっていった。エイリワスはその異常なエネルギーを見て悟る。

(進化の種は……右脚か……)


ジエルは右脚をゆっくり引く。その姿勢は、まるで獲物へ飛びかかる猛獣だった。

「くらいやがれ」

その瞬間だった。右脚から黒い雷が爆発する。轟音。視界を埋め尽くす稲妻。

そして――

ジエルの姿が消えた。

エイリワスは目を見開く。

(どこに消えた?)

反射的に後ろを振り向く。そこにはもう、ジエルが立っていた。右脚を振り抜いた姿勢のまま。

「怒雷浮羅輪(ドライフラワー)」

直後。エイリワスの全身から黒い雷が花のように咲き乱れた。無数の花弁。いや、花弁のように広がる黒い電撃。炸裂しながら身体中を駆け巡り、一斉に弾け飛ぶ。

「があああぁぁぁっ!!」

轟音と共にエイリワスは吹き飛んだ。一直線に崖際まで弾き飛ばされ、その衝撃で身体が大きく歪む。次の瞬間。ジエルの父の身体と、エイリワス本体が分離した。

「……!」

エイリワスは初めて焦りを見せる。

(まずい……)

そのまま口を大きく開いた。ゴボッという音と共に、二つのラベジニウムが吐き出される。地面へ転がる二つの光。ジエルはすぐに駆け寄り、それを拾い上げた。

一つは兄、ジエル・ゲートのラベジニウム。もう一つは、ラベンダーが自分の身体へ埋め込んでくれたラベジニウムだった。ジエルは静かに握り締める。

「兄貴……」

少し笑う。

「ラベンダー」

その瞳には感謝しかなかった。

「ありがとう」

二つを大事そうにポケットへしまう。まだ終わっていない。エイリワスは生きている。

しかし同時に、ジエルの身体も限界だった。全力を使い切った反動。過剰適応(オーバーダプト)は沈黙した。黒い雷が消えていく。身体中から力が抜けていく。

それでも。ジエルは止まらない。

「お前だけは……」

地面を蹴る。

「絶対に倒す!」

一直線。迷いなく突っ込む。エイリワスの身体を掴む。

「なっ……!」

エイリワスの表情が変わる。そのまま勢いを殺さず。二人は崖から飛び出した。

「まさか……ここまでやるとは……」

眼下には荒れる海。沈みゆく夕日が海面を赤く染めていた。落下しながらエイリワスが呟く。

「君も死ぬぞ……」

ジエルは睨み返した。

「死ぬのが怖いなら」

海風が髪を揺らす。

「ここにいねぇよ!」

二人の身体が海へ落ちる。巨大な水柱が上がった。冷たい海水。身体が沈んでいく。ジエルは最後の力を振り絞る。

(ここなら逃げ場はねぇ!)

(これで最後だ……)

右脚の奥底。まだ僅かに残る進化の種の力。その全てを解き放つ。

(進化の種……)

(俺に力を貸しやがれ……)

黒い雷が再び生まれた。海中を黒く染めるほどの電流。巨大な雷刃が右脚から形成される。

「臨界怒雷刃(クリティカドライバー)!」

雷が海中を裂いた。巨大な黒い刃がエイリワスを真正面から飲み込む。核ごと。身体ごと。存在そのものを。エイリワスは静かに目を閉じた。抵抗しない。逃げない。最後に小さく笑った。

(いいだろう……)

その意識がゆっくり薄れていく。

(今回は……)

雷が核を砕く。

(君の勝ちだ)

次の瞬間。轟音。黒い雷の刃は海を大きく切り裂きながら天へと突き抜けた。海面が左右へ割れる。巨大な水柱が夜空へ昇る。その光景を最後に。太陽は完全に水平線の向こうへ沈んだ。辺りは静かな夜へ包まれていく。エイリワスの姿は、もうどこにもなかった。ただ海だけが静かに波を打っている。

ジエルは力なく海を漂う。右腕も動かない。足も動かない。視界はぼやけ始めていた。身体中から熱が失われていく。

(エデン……)

浮かぶのは仲間たちの顔だった。

(亜爆……)


(ドロイ……)


(天記さん……)


(皆……)

意識が遠のいていく。海流がジエルの身体をゆっくり運ぶ。もう抵抗する力は残っていなかった。

(すまねぇ……)


その小さな謝罪だけを胸に。

ジエル・レートの身体は、静かな海の上をゆっくりと流されていった。

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