エイリワス決戦⑤
ブウタ地区、市街地。
神宮寺希の前には五体の進化個体が立っていた。エイリワスが生み出した最高傑作。血刃たち精鋭部隊ですら壊滅に追い込まれた怪物たちが、今度は神宮寺の命を狙っている。
エイリゴルが六本の腕を鳴らすように握り締める。その巨体から放たれる威圧感は凄まじく、一歩踏み出しただけで地面に亀裂が走った。
(この進化個体は他の個体とは明らかに違う)
神宮寺は冷静に五体を観察する。どれも今まで戦ってきた進化個体の上位互換と言ってもいい。
(能力の使用は避けては通れない)
神宮寺は小さく息を吸った。
静かに右手を前へとかざした。
「最終手段」
瞬間。彼女の身体から淡い光が漏れ始める。両腕の装甲に膨大なエネルギーが流れ込み、その手のひらに白く輝く球体が生み出された。周囲の空気が震える。圧倒的なエネルギー量だった。エイリゴルは本能的に危険を察知したのか、六本の腕を振り上げて神宮寺へと突撃する。
「遅い」
神宮寺が右手を前へ突き出す。次の瞬間。轟音と共にエネルギー弾が発射された。光の奔流が一直線にエイリゴルへと放たれる。その速度はあまりにも速く、エイリゴルが反応することすら許さない。エネルギー弾はそのまま腹部へと直撃し、核ごと身体を貫いた。巨大な風穴がエイリゴルの腹部に開く。
「グッ……!」
エイリゴルの動きが止まる。
しかし──
「やはり」
神宮寺は表情を変えなかった。
核は確かに破壊した。それでもエイリゴルは消滅しない。
(この個体達も核を破壊した後、消滅しない。死体が残る)
(死体が残れば、エイリワスが操ることが出来る)
ならば答えは一つだった。
「なら、消滅するまで消し飛ばす」
神宮寺の周囲にさらに巨大なエネルギーが収束していく。先ほどのものとは比較にならないほどのエネルギーの塊。エイリゴルは、後方へ飛び退こうとする。だが、遅い。
「消えてください」
放たれた超高出力のエネルギー弾がエイリゴルを呑み込んだ。轟音と共に周囲の建物の窓ガラスが砕け散る。光が収まった後。そこには何も残っていなかった。再生するための肉片すら存在しない。エイリゴルは文字通り跡形もなく消滅していた。
しかし、その瞬間だった。
エイリゲルが無数の眼球を蠢かせながら神宮寺へと突撃する。エイリゴルへ攻撃した隙を狙った一撃。
「予想通りです」
神宮寺は既にそれを読んでいた。両手の装甲が分離し、空中へと浮かび上がる。そのまま装甲は変形を始め、一枚の巨大な盾のような板状へと姿を変えた。
エイリゲルの攻撃が装甲へと直撃する。だが、その一撃を完全に受け止める。
「なっ!?」
エイリゲルの動きが僅かに止まった。その瞬間を神宮寺は見逃さない。
「今です」
空中に浮かんでいた装甲が瞬時に分離し、エネルギーが右脚へと収束していく。装甲が右脚へと装着され、膨大なエネルギーが集約された。神宮寺は地面を踏み砕く勢いで飛び上がる。
「はぁぁぁ!!」
轟音と共に放たれた蹴りがエイリゲルの腹部へと炸裂した。
「ッ!?」
エイリゲルの身体が空高く蹴り飛ばされる。神宮寺は空を見上げた。そして、静かに右手を掲げる。その周囲に四つのエネルギー弾が生み出された。
「これで終わりです」
四つのエネルギー弾が空へと放たれる。そして。四つの光が同時にエイリゲルへと直撃した。爆発は雲を吹き飛ばし、空を白く染め上げる。そして光が消えた時。そこには何も残っていなかった。エイリゲルもまた、跡形もなく消滅していた。神宮寺は小さく息を吐く。
「はぁ……」
額から汗が流れ落ちる。
彼女が持つ能力――最終手段。
それは自身の生命エネルギーを消費することで、超高火力のエネルギー弾を生み出し、自在に操る能力だった。その威力は絶大。しかし、その代償もまた大きい。生命エネルギーを使用するという特性上、多用すればするほど自身の命を削ることになる。その危険性から能力の使用にはECO本部からの許可が必要となっている。
そして今回。司令官ビユー・ジードは事前にその使用を許可していた。
『必要であれば、お前の判断で使え』
その言葉を思い出す。
(司令官……必ず守ってみせます)
神宮寺の身体は既に悲鳴を上げ始めていた。生命エネルギーの消費は決して小さくない。一発一発が自身の命を削っていることを理解している。だが、それでも使わなければならない。
目の前にはまだ三体もの進化個体が存在しているのだから。
そして何より――。
(まだ全力は出せない)
神宮寺は市街地へと視線を向ける。現在も完全な避難は確認されていない。もし最大出力の攻撃を使用すれば、この市街地ごと吹き飛ばしかねない。だからこそ、出力を制限して戦っている。
それでも二体を消滅させることには成功した。
だが、神宮寺の身体への負担もまた確実に蓄積している。
エイリゼクは神宮寺の戦いを見て僅かに距離を取った。
エイリメスの肉体は不気味に蠢き始める。
そして、エイリベルは空中から静かに神宮寺を見下ろしていた。
「残り三体……ですか」
神宮寺は静かに構える。身体は既に重い。だが、その瞳から闘志が消えることはない。
「ここは通しません」
市民を守るため。仲間を守るため。そして、人類を守るため。
ECO隊長――神宮寺希の戦いは、まだ始まったばかりだった。




