エイリワス決戦②
エイリワスは瓦礫の中で静かに立ち上がった。焼け焦げた肌からは煙が立ち上っている。先ほどの一撃は確かにエイリワス自身へ届いていた。身体に走った激痛も、全身を焼いた炎も幻ではない。だが、エイリワスが最も理解できなかったのは、そこではなかった。
(何故だ)
その疑問だけが頭の中を巡っていた。
(別次元に存在を固定している私に攻撃を当てられるとするなら)
(同じ次元からの攻撃のみ)
次元によって存在を固定している間、エイリワスへ干渉できるものは同じ次元に存在するものだけだ。だからこそ、エイリワスはあの能力を絶対的な防御として扱ってきた。
(今さっき私が別次元へ飛ばした彼が攻撃したのか?)
そう考えた瞬間だった。エイリワスの視界がぐにゃりと歪む。
まるで水面に映った景色が揺らぐように、目の前の光景が変化していく。
「……何?」
視界の先。そこには五人の隊員が立っていた。銀色のバイザーを装着した隊員もそこにいる。確かに別次元へ送ったはずだった。
「血刃さん!エイリワスが!」
「分かっとる」
血刃は短く答えると、刀を静かに振るった。刀身から赤い液体が飛び散る。それはエイリワスの前方へ落ちていった。エイリワスはその光景を見て、一つの可能性へ辿り着く。
(先ほども赤い液体が飛んできていた)
(彼らは私の能力を対策している)
視覚。聴覚。
これまでの戦いから考えれば、感覚器官を狙っていることは明白だった。
ならば──
(嗅覚か?)
エイリワスの目が僅かに細くなる。
(血の匂いを嗅がせることで発動する能力か?)
そう考えると全ての辻褄が合った。先ほどから見えている光景すら、本物である保証はない。ならば、これ以上能力を受けるわけにはいかない。そう考えたエイリワスは即座に後方へ飛び退いた。飛んできた血液から距離を取る。そして匂いを嗅がないように息を止めた。
その様子を見て血刃は舌打ちをする。
「ちっ……ばれたか」
「もう少し時間を稼げると思うたが」
血刃の能力は血幻画。
自身の血液の匂いを嗅いだ相手へ幻覚を見せる能力だった。
相手の認識そのものを歪める強力な能力。だが、一度正体が知られてしまえば対策は容易い。今回の作戦における要とも言える能力だったが、それもここまでだった。しかし、先ほどエイリワスへ与えた一撃は大きい。
血刃の能力により幻覚を見せられたエイリワスが別次元へ固定していたと思っていたのは、発光の能力を持つ隊員ではない。
別次元へ送られていたのは――大型のドラム缶だった。
女性隊員の能力、物体収納によって収納されていた大型のドラム缶。そして、それにはある細工が施されていた。触れた箇所を起爆させる能力を持つSランク隊員。赫月鬼爆。彼がドラム缶の隅々に至るまでに能力を使用していたのだ。
そのドラム缶をエイリワス自ら別次元へ送らせる。さらに拡大によって一時的に巨大化。最後に――合図を出して起爆。
その結果。
別次元そのものが巨大な爆発によって埋め尽くされることとなった。同じ次元からの攻撃である以上、エイリワスは防ぐことができない。自らの能力を利用された、完全な作戦勝ちだった。
エイリワスはゆっくりと自らの手を見る。焼け焦げていた肌が徐々に再生していく。
しかし、その速度は決して早くはない。
「……人間の身体では、再生も遅いか」
静かに呟く。そして。空間に裂け目が現れた。
「次元」
エイリワスの身体が裂け目へと吸い込まれていく。
「消えた!」
「警戒してください!」
バイザーを付けた隊員が叫ぶ。
五人の表情が険しくなる。
先ほどのドラム缶による爆撃は一度きり。既に使い切ってしまっている。つまり。今の五人には、エイリワスへ決定打を与える手段が存在しなかった。
「……まずいな」
大男が盾を構える。
「時間を稼ぐしかありません」
ライフルを持つ青年も周囲へ視線を巡らせる。
いつどこから現れるのか分からない。次元を移動する相手を捕捉することは不可能に近かった。その時だった。空間が裂ける。エイリワスが一瞬だけ姿を現した。
「来るぞ!」
血刃が4人に伝える。刀を振るおうとする。しかし、現れたのはエイリワスだけではなかった。
「……なんだ?」
その周囲には五個の金属製の物体が浮かんでいる。それはまるで鳥籠のような形状をしていた。そして。エイリワスは何も言わずに再び裂け目の中へ消えていった。残されたのは五個の鳥籠だけだった。
「あれは……」
血刃の表情が変わる。
「まさか……」
彼は数日前、本部から送られてきた報告書を思い出していた。
「エリア・オズ任務での報告にあった」
「エイリ星人を核のまま保存するという……」
その言葉を聞いた四人の表情が一斉に変わる。
血刃は刀を強く握り締めた。
「全員!構えろ!」
「最悪のものが出てくるぞ!」
その瞬間。五個の鳥籠の扉が、同時に開いた。中から漏れ出したのは、禍々しいほど濃密な殺気とエイリ星人の核。
五人の隊員は、本能的に理解していた。
エイリワスの出したそれは、とんでもない脅威になると。




