臨界に達する
エイリヤカの身体から溢れ出る殺気が、一段と濃くなっていく。先ほどまでとは明らかに違う。
「連携というものは侮れぬ」
エイリヤカは静かに刀を構えた。その瞬間、その姿が消える。
「来るぞ!」
流鹿が叫ぶ。次の瞬間にはエイリヤカはエデンの真横に現れていた。刀とリミットナイトが激しくぶつかり合う。だが、それで終わりではない。刀を受け止めた瞬間、今度は左手を亜爆へとかざした。
「なっ!?」
赤い斬撃が放たれる。
「まずい!」
亜爆は爆弾を生成し、それを迎撃するが、その直後にはエイリヤカの姿は消えていた。
「チッ!また消えやがった!」
ジエルが舌打ちする。そして今度は流鹿の死角から刀が振るわれる。
「甘いわ!」
流鹿がガントレットで受け流した瞬間、再び姿を消す。移動の省略。斬撃。刀による攻撃。それらを組み合わせた猛攻は、先ほどまでとは比較にならないほど激しさを増していた。エデンたちは必死に攻撃を避ける。しかし。
「ぐっ!」
エデンの肩を斬撃が掠める。
「っ!」
ジエルも足に一撃を受け、亜爆も腕を斬られ、後方へ飛び退く。四人とも確実に消耗していた。
そして、エイリヤカは突然動きを止めた。
「?」
エデンが違和感を覚える。エイリヤカは左手を前へかざす。いつもの斬撃ならば、この瞬間放たれている。だが──
「なんだ?」
ジエルが眉をひそめる。放たれない。左手へ赤い斬撃が集まり続けている。一つ。二つ。三つ。無数の斬撃が圧縮され、やがて赤い球体へと姿を変えていった。その場の全員が、本能的に危険を感じた。
「これは……!」
「新しい技か!」
流鹿が叫ぶ。
「散華──」
エイリヤカが静かに呟き、その球体を放った。それは一直線に亜爆へと向かっていく。亜爆は即座に爆弾を投げつける。しかし。球体へ触れた瞬間、爆弾が細切れとなって消滅した。
「え?」
爆発すらしていない。まるで存在そのものを切り刻まれたかのようだった。
「爆発していない!?」
亜爆の表情が驚愕に染まる。避けられない。そう思った瞬間だった。
「亜爆さん!」
エデンが右手を突き出す。
「リミットストリング!」
黒い線が亜爆の身体を押し飛ばす。ギリギリで球体の軌道から外れることに成功した。だが。リミットストリングが一瞬で細切れとなって消滅する。
「ぐっ!」
能力が強制解除された。リミットストリングは皮膚を薄く伸ばして作られている能力だ。そのため傷口自体は小さい。だが、それでも自分の皮膚が何十にも切断された痛みは尋常ではない。エデンは思わず膝をつく。ジエルが声を掛ける。
「エデン!」
「大丈夫!まだ行ける!」
歯を食いしばって立ち上がる。その様子を見たエイリヤカは、更に左手へ斬撃を溜め始めた。
「ならば、今度こそ」
斬撃の球体が完成する。そして。エイリヤカの姿が消えた。
「まずい!」
流鹿が叫ぶ。死角。エデンの背後。そこに現れたエイリヤカが球体を放とうとした瞬間。
「倍速!」
横から飛び蹴りが炸裂する。時輪だった。能力によって加速した蹴りによって球体の軌道が僅かに逸れる。
「間に合ったようだな」
「時輪さん!」
すかさずエイリヤカが刀を振るう瞬間。風黒が槍によってエイリヤカの刀を受け流した。
「遅れて申し訳ありません」
「今から加勢します」
「助かるわ!」
流鹿がチェス盤を掲げる。
「ルーク!」
巨大な駒がエイリヤカへ向かって飛んでいく。しかし。
「甘い」
移動の省略。エイリヤカはその場から消えた。そして。
「っ!」
エデンの真横へと現れる。至近距離。左手には既に完成した斬撃の球体。
「これで終わりだ」
放たれる。
(避けられない......今さっきの威力から見て、これは防げない)
(死ぬ......!)
エデンがそう思った瞬間だった。胸ポケットから小さな身体が飛び出す。
「ダメだ!オル!」
しかし。
「エデンは殺させないですぞ!」
オルが大きく口を開く。すると。斬撃の球体がそのままオルの口へ吸い込まれていく。そして、完全に消えた。沈黙が訪れる。
「……」
全員が言葉を失っていた。
「吸収した……?」
時輪が呟く。流鹿は小さく笑みを浮かべる。
「なるほどな」
「吸収……それがオル君の能力か」
オルはお腹をさすりながら満足そうに笑っている。
「美味しかったですぞ!」
「大丈夫なの?オル」
エデンは思わず叫んだ。
一方、エイリヤカは違和感を覚えていた。
(あれは......エイリ星人か?それに今の感覚は……)
斬撃が消えたわけではない。自分のエネルギーそのものが吸収された感覚があった。
(エネルギーによる攻撃は危険か)
ならば。
「刀にて斬るのみ」
エイリヤカは再び刀を構える。そして。
「受けてみよ....」
凄まじい殺気が辺りを包む。移動の省略によってエデンの目前へ現れ、全力の一撃を放った。
「エデン君!」
「ルーク!」
巨大なルークが盾となってエデンの前へ現れる。
「リミットナイト!」
黒い鎧が全身を覆う。ルークは切り伏せられ、エデンの身体も数メートル押し込まれる。
「ぐっ!」
だが──
「まだだ!」
「リミットフォース!」
右足へ力を集中させる。
「はあぁぁぁ!」
渾身の蹴りがエイリヤカの腹部へ叩き込まれた。エイリヤカの身体が吹き飛ぶ。しかし、エイリヤカの身体には僅かな傷しか付いていない。しかも、その傷も少しずつ再生していく。進化個体の再生能力。エデンたちの攻撃では決定打になっていない。
「打点が足りねぇ……」
ジエルが苦しそうに呟く。このままでは勝てない。そう感じていた。
(倒すなら……)
思い浮かぶのは一つだけだった。黒い雷。過剰適応この三日間。ジエルはずっと考えていた。どうすれば暴発を防げるのか。そして辿り着いた答え。
(溜まり続けて暴発するなら……溜めなきゃいい)
ジエルが前へ出る。
「みんな!」
「俺に近づくな!」
その言葉に全員が振り返る。 ジエルの身体から黒い電気が漏れ始める。
「ジエル君……!」
流鹿はその姿を見て、小さく笑った。黒い雷は暴走しているわけではない。制御されているわけでもない。ただ、暴発しないように放出し続けている。
「これが俺の.....全部だ!」
「過剰適応──」
黒い雷が周囲へ放電していく。
「臨界雷怒!」
黒い雷が空へと昇る。その姿はまるで雷神そのものだった。
流鹿は感心したように呟く。
「よお考えたな、ジエル君」
誰もがその力に目を奪われる。そして今──
エイリヤカを倒すための最後の力が、その姿を現そうとしていた。




