各々ができること
夕日が沈み、ライサムの空が夜へと移り変わろうとしていた。
エイリワスが宣戦布告をしてから、一日が過ぎようとしている。
残された時間は、あと二日。
誰もが迫りくる戦いを理解していた。だからこそ、それぞれが今できることをしていた。
アモリス支部の訓練場では、エデンと亜爆が流鹿による特訓を受けている。
少しでも強くなるために。少しでも生き残るために。
エデンはリミットストリングの精度を高め、亜爆は能力の制御を磨く。流鹿もまた、二人の課題を見極めながら容赦なく鍛え上げていた。
一方で、ジエルはラベンダーの元へ向かっていた。
六年前、自らの身体へ埋め込まれた進化の種。その進化の種を取り出すことができるのか。その答えを知るために、アモリス刑務所へと足を運んでいる。
そして、ドロイもまた、一人である建物の中へ入っていった。
彼もまたエイリワスとの戦いに備えて動いていた。
誰もが、自分にできることをしている。それはアモリス支部だけではなかった。
ライサム北部――ノマロード地区。
そこにある巨大な建造物、ECO本部。
ライサムの防衛の要であり、全国の支部へ指示を出す最高機関だ。会議室では、今まさに緊急会議が行われていた。会議室の中央には長い楕円形の会議卓が設置されている。その周囲には、Aランク以上の隊員や本部職員たちが座っており、誰もが険しい表情を浮かべていた。
壁面に設置された巨大なモニターには、エイリワスの情報が映し出されている。
死体操作。死体への乗り移り。次元のラベジニウム。
どれも、人類にとって最悪と言える情報だった。
会議室の最奥。その席には、一人の男が座っている。
ECO司令官――ビユー・ジード。彼はその鋭い眼差しで資料へ目を通していた。
そして、一枚の資料を机へ置く。
「……対抗策はこうだ」
低く重い声が会議室へ響く。
「エイリワスが現れた場合、直ちに作戦を実行する」
「各地の支部にはエイリ星人の発生に注意しておけと報告しろ」
「エイリワスがアモリス支部を襲撃した場合、他の地区への襲撃も十分に考えられる」
「市民の避難が最優先だ」
「避難に関しては軍隊からの援助も受ける」
隊員たちは真剣な表情で頷く。既にライサム政府との連携も始まっていた。
もしエイリワスが本気で動けば、一つの地区だけで終わる保証はどこにもない。
ライサム全土を巻き込む戦いになる可能性すらある。
「軍との連携は完了しています」
「ノマロード地区にも既に部隊を配置済みです」
「アモリス地区の避難経路の確認も終わっています」
職員たちが次々と報告していく。
その時だった。会議室の扉がゆっくりと開く。全員の視線がそちらへ向く。
そこに立っていたのは、一人の女性だった。
漆黒の長い髪を綺麗にまとめ、ECOの制服を一切の乱れなく着こなしている。その姿は凛としており、ただそこに立っているだけで場の空気が変わる。鋭い瞳には一切の迷いがない。彼女が歩くたびに、隊員たちは自然と道を開けていく。ビユー・ジードはその姿を見ると、小さく頷いた。
「来たな」
女性は何も言わず、一礼をする。ビユー・ジードは静かに言葉を続けた。
「勿論、お前もエイリワスが現れた場合は交戦する」
「そして、いざという時は――」
その言葉を遮るように、女性は口を開いた。
「無論、分かっています」
その声は静かでありながら、確かな覚悟を感じさせるものだった。
「市民を守るために必要であれば、この命を懸けます」
会議室が静まり返る。
誰もその言葉へ反論する者はいない。彼女ならば、本当にその命を懸けるだろう。
ビユー・ジードは小さく息を吐くと、ゆっくりと口を開いた。
「任せたぞ」
その言葉には、司令官としての信頼が込められていた。
「ECO隊長――」
「神宮寺 希」
神宮寺希。
ECO隊員の頂点に立つ存在。全ての隊員を束ねる、人類最強の一人。
彼女もまた、迫りくる決戦へ向けて動き出していた。
三日後。人類とエイリワスの戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。




