複数の核と能力
ジエルはゆっくりと息を吐いた。思い出した記憶はあまりにも重い。六年前の出来事は、彼の人生を大きく変えていた。そして、その全てが現在へ繋がっている。病室にいる誰も口を開かない。ただ、ジエルの次の言葉を待っていた。
「エイリワスは……核を複数持ってる」
静かな声だった。だが、その一言が病室の空気をさらに張り詰めさせる。
「俺の記憶じゃあ、兄貴があいつの核を壊して消滅させた」
ジエルの脳裏に、ゲートが最後に剣を振り下ろした光景が浮かぶ。頭部の奥にあった核。確かに破壊した。それなのに。
「どこからともなく、また出てきやがった」
「核を複数……?」
エデンが思わず聞き返す。その顔には驚きが浮かんでいた。
「じゃあ、何度倒しても復活するってこと?」
「分かんねぇ」
ジエルは首を横に振る。
「核が何個あるのかも知らねぇ」
左手で顔を覆い、小さく息を吐く。
「でも、とにかく――」
「一回倒しただけじゃ足りないかもしれねぇ」
その言葉に、エデン達は黙り込んだ。今までのエイリ星人は、核を破壊すれば終わりだった。しかし、エイリワスだけは違う。核を破壊しても蘇る。もし核が十個あるなら、十回倒さなければならないのか。もし百個なら。考えるだけで絶望的だった。
「いやいや……待ってや」
流鹿が珍しく真面目な表情で口を開く。
「核を複数持っとるエイリ星人なんて聞いたことないで」
「本部の資料にもそんな個体はおらん」
「つまり、エイリワスだけの特殊能力か、進化の結果ってことやろか……」
亜爆も腕を組む。
「進化を研究している本人が、既に異常な進化を遂げているということですか」
「笑えない話ですね」
病室に再び沈黙が落ちる。エデンは拳を握った。
「そんな相手、どうやって倒すんだ……」
「分からねぇ」
ジエルは即答した。
「でも、倒さなきゃいけねぇ」
その目には、迷いはなかった。
「兄貴の仇だ」
「それに、あいつは三日後にここを襲うって言った」
「止めるしかねぇ」
ジエルはそこで一度言葉を切る。そして、思い出したように口を開いた。
「それに……エイリワスにはもう一つ能力があった」
「もう一つ?」
天記が驚いたように顔を上げる。
「まだあるのかい?」
ジエルは苦い顔を浮かべる。
「ああ」
「六年前、あいつは手を振り下ろしただけで地震を起こした」
「地震……?」
エデンの声が震える。
「待って、それって……」
「ああ」
ジエルは窓の外へ視線を向ける。
「山を崩してた」
「たった一回、腕を振っただけでな」
その言葉を聞いた瞬間。流鹿の表情が変わった。
「……おいおい」
「それ、冗談やないやろ?」
「もし本当にそんな能力なら、アモリス地区ごと消し飛ばせるで」
病室の空気が凍りつく。複数の核。進化の研究。そして、地震を起こす能力。さらに、ゲートから奪ったラベジニウム――次元を持っている可能性まである。エイリワスという存在は、一体どこまで底が見えないのか。ジエルはベッドから立ち上がった。左腕を見つめる。そこには六年前に埋め込まれた進化の種が眠っている。
「三日後、あいつは来る」
「だったら、俺たちも覚悟を決めるしかねぇ」
その言葉に、誰も反論しなかった。夕日が沈み始める。迫り来る決戦まで、残された時間は――あと三日だった。
エデンは頭を抱える。
「なんか……能力多すぎない?」
「俺もそう思う」
ジエルは腕を組みながら答える。その時だった。
黙って話を聞いていた亜爆が、小さく顎へ手を当てる。
「……少し気になることがありますね」
全員の視線が亜爆へ向く。
「何や?」
流鹿が聞く。
亜爆はゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。
「そんなに強い力があるなら、もっと使っていてもおかしくないと思うんです」
「地震の能力のことか?」
「ええ」
亜爆は頷く。
「ジエルさんの話を聞く限り、一度手を振っただけで山を崩せるほどの能力です」
「なら、今まで一度も使っていないのは不自然です」
病室が静まり返る。確かにそうだった。もし地震を自在に起こせるなら、わざわざ進化個体を送り込む必要もない。アモリス支部など、一瞬で瓦礫の山にできるはずだ。
流鹿が口を開く。
「……能力に条件がある?」
「あるいは、使えない理由があるのかもしれへんな」
エデンは頷いた。
「もしそうなら、その理由ってなんだろう」
「使うと負担が大きいとか?」
「それとも――」
エデンはそこで言葉を止める。
「核に能力が対応してるとか?」
「!!」
その言葉に、流鹿が目を細めた。
「なるほどな……」
「核を複数持っとる」
「能力も複数ある」
「なら、核そのものが能力を管理しとる可能性はある」
ジエルも考え込む。
「……もしそうなら」
「兄貴が壊した核がそれの可能性もあるな」
その仮説に、全員が黙り込んだ。もしそうなら辻褄が合う。六年前以降、エイリワスは地震を使っていない。使えないのか。使いたくても使えないのか。
「どちらにせよ……」
流鹿が真剣な顔になる。
「エイリワスはまだ隠しとることが多すぎる」
「三日後までに少しでも情報を集めんとあかんな」
ジエルは静かに左腕へ視線を落とした。進化の種。兄のラベジニウム。複数の核。そして、使われていない能力。六年前の出来事は終わっていなかった。
むしろ――今ようやく、その全貌が見え始めていた。




