インターフェース検査
エデンは自分の右手へ視線を落とした。インターフェース。手の甲に埋め込まれたそれは、今では自分の身体の一部のようになっている。普段は意識することも少なくなった。だが、流鹿の話を聞いたことで、ふと一つの疑問が頭をよぎる。
「そういえば……」
エデンは右手を軽く握ったり開いたりしながら呟いた。
「俺のインターフェースって」
その言葉だけで、流鹿は何を聞きたいのか察したようだった。
「ああ。エイリワスが付けたやつやろ?」
エデンは頷く。
「はい」
「普通のインターフェースと同じなんですか?」
教室の空気が少しだけ静かになる。ジエルと亜爆も、その答えが気になって流鹿を見つめた。相手はエイリワス。進化を研究し、人間を実験材料にする危険なエイリ星人だ。そんな存在が作ったインターフェースが、本当に普通の物なのか。流鹿は腕を組み、小さく唸る。
「…まぁ、一応検査しとくか?」
突然の提案に、エデンは目を丸くする。
「検査ですか?」
「せや」
流鹿は軽く頷いた。
「今すぐ何か異常があるとは思っとらん」
「でも、エイリワスが作ったインターフェースや」
「普通の医療検査くらいは受けといた方が安心やろ」
その言葉に、亜爆も納得したように頷く。
「確かに、その方がいいかもしれません」
「何もなければ安心できますし」
ジエルも腕を組みながら口を開く。
「もし何か仕込まれてたら嫌だしな」
「調べられるなら調べといた方がいいだろ」
エデンは改めて自分の右手を見る。インターフェースは何の変化もない。能力も問題なく使えている。それでも、「エイリワスが作った」という事実だけは消えなかった。
「……お願いします」
エデンは素直に頷いた。流鹿は満足そうに笑う。
「よし、決まりや」
「支部の医療班でもある程度は調べられる」
「本部ほど詳しくはないけど、異常があるかどうかくらいなら分かるはずや」
そう言うと、流鹿は外に出て職員へ声を掛ける。
「悪いんやけど、医療班に連絡頼める?」
「エミット・エデンのインターフェース検査や」
職員は「承知しました」と返事をし、すぐに通信端末を操作し始めた。数秒後、連絡を終えた職員が振り返る。
「医療班の準備が整い次第、ご案内します」
流鹿は「ありがとう」と軽く手を挙げる。
その様子を見ていたオルが、不思議そうに首を傾げた。
「検査って痛いですぞ?」
エデンは苦笑しながら答える。
「多分、大丈夫だよ」
「本当に?」
「うん、たぶん機械で調べたりするくらいじゃないかな」
「それなら安心ですぞ!」
オルは自分が検査を受けるわけでもないのに、ほっとしたように胸をなで下ろした。その姿に思わず笑みがこぼれ、訓練場の空気が少し和らぐ。流鹿も笑いながらエデンの肩を軽く叩いた。
「心配せんでもええ。異常がなければ、それで終わりや」
「もし何か見つかったら、その時みんなで考えればええ」
その言葉に、エデンは静かに頷いた。エデンのインターフェースの正体はまだ分からない。だが、その一歩を踏み出すためにも、まずは検査を受けることにした。
流鹿が医療班へ連絡を入れてから、ほどなくして一人の職員が訓練場へやって来た。
「エデン隊員、準備ができましたのでこちらへ」
「はい」
エデンは立ち上がると、ジエルたちへ「ちょっと行ってくる」と声を掛け、職員の後について訓練場を後にした。ジエルが腕を組んだままエデンの背中を見送る。
「大丈夫だよな?」
「まぁ、検査やしな」
流鹿は気楽そうに答えた。
「何かあったら向こうから連絡来るやろ」
オルは少し心配そうに入口を見つめている。
「エデン、痛くないといいですぞ……」
それから十分ほど経った頃だった。
訓練場の扉が開き、エデンが戻ってくる。
「お、早かったな」
ジエルが声を掛ける。エデンは右手を軽く見ながら苦笑した。
「うん。思ったよりすぐ終わった」
「で、どうやった?」
流鹿が聞くと、エデンは検査結果を思い出しながらゆっくり話し始めた。
「ええっと……」
「構造とか素材とかは分からなくて」
「普通のインターフェースとはかなり違うみたいなんだけど、それ以上は解析できないって」
エデンは少し間を置いて続ける。
「でも、今のところ危険な機能が付いてるようには見えないって言われた」
その言葉に、全員が少しだけ安堵した表情を浮かべる。少なくとも、爆発したり身体を乗っ取ったりするような危険な装置ではないらしい。流鹿も小さく頷いた。
「まぁ、それならひと安心やな」
しかし、エデンはまだ話を続ける。
「あと……エネルギーの出力が普通のインターフェースより高い代わりに」
「身体への負担がかかりやすいって言ってた」
その説明を聞いたジエルは、納得したように指を鳴らした。
「ああ!」
「だからエデンって、能力使うとすぐヘロヘロになるのか」
今まで、エデンは他の隊員より早く限界を迎えることが多かった。ずっと体質だと思っていたが、その原因の一つがインターフェースだったのかもしれない。亜爆は腕を組みながら冷静に付け加える。
「能力の性質も関係していると思いますけどね」
「リミットフォースもリミットリフレクスも、身体への負担が大きい能力ですから」
「そこへ高出力のインターフェースが重なれば、消耗が激しくなるのも不思議ではありません」
「うん」
エデンも頷いた。医療班からも似たような説明を受けたばかりだった。しかし。まだ一番驚いた話が残っていた。エデンは右手を見つめながら言う。
「でも……」
「一番変わってたのはそこじゃないんだ」
全員の視線が集まる。
「このインターフェース」
「エネルギーの調整機能が入ってないらしい」
「……え?」
流鹿が思わず聞き返した。エデンはゆっくり頷く。
「普通のインターフェースって、エネルギーの流れを自動で調整してくれるんだって」
「でも俺のは、その機能自体がないらしい」
訓練場が静まり返る。エデンは苦笑いを浮かべながら続けた。
「だから、自分でエネルギーを調整しなきゃいけないって言われた」
「無意識に出来てるから今まで問題なく使えてたんじゃないかって」
その言葉を聞いた流鹿は、しばらく黙っていた。やがて、驚いたように目を見開く。
「……なるほどな」
「そら普通より消耗するわけや」
流鹿は感心したようにエデンを見る。
「普通の隊員はインターフェースが勝手に調整してくれる」
「せやから能力だけに集中できる」
「でもエデン君は違う」
「能力を使いながら、自分でもエネルギーを制御しとるわけや」
ジエルも思わず口を開けた。
「それ……無茶苦茶じゃねぇか」
「普通なら能力の発動だけで精一杯やぞ」
流鹿は静かに頷く。
「普通ならな」
そして、エデンをまっすぐ見つめた。
「でも逆に言えばや」
「その調整技術をもっと磨けたら、このインターフェースは普通の物より強くなる可能性がある」
その一言に、エデンは少しだけ目を見開いた。危険なだけではない。扱い方次第では、この特殊なインターフェースそのものが、自分だけの強みになるかもしれない。その可能性を示す言葉だった。




