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エデン  作者: ko-da
9章 ECO特訓編

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インターフェースの重要性

オルがエデンの隣で嬉しそうに笑っている。その穏やかな空気を見ながら、流鹿は何かを思い出したように「あ」と声を漏らした。

「……一つ分かったことはあるで」

その一言で、教室の空気が少し変わる。エデンたちは自然と流鹿へ視線を向けた。

「分かったこと?」

エデンが聞き返す。ジエルも腕を組みながら興味深そうに眉を上げる。

「本部じゃ何も分からなかったんじゃねぇのか?」

流鹿は苦笑しながら首を横に振った。

「完全に何も分からんかったわけやない」

「ちゃんと収穫もあったで」

その言葉に、亜爆も姿勢を正した。本部がわざわざオルを呼び寄せてまで検査したのだ。何か一つでも判明したのなら、それは大きな情報になる。流鹿はオルへ一度視線を向ける。当の本人は話の内容など気にせず、教室に置かれていた観葉植物を興味津々で眺めていた。その様子に思わず苦笑しながら、流鹿は口を開く。

「本部で詳しい解析をした結果」

「ほぼ確定で能力を持っとるってことは分かった」

その瞬間だった。

「「「え?」」」

エデン、ジエル、亜爆の三人の声が重なる。エデンは驚いた表情のままオルを見る。

「能力……?オルが?」

オルも自分を指差しながら首を傾げる。

「オルですぞ?」

どうやら本人も知らないらしい。流鹿は真面目な表情で頷いた。

「本人が知らんだけで、身体の中には能力反応が確認された」

「エイリ星人の進化個体特有のエネルギーも正常に循環しとる」

「つまり、能力を使える条件自体は満たしとるんや」

エデンは驚きを隠せなかった。

「でも、オルが能力を使ってるところなんて見たことないですよ」


「せやろ」

流鹿も頷く。

「そこが不思議なんや。能力を持っとる反応はある。せやのに、一度も発動した形跡がない」

ジエルは頭を掻きながら言う。

「能力があるのに使えねぇなんてことあんのか?」

流鹿は少し考えてから答えた。

「可能性はいくつかある。本人が発動方法を知らんのか。何か条件があるんか」

「あるいは……」

そこで一度言葉を切る。

「まだ覚醒しとらんだけかもしれへん」

教室が静まり返る。能力を持ちながら、まだ使えない。そんな例はエデンたちも聞いたことがなかった。オル本人だけは相変わらずの様子だった。

「能力ですぞ?何だかすごそうですぞー!」

目を輝かせながらそんなことを言っている。エデンは思わず苦笑した。

「オル、自分のことなのに他人事みたいだね」


「そうですぞ!」

オルは元気よく頷く。

「オルにもよく分からないですぞ!」

そのあまりにも自然な返事に、教室の緊張した空気が少しだけ和らいだ。しかし流鹿だけは腕を組み、真剣な表情を崩さなかった。

「能力がある以上いつ発動してもおかしくない」

その言葉には、期待と警戒の両方が込められていた。まだ誰も知らない。オルがどんな能力を秘めているのか。そして、その力が人類の味方となるのか、それとも別の何かを意味するのかは、まだ誰にも分からなかった。流鹿は腕を組みながらオルをちらりと見た。

「まぁ、オル君のことはまた今度話そうや。能力についても、まだ分からんことばっかりやしな」

そう言うと、流鹿はパン、と一度手を叩く。教室の空気が切り替わった。

「今は訓練の続きするのが先や」


「休憩は終わりやで」

その一言で、エデンたちは揃って苦笑いを浮かべる。結局、話を聞くだけで今日は終わらないらしい。

「はい……」

エデンは立ち上がりながら返事をした。


数分後。

一行は再び訓練場へ移動していた。

「ほな、続きいこか」

訓練は再開された。エデンはリミット全体出力を上げ。亜爆は爆撃手の爆弾をより正確に扱う練習を繰り返す。ジエルはラベンダーから言われたことを意識しながら、能力を発動していた。焦らない。無理に出力を上げない。電気の流れを感じながら、一つ一つ丁寧に扱う。何度も流鹿へ攻撃を仕掛ける。しかし。

「甘い」

流鹿は最小限の動きで攻撃をかわす。

「もっと身体全体で見ぃ」

ジエルが踏み込む。流鹿は身体を半歩ずらすだけで拳を避ける。

「足元や」

次の瞬間。軽く払われた足によって体勢を崩す。

「うおっ!」

ジエルが立て直す前に。流鹿の掌が胸へ当たった。衝撃が身体を突き抜ける。

「ぐっ!」

ジエルの身体が数メートル吹き飛び、訓練場の床を何度も転がった。

「まだまだや」

流鹿は肩の力を抜いたまま笑う。その一撃は決して本気ではない。それでも、ジエルには十分すぎる威力だった。

「いてぇ……」

ジエルは頭を押さえながら立ち上がる。服には砂埃が付き、息も少し乱れていた。その少し離れた場所では。エデンと亜爆が床へ座り込んでいた。二人とも全身汗だくで、肩を大きく上下させている。

「はぁ……」


「もう腕が上がらない……」

エデンはそのまま仰向けに寝転んだ。リミットを何度も使い続けた影響で、両腕がじんじんと熱を持っている。亜爆も壁へ背中を預け、静かに息を整えていた。そんな二人のところへ、小さな足音が近付く。

「エデン!」

オルだった。心配そうな顔でエデンの隣へしゃがみ込む。

「大丈夫ですぞ?すごく疲れてる顔してるですぞ」

エデンは苦笑しながら起き上がる。

「うん、大丈夫。ちょっと疲れただけだから」

オルは安心したように笑った。

「よかったですぞー」

そのやり取りを見ていたジエルが、流鹿へ文句を言う。

「いやいや!今朝の訓練と強さ違いすぎだろ!」

流鹿は「あはは」と笑う。

「そらそうや。午前中は様子見やったし」

「俺、まだちょっとしか本気出してないで」

その言葉に、エデンたちは思わず顔を引きつらせた。

「えぇ……」

エデンは小さく呟く。

(これで……ちょっと?)

Sランク隊員との実力差を改めて思い知らされる。流鹿はジエルへ目を向ける。

「でもまぁ黒い電気が出とらんのはええな」

ジエルも自分の身体を見る。

確かに、訓練中は一度も黒い電気が漏れ出していない。

「制御できとる証や」

流鹿は満足そうに頷いた。

「ラベンダーさんの話をちゃんと意識しとるんやろ」

ジエルは照れくさそうに鼻をこする。

「まぁ……少しはな」

流鹿はそのまま続ける。

「ラベジニウムの能力は案外繊細なんや」

「力任せに使えばええってもんやない」

「エネルギーをちゃんと扱えんかったら、能力も扱えん」

その言葉にエデンも耳を傾ける。流鹿は地面へ指先で一本の線を描きながら説明を続けた。

「能力っていうんは、エネルギーを形にしとるだけなんや」

「せやから、その流れが乱れたら能力も乱れる」

「逆に、エネルギーの流れを正確に制御できれば、能力の精度も上がる」

流鹿はジエルを見て笑う。

「ジエル君はエネルギーを扱う技術が上手いな」

「ジェネレーターで溜めた電気を無駄なく身体へ巡らせとる」

「せやから身体能力もよう上がっとる。今回黒い電気が出ぇへんかったんも、その制御を意識できとったからや」

ジエルは少し驚いたような顔をした。褒められるとは思っていなかったのだ。流鹿は満足そうに頷きながら続ける。

「その感覚を忘れんことや」

「能力を制御できる奴ほど、最後には強くなる」

ジエルは自分の両手をじっと見つめた。掌を握ったり開いたりしながら、流鹿の言葉を頭の中で反芻する。エネルギーを制御する。そう言われても、正直なところ実感が湧かなかった。しばらく考え込んだ末、ジエルは困ったように頭を掻く。

「俺、あんま分かってねぇんだよな……」

流鹿が首を傾げる。

「何がや?」


「どうやってエネルギー使ってるか」

ジエルは苦笑いを浮かべた。

「言われてみれば、考えたこともねぇ」

「身体動かしたら電気が溜まる。それを放つ」

「それだけなんだよ」

「細かく制御してるつもりなんて、一回もねぇ」

その答えを聞いた流鹿は数秒間黙っていた。やがて、小さく笑う。

「……天才なんやろね」


「へ?」

ジエルが間の抜けた声を出す。流鹿は肩をすくめた。

「普通やったら、意識して練習せな身につかん技術や。でもジエル君は、それを無意識でやっとる」

「本人が分かっとらんだけで、身体が勝手に覚えとるんや」

ジエルはますます困った顔になる。

「褒められてんのか、それ」


「褒めとる褒めとる」

流鹿は笑いながら頷く。

「感覚で出来る人間っておるんや」

「説明は出来へんけど、ちゃんと出来とる」


「君はそういうタイプなんやろ」

ジエルは「へぇ……」と呟きながら、自分でもよく分からないというように首を傾げた。

その様子を見ていた亜爆が、ふと疑問を口にする。

「ラベジニウムのエネルギーって、そんなに繊細なんですね」

流鹿は真面目な表情へ戻る。

「そうや。君らが思っとる以上にな」

ゆっくり歩きながら説明を始める。

「能力っていうんは、ラベジニウムから出るエネルギーを使って発動しとる」

「せやから、そのエネルギーが少しでも乱れたら能力も乱れる」

流鹿は床へ指先で円を描く。

「違うエネルギー同士が混ざったら、使えんくなることもあるからな」

その言葉に亜爆は目を丸くした。

「混ざるだけでですか」


「せや」

流鹿は頷く。

「相性が悪いエネルギー同士やと、お互いを打ち消し合ったり暴走したりする」

エデンはその話を聞きながら、ある人物の顔を思い浮かべた。

「あれ……」

小さく声を漏らす。

「時輪さんとか、ラベジニウムを二つ持ってる人はどうして使えるんですか?」

その質問に流鹿は「ああ」と納得したように笑う。

「そこ気になるよな」

腕を組みながら説明を続けた。

「あれはインターフェースがええ感じに調整してくれとるんや」

「二つのラベジニウムから出るエネルギーが混ざらへんようにな」

「出力も流れも機械側で管理しとる」

エデンは自分の右手を見る。黒いインターフェース。普段は能力を使うための装置程度にしか思っていなかった。だが、実際にはもっと重要な役割を果たしていたのだ。流鹿は三人の手元を順番に見る。

「みんなもインターフェース付いとるやろ?」

三人は揃って頷く。

「まさか体内にラベジニウム埋め込んで使うような馬鹿、おらへんやろ」

その何気ない一言に、エデンの脳裏へ一つの記憶がよみがえった。白石研究所。月下香が説明していた特殊な手術。ラベジニウムを体内へ直接埋め込み、専用の機械と一体化させる方法。安全性は高い。だが、一生取り外せなくなる。そんな話を聞いたばかりだった。エデンが考え込んでいる間にも、流鹿は説明を続ける。

「もしインターフェースとかの機械を使わずに埋め込んで、なおかつラベジニウムを複数入れたら、使い物にならへんやろ。エネルギーが身体の中で干渉し合って、まともに能力なんか使われへん」

流鹿の口調は軽い。しかし、その内容は決して軽いものではなかった。ラベジニウムは便利な力ではない。ほんの少し扱い方を間違えれば、自分自身を壊しかねない危険なエネルギーでもある。エデンは静かに自分の右手を握る。

(インターフェースって……能力を使うためだけの機械じゃなかったんだ)

今さらながら、その存在の重要さを改めて実感していた。

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