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エデン  作者: ko-da
9章 ECO特訓編

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亜爆の訓練

亜爆は流鹿の正面に立ち、静かに息を整えた。

「では、お願いします」

きっちりとした声。

流鹿はいつもの軽い笑みを浮かべたまま、肩の力を抜いて立っていた。

「ほな、やろか。亜爆君の爆弾、楽しみにしとるで」

その言い方は軽い。だが、立ち方には一切の隙がなかった。

亜爆はその様子を見ながら、すぐには動かなかった。

亜爆の手の中に、小さな球体が現れる。握りこぶしよりもさらに小さい、黒い爆弾。装飾も何もない、ごくシンプルな形だ。だがその小ささこそ、亜爆の慎重さを表していた。高威力ではない。あくまで最初は探り。相手の反応を見るための一手だ。


「ほう」

流鹿が面白そうに目を細める。

亜爆はそのまま爆弾を投げた。だが、狙ったのは流鹿本人ではない。流鹿の少し手前、足元に近い床だった。爆弾が床に触れた瞬間、軽い爆発が起こる。

轟音というほどではない。だが視界を揺らすには十分な閃光と煙が広がった。爆風も小さい。まともに当てて倒すためのものではなく、あくまで目くらましと間合いの調整のための爆発だ。


その煙の向こうへ、亜爆はすぐに二つ目の爆弾を投げる。

今度は少し高め。流鹿の胸元あたりへ飛ぶ軌道だ。


だが、流鹿は一歩横へずれるだけでそれをかわした。直後、二つ目の爆弾が空中で弾ける。小規模な爆発が起こり、煙がさらに厚くなる。視界を奪う層が二重に重なった。

「なるほどな」

煙の向こうから、流鹿の声がした。

「最初から当てる気やなくて、視界を奪いにきたか」

返事の代わりに、亜爆はさらに左手を振る。

三つ目の爆弾が床を転がった。今度は流鹿の右側へ。四つ目は逆に左側へ。爆発そのものは小さいが、左右に散らしたことで流鹿の足場を挟むような形になる。もし不用意に横へ逃げれば、次の爆発に巻き込まれる。威力は低くとも、行動の選択肢を削るには十分だ。

エデンはベンチからその様子を見て、思わず呟いた。

「爆弾を出せる数が増えてる....」


「あいつも成長してんだな」

隣でジエルも顔をしかめながら前を見ていた。まだ本調子ではないが、戦いを見る目までは鈍っていない。


亜爆は流鹿の正面から少しずつ位置をずらし、半円を描くように動いていた。真正面に立ち続ければ、流鹿に踏み込まれた時に危険だ。だから自分も位置を変えながら、相手の進路を爆弾で制限していく。右へ行けば爆発。左へ行っても爆発。後ろに下がれば、そこにも既に小さな爆弾が転がっている。


派手さはない。だが、嫌らしいほどに丁寧だった。

「ええな」

流鹿が笑う。

「こういうの、好きやで」

言った次の瞬間、その姿がぶれた。

流鹿の身体が、一気に煙の中から飛び出してくる。左右どちらにも爆弾があるはずの位置を、最小限の動きと速度で強引に抜けてきたのだ。普通の相手なら足を止めるような配置でも、流鹿ほどの身体能力があれば“突破する”という選択肢が取れてしまう。


亜爆の目がわずかに見開かれる。速い。だが、完全に想定外ではなかった。流鹿が真正面から突っ込んでくる可能性は考えていたのだろう。亜爆は一歩後ろへ下がると同時に、掌の中に新たな爆弾を生み出した。今度はさっきまでより少し大きい。それを、自分と流鹿の間の床へ落とす。爆発。

今までよりも一段強い衝撃が、二人の間で炸裂した。爆風が床を叩き、熱が一気に広がる。流鹿は咄嗟に腕を前に出して勢いを殺し、踏み込みを中断する。完全に止まったわけではないが、攻撃のリズムは崩れた。

その隙に、亜爆はさらに二歩下がる。

距離を取りながら、右手から小型の爆弾を二つ、ほぼ連続で放った。一つは流鹿の足元。もう一つは少し遅れて、その後ろ。前へ出ても爆発、後ろへ下がっても爆発。単純な二択に見えて、その実どちらを選んでも次の行動が遅れるように組まれている。

流鹿は前へ出た。足元の爆発を最小限の動きで避け、そのままもう一歩踏み込む。後ろに下がるより、前に出て亜爆へ圧をかけた方が得だと判断したのだろう。

だが、その一歩を亜爆は待っていた。

「――そこです」

亜爆が低く呟く。その瞬間、流鹿の進行方向の床で、小さな爆発が横に走った。


さっき投げた爆弾のうち、一つは即座に爆発するものではなかったのだ。わずかに時間差を設けて起爆するよう調整されていた。流鹿が“最も安全だと思って踏み込む場所”に合わせて爆発するよう、最初から仕込んでいたのである。


流鹿の眉が少し上がる。


「おっ」


爆発そのものは大きくない。だが、足元を狙われれば話は別だ。流鹿は踏み込みの勢いを変え、身体をひねってその爆風を逃がす。完全に不意を突かれたわけではない。だが、亜爆が“爆弾を投げて終わり”ではなく、“どう踏ませるか”まで考えていることは十分に伝わった。


エデンは思わず身を乗り出す。

「今の、すごい……」


「うまいな」

ジエルも素直にそう言った。


さっきまでのエデンやジエルの戦いは、どちらかといえば正面からぶつかる色が強かった。だが亜爆は違う。相手に何をさせるか、どこへ動かすか、その先で何が起きるかまで含めて組み立てている。爆弾は攻撃というより、盤面を作るための駒に近かった。


流鹿は着地すると、口元をゆるめた。

「ええやん。爆弾の置き方、ちゃんと考えとる」


「ありがとうございます。でも――」

亜爆は息を整えながら、次の爆弾を作り出す。

「まだ全然、届いてない」

その言葉と同時に、今度は三つの爆弾が同時に生まれた。

右手に一つ、左手に二つ。

亜爆はそれを投げ分ける。ひとつは流鹿の足元へ、ひとつは右斜め後ろへ、ひとつは天井近くの高い位置へ。高さも、距離も、タイミングもばらばら。単純な連射ではない。回避した先に別の爆発が待つように、空間そのものを細かく区切っていく。


訓練場のあちこちで、小さな爆発が連続した。


白い煙が広がり、床が鳴り、熱が揺れる。流鹿はその中を走り抜ける。かわし、沈み、跳ね、時には爆風を掠めながらも前へ出る。だが、亜爆もただ逃げるだけではなかった。流鹿がどこを通るかを見て、そこへ次の爆弾を置く。置いて、誘って、逃がして、また置く。気がつけば、訓練場の中央は小さな爆発の連鎖で満たされていた。流鹿はその中を進みながら、はっきりと笑っていた。

「亜爆君、思ったよりずっといやらしい戦い方するなぁ!」


「褒め言葉として受け取っておきます」

亜爆はそう返しながら、さらに一歩後ろへ下がる。

だが、その瞬間だった。流鹿の姿が、ふっと消える。

いや、消えたように見えただけだ。一気に間合いを潰したのだと理解した時には、もう遅い。流鹿は爆煙を突っ切り、亜爆の手首を軽く掴む。強く握り潰すような拘束ではない。ただ、「次の動きは見えている」とでも言うように、的確に止められた。


「そこや」

流鹿が笑う。

「今の距離で爆弾に頼る癖、ちょっと危ないで」

亜爆の動きが止まる。

流鹿はそのままもう片方の手を亜爆の肩へ軽く当てた。実戦なら、その瞬間に首でも顎でも鳩尾でも打ち抜けただろう。だが、もちろん本当に打ち込んだりはしない。代わりに、寸止めの形で“取った”ことだけを示す。

勝負はついた。亜爆は小さく息を吐き、手の中の爆弾を消した。

「……負けました」


「いや、かなり良かったで」

流鹿はすぐに手を離し、少し下がる。

「爆弾の置き方、時間差、視界の使い方、全部ちゃんと考えられとる。火力に頼らずに盤面作ろうとしてるのもええ。せやけど、最後みたいに近づかれた時の択がまだ少ないな」

亜爆は静かに頷く。

「距離を詰められた瞬間、爆弾で無理やり仕切り直そうとしてました」


「そうそう。もちろんそれ自体は悪くない。でも、相手が速いタイプやと、そこ読まれたら止められる。せやから、近距離用の崩し方か、爆弾以外の逃がし方も一個欲しいところやな」

エデンはそのやり取りを聞きながら、なるほどと息をついた。

亜爆の戦い方はかなり完成度が高い。だが、それでもSランク相手だと最後の一手を読まれる。逆に言えば、課題ははっきりしたということだ。

ジエルがベンチから声を飛ばす。

「亜爆、めちゃくちゃうぜぇ戦い方してたな」

流鹿は肩を揺らす

「いやでもほんま、ええ特性しとるわ。ジエル君が前からぶっ壊すタイプで、エデン君が絡め取って崩すタイプやろ? そこに亜爆君みたいな“盤面を汚してくるやつ”がおると、チームとしてめっちゃ嫌や」

「盤面を汚すって、言い方ひどくないですか?」


「褒めてる褒めてる」

軽い調子でそう返しながら、流鹿は三人を見渡した。

エデンはリミットの応用で距離と虚を作る術を見せた。ジエルは黒い電気という不穏な問題こそ残したが、能力が回った時の爆発力を示した。亜爆は火力よりも配置と時間差で相手を追い込む戦い方を見せた。


それぞれ、ちゃんと強みがある。そして同時に、それぞれにまだ穴もある。流鹿はにやりと笑った。

「よし。なんとなく君らの色は見えてきたわ」

その言葉に、エデンが顔を上げる。

流鹿は訓練場の中央で腕を組み、どこか楽しそうに三人を見回した。

「ほな次は、どうしよか」

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