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エデン  作者: ko-da
9章 ECO特訓編

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ジエルの情報

教室の空気が、少しだけ重くなる。流鹿に促され、ジエルは腕を組んだまま少し視線を落とした。いつもならもっと軽い調子で喋るはずなのに、今は違う。表情にいつもの余裕がない。口を開こうとして、少しだけ詰まる。

「……エイリワスは、俺が子どもの頃、俺の故郷を滅ぼしたやつだ」

低い声だった。怒りを抑え込んだような、押し殺した響き。エデンは隣で黙ってジエルを見る。ジエルがこの話を自分からする時、いつも少しだけ空気が変わることを、エデンは知っていた。

ジエルは続けようとした。

「俺はそん時……」

そこで、言葉が止まる。ほんの一瞬のことだった。けれど、確かに止まった。ジエルの眉が寄る。まるで、そこにあるはずの言葉が急に見えなくなったみたいに。

「……」

教室に沈黙が落ちる。流鹿が首を傾げた。

「どうしたんや?」

ジエルはすぐに顔を上げる。

「あ? いや、なんでも」

反射的にそう返すが、その声は少しだけ空回っていた。

「えぇっと……そん時、俺は……」

また止まる。今度はさっきよりも長い。ジエルの視線が泳いだ。まるで、自分の記憶の中を探っているようだった。


――何してたんだ?

ふと、そんな考えが頭をよぎる。自分はあの時、何をしていた?故郷が滅びたあの日。兄が殺されたあの日。村が燃え、海の匂いに血の臭いが混じって、空が赤く染まっていたあの日。確かに何かがあったはずなのに。肝心な部分だけ、ぬるりと手をすり抜ける。

「……何してたんだ? 俺って」

ぽつりと、ジエルは自分でも気づかないうちに呟いていた。その言葉に、エデンがぴくりと反応する。亜爆もわずかに目を細めた。流鹿は冗談めかした様子を一切見せず、ジエルを見ている。

「大丈夫か?」

その問いは軽くなかった。隊員としてではなく、人として様子を見ている声だった。

ジエルははっとしたように顔を上げる。

「あー……悪い」

頭を掻く。いつもの調子を無理やり引っ張り出すように、口元を少し歪めた。

「問題ねぇ。何が起きたかは覚えてる」

そう言って、一度だけ深く息を吐く。自分の中に生まれた妙な引っかかりを、今は脇に押しやるように。

「エイリワスは兄貴を俺の家族を殺した」

その一言は、短くて、重かった。教室の空気がまた一段階沈む。ジエルの兄。元ECOの天才。ジエルにとって大きすぎる存在だった人物。その兄を、エイリワスは奪った。

「それで……俺がエリア・オズに任務で行った時、あいつと会って話した」

ジエルの声が少し硬くなる。思い出したくない相手の顔を思い浮かべているのだろう。

「直接見た感じ、あいつはただの戦闘狂ってわけじゃねぇ」


「頭が切れる。いや、切れるっていうか……気味が悪ぃんだよ」

言葉を選ぶように、ジエルはゆっくり話す。エデンが小さく息を呑む。その感覚は、エデンにも分かる気がした。研究者のようでいて、研究者という言葉すら生ぬるい。命を命として見ていない、あの冷たい視線。ジエルは机に寄りかかるようにしながら続けた。

「あと、能力だ」

そこから先は、かなり重要な話だと全員が察した。流鹿の目が細くなる。ジエルは指を二本立てる。

「まず一つ。あいつは死体を操れる」


「それも、ただ糸みたいに動かすだけじゃねぇ。かなり自由に扱えるっぽい」

エイリワスが寄生しているのはジエルの父の死体。そしてそこからさらに、別の死体を操ることもできる。それはもはや一人の敵というより、死体そのものを戦力に変える厄介な軍勢みたいなものだった。

「で、もう一つ」

ジエルの顔が少しだけ険しくなる。

「死体に乗り移れる」

流鹿の眉が、わずかに動いた。

「……乗り移る、か」


「そうだ」

ジエルは頷く。

「実際、今のエイリワスは俺の父親の死体に乗り移ってる」

その言葉に、教室の空気が一瞬止まったように感じた。何度聞いても、悪趣味の極みみたいな話だった。亜爆が静かに目を伏せる。エデンは拳を握った。流鹿も腕を組んだまま、数秒何も言わなかった。やがて、低く息を吐く。

「最悪やな」

その一言には、嫌悪も警戒も全部詰まっていた。ジエルは苦笑するように鼻を鳴らした。

「だろ?」


「しかも、兄貴が使ってた能力まで使いやがる」


「……次元(ディメンション)か」

流鹿が確認するように呟く。

ジエルは頷いた。

「そうだ。兄貴の能力だ」

兄の名を出す時、ジエルの声は少しだけ揺れる。だが今度は、さっきのように止まらなかった。

「あいつは人の死体を使って、人の能力まで使う」

ジエルはそこで言葉を切る。そして、吐き捨てるように言った。

「クソ野郎だよ。マジで」

教室の中に、しばらく沈黙が落ちた。誰も軽々しく口を挟めない。エイリワスという存在の輪郭が、少しずつはっきりしていくたびに、その異常さもまた鮮明になっていく。流鹿はしばらく考え込むように目を伏せ、それからゆっくりと口を開いた。

「死体操作、死体への寄生、加えてジエルの兄の能力まで使用可能……か」

その声音は、もう完全に任務中のそれだった。飄々とした空気は消えている。

「本部が警戒しとる理由がよう分かるな」

流鹿は視線を上げる。エデン、ジエル、亜爆を順番に見ていく。

「ジエル君、ようこんな相手とやり合ったな」

感心半分、呆れ半分のような口調だった。だが次の瞬間、流鹿の目がジエルに止まる。

「……せやけど」


「さっきの、気になるな」


ジエルが眉をひそめる。

「さっき?」


「故郷が滅ぼされた時のことや。途中で引っかかったやろ」

教室の空気が、また少しだけ張る。ジエルは一瞬言葉に詰まり、すぐに視線を逸らした。

「……別に。大したことじゃねぇよ」

そう返しながらも、その言い方には妙な硬さがあった。本当に大したことがないなら、そんな顔はしない。エデンは黙ってジエルを見る。ジエル自身も、たぶん気づいているのだろう。さっきの“空白”が、ただの言い淀みじゃなかったことに。

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