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エデン  作者: ko-da
8章 白石研究所編

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月下美人を助けに

研究施設の一角。倒れた兵士たちの間に、静かな空気が流れていた。先ほどまで続いていた戦闘の音はもうない。聞こえるのは機械の駆動音と、どこか遠くで鳴る警報だけだった。エデンはシェイドの話を聞き終え、しばらく何も言えなかった。あまりにも重い過去だった。人体実験。研究所からの脱走。家族として利用された少女。そして月下香という男。エデンはゆっくりと視線を落とした。

「そんなことが……」

自然とそんな言葉が漏れる。シェイドは苦笑した。脇腹に巻かれた包帯を軽く押さえる。まだ痛む。だがそれ以上に胸の奥にある感情の方が強かった。

「あいつは外道だ」

その声には怒りが混じっていた。

「月下香は人を人として見ていない」

視線が奥の階段へ向く。美人(みと)が連れ去られた方向。

「俺は……」

そこで一瞬言葉が止まる。そして静かに続けた。

「俺はあいつへの復讐のために怪盗になった」

エデンはそこで気付いた。今のシェイドはいつもと違う。豪華客船で会った時のような芝居がかった口調ではない。詩人のような言葉もない。ポーズを取ることもない。そこにいるのはただ一人の青年だった。復讐を抱えた一人の人間。シェイドはエデンの視線に気付いたのか、小さく笑った。

「気付いたか」


「え?」


「あの口調」

シェイドは頭を掻く。少し気まずそうに。

「怪盗っぽくしているだけだ」

エデンは思わず目を丸くした。

「そうなの?」


「そうだ」

シェイドは肩をすくめる。

「本当はそんな器じゃない」


美人(みと)が楽しそうに笑うから続けていただけだ」

そう言った時だけ、少しだけ表情が柔らかくなった。エデンは最後の包帯を結ぶ。これで応急処置は終わりだ。

「よし」

満足そうに頷く。シェイドは傷口を動かしてみる。完全ではないが、さっきよりずっと楽だった。

「助かった」

珍しく素直なお礼だった。そして立ち上がる。

「俺は行く」

短く言う。

「ルノを助ける」

当然のように、一人で行くつもりだった。だが。その瞬間だった。エデンが立ち上がり、そして軽く肩を回した。腕を伸ばす。首を鳴らす。まるで戦う前の準備をするように。シェイドは首を傾げた。

「……何をしている?」

エデンは当然のように答える。

「行くんでしょ?助けに」

シェイドは一瞬言葉を失った。

「きみも?」


「うん」


「なぜだ」

シェイドには理解できなかった。エデンは月下香と関係ない。美人(みと)とも数回しか会っていない。危険を冒す理由がない。だから聞いた。

「きみは私と関係のない人間だ」

「なぜ助けようとする?」

研究所の照明が静かに二人を照らす。エデンは少し考えて。そして笑った。

「怪盗とか、関係ないよ」

その答えはあまりにも単純だった。

「今の話を聞いて」

少しだけ真面目な顔になる。

「もっと助けたくなった」

シェイドは黙る。その言葉に嘘はなく、打算もないように見えた。だからこそ、シェイドには少し眩しかった。

ケイも頭の中でその会話を聞いていた。だが何も言わない。いつもなら呆れたり止めたりするはずだった。それでも今回は黙っていた。エデンらしい。そう思ったからかもしれない。

「行こう」

エデンが言う。シェイドはしばらく無言だった。やがて小さく息を吐く。

「……好きにしろ」

そう言って歩き出した。奥へ。美人(みと)が連れて行かれた方向へ。エデンも続こうとして――ふと足を止めた。

「あ」

何かを思い出したような顔になる。シェイドが振り返る。

「どうした?」

エデンは少しだけ考え込み。そして指を立てた。

「ちょっと先行ってて、すぐ追いつくから」

シェイドは怪訝そうな顔をする。

「何をするつもりだ?」

だがエデンは少し笑うだけだった。

「ちょっとね」

そう言うとポケットからスマホを取り出して何かをする。シェイドは首を傾げながらも、再び前を向く。ルノを助けるために。月下香との決着をつけるために。暗い階段を一人で上っていった。

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