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エデン  作者: ko-da
8章 白石研究所編

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ラベジニウムについて

エデンと月下香は自動ドアを抜け、ビルの中へと入っていった。ガラス越しに差し込む昼の光。忙しそうに行き交う研究員たち。外から見ても大きな建物だったが、中はさらに広く感じられる。エデンは思わず周囲を見回した。月下香はそんな様子を見て少し笑う。

「驚いたかい?」


「まぁ……ちょっと」

エデンは正直に答えた。これほど大規模な研究施設を見るのは初めてだった。二人はそのままロビーの奥へと歩いていく。やがて姿は建物の中へ消えていった。


その頃――。

ビルの向かい側。人混みに紛れるように、一人の男が立っていた。紫色の髪。仕立ての良いスーツ。だが今は派手な装飾を外し、目立たない服装に変えている。それでも、その立ち姿にはどこか気品があった。男は静かにビルを見上げている。その視線の先には、たった今入っていったエデンの姿があった。男の名は――シェイド。クロウ島でエデン達と戦った怪盗である。風が吹く。シェイドの髪がわずかに揺れた。そして。彼は小さく呟く。

「やっとだ……」

その声にはが混じっていた。シェイドは目を細める。

「やっと見つけた」

普段の芝居がかった口調ではない。誰にも聞かせるつもりのない独り言。その時。後ろから小さな声が聞こえた。

「シェイド……」

振り返る。そこにはルノが立っていた。白い髪が風に揺れている。ルノは不安そうにシェイドを見た。

「本当に……あの人なの?」

シェイドはしばらく答えなかった。ビルを見つめる。そして静かに微笑む。

「そうだ」

ルノは黙り込む。シェイドの表情はいつもと違っていた。怪盗として舞台に立つ時の顔ではない。もっと個人的な。もっと深い感情を抱えた顔だった。シェイドはゆっくりと歩き出す。シェイドは研究所のビルを見上げる。ガラス張りの巨大な建物。彼らはゆっくりと研究所へ向かって歩き始めた。


・・・

エデンは、白石礼の後について研究フロアの奥へと進んでいた。廊下の両側にはガラス張りの部屋が並んでいる。中では研究員たちがモニターを見ながら何かのデータを解析していた。ラベジニウムらしき物体が厳重なケースに保管されている部屋もある。ECOの支部とはまた違う空気だった。戦う者たちの場所ではなく、調べる者たちの場所。エデンはそんな印象を受けた。やがて白石は一つの扉の前で立ち止まった。認証装置にカードをかざす。電子音が鳴り、扉が開いた。

「この部屋が私の研究スペースだ」

中へ入る。部屋は想像以上に広かった。壁一面に本棚が並び、その中には専門書らしき分厚い本がぎっしり詰まっている。大型モニター。

複数の解析装置。机の上には資料の山。一見すると散らかっているようにも見えるが、不思議と必要なものはすぐ取り出せそうな配置だった。研究者らしい部屋だった。

「適当に座ってくれ」

白石はそう言い、自分は机の向こう側へ座る。エデンも近くの椅子に腰を下ろした。白石は引き出しから一冊の古い資料を取り出す。ページの端は色褪せていた。

「エデン君はラベジニウムについてどれくらい知っている?」

突然の質問だった。エデンは少し考える。

「能力を与える石みたいなもので……エイリ星人に対して特攻があるってことくらいです」


「なるほど」

白石は頷いた。

「では少し昔話をしようか」

資料を開く。そこには古い写真が貼られていた。

「ラベジニウムという物質を最初に発見したのは、この国ライサムのある研究者だ」

エデンは興味深そうに身を乗り出した。

「どんな人なんですか?」

白石は少し困ったような顔をする。

「実は私も詳しくは知らない」


「記録の大半が消えていてね」

そう言いながらページをめくる。

「ただ、噂では違法研究を行い、最終的に逮捕されたらしい」


「違法研究……」

エデンは眉をひそめた。ラベジニウムの研究者。聞いただけでも危険な響きがある。白石は肩をすくめた。

「研究者というのは、時々常識を飛び越えてしまうものだよ」

そう言う本人も研究者なのだが。エデンは何となく複雑な気分になった。白石は話題を変える。

「ところで、ラベジニウムの使用方法は知っているかな?」


「インターフェースですよね」

エデンは自分のインターフェースに触れる。能力者なら誰もが知る器具だ。白石は頷く。

「それが一般的な方法だ」


「だが、他にも存在する」

その言葉にエデンは少し驚く。白石は机の引き出しから人体模型を取り出した。胸部が開閉できる構造になっている。

「体内へ直接埋め込む方法だ」

白石は模型の胸部を開く。中には小型機械を模した部品が入っていた。

「専用の機械を体内へ埋め込み、同時にラベジニウムも組み込む」


「その状態で能力を使用するんだ」

エデンは目を見開いた。そんな方法があるとは聞いたことがなかった。

「それって危なくないんですか?」


「普通に人体に埋め込むよりは安全だ」

白石は答える。

「機械がエネルギーを制御するからね」


「暴走や身体への負荷もある程度抑えられる」

しかし。そこで白石の表情が少しだけ真面目になった。

「ただし、大きな欠点がある」


「一度埋め込むと、ラベジニウムを外せなくなる」

部屋が静かになる。エデンは思わず自分の手の甲を見る。ラベジニウムは強大な力を得られる。だが同時に危険でもある。それを一生身体から取り出せない。想像しただけで重い話だった。白石は頷く。

「だから誰もやりたがらない」


「能力を失う自由すらなくなるからね」


「現代ではほとんど採用されていない方法だ」

エデンは静かに話を聞いていた。知らないことばかりだった。ラベジニウムについて、自分はまだ何も知らないのかもしれない。そんなことを思った時だった。白石の視線がふとエデンへ向く。研究者の目。観察する者の目。

「さて――」

白石は微笑む。

「次は君自身の話を聞かせてもらおうか」


「そのラベジニウムについて、君がどこまで知っているのかをね」


エデンは少しだけ緊張しながら、椅子に座り直した。

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