誘導
白と黒の盤上。その中心で、激しい衝突が続いていた。エイリヤカの赤い刀と、流鹿のガントレットがぶつかる。衝撃で周囲のマスが砕け散る。流鹿はそのまま身体を捻り、蹴りを放つ。エイリヤカの胴へ直撃。赤い外骨格が軋む。だが、エイリヤカもただ押されているだけではなかった。
「……甘い」
刀が閃く。流鹿は咄嗟に後退するが、背後にいた白騎士の駒が真っ二つになった。駒は光の粒となって消滅する。流鹿の目が細くなる。エイリヤカは静かに盤面を見る。
「駒は……攻撃を受ければ消滅する」
流鹿は鼻で笑った。
「察しええなぁ」
その瞬間。エイリヤカの空気が変わった。赤い刀をゆっくり構え、消えた。
「!」
次の瞬間。斬撃。白の盾兵が切断される。さらに。後方。杖を持つ駒も斬り裂かれる。止まらない。エイリヤカが盤面を縦横無尽に移動する。一瞬ごとに位置が変わる。斬っては消えを繰り返す。白黒の駒が次々と消滅していく。光の粒子が盤上へ散っていく。流鹿は舌打ちした。
「めんどくさい動きしよる……!」
エイリヤカは駒そのものを狙い始めていた。能力の土台を崩しに来ている。さらに。刀が振るわれる。斬撃。今度は遠距離。赤い斬撃が盤面を裂きながら飛ぶ。複数の駒がまとめて吹き飛ぶ。流鹿は即座に手を前へ出した。
「ポーン」
白マスが一斉に光る。大量の兵士駒が次々と召喚される。前列へ並ぶ。まるで壁。エイリヤカは止まらない。斬撃。ポーンが消える。だが。また出現。
「連続召喚!」
流鹿が次々召喚する。エイリヤカの斬撃。消えるポーン。補充されるポーン。白い兵士達が、まるで波のように前へ現れ続ける。赤い斬撃が盤面を裂く。だが、その全てをポーン達が防いでいた。エイリヤカの目が細くなる。
「数で押すか……」
流鹿は笑う。
「ポーンも結構厄介やからなぁ」
ポーン達が一斉に突撃する。まるで軍隊。エイリヤカは刀を振るい続ける。その間にも。流鹿自身が動いていた。
「隙ありや」
ガントレットがエイリヤカの脇腹へ叩き込まれる。赤い外骨格が砕ける。エイリヤカの身体が吹き飛んだ。盤面を滑る。流鹿は拳を構える。
「お前強いけどなぁ」
周囲には再び大量の駒。盤面は完全に流鹿の支配下だった。
「ここ、俺のホームグラウンドやねん」
白と黒の盤面。その支配権は、確かに流鹿が握っていた。無数の駒。連携。召喚速度。盤面そのものを利用した戦術。エイリヤカは押されている。少なくとも、そう見えた。だが。エイリヤカの赤い瞳は、ずっと“ある一点”を見ていた。流鹿。その動き。駒の配置。防御の仕方。全てを観察していた。そして――気付く。
(……不自然)
流鹿は常に前へ出て戦っている。だが。ある方向からの攻撃だけは、必ず自分で防いでいた。後方。そこには、一体の駒が立っている。黒と白を基調とした豪奢な装飾。頭部には冠。キングの駒。他の駒とは違う。静かに、盤上の中央後方に置かれていた。流鹿はその存在を隠そうとしている。エイリヤカは刀を構え直す。
「……成程」
低く呟く。
「王を守る遊戯、か」
流鹿の目が細くなる。
「……ッ」
その瞬間。エイリヤカが消えた。盤面が裂ける。ポーン達が前へ出る。だが。違う。エイリヤカの狙いは流鹿ではない。一直線。後方。キングの駒。
「しまっ――」
流鹿が反応する。だが遅い。エイリヤカは既にキングの前へ立っていた。赤い刀が振り上がる。
「断つ」
赤い斬撃。
「王を落とせば、終局――」
エイリヤカの赤い刀が振り抜かれる。駒が真っ二つになる。エイリヤカの目が細まる。勝負は決した。
――はずだった。
だが。何も起きない。盤面は崩壊しない。白黒の世界はそのまま。
「……?」
エイリヤカの動きが止まった。その時だった。流鹿が、ニヤリと笑う。
「なんてな……」
エイリヤカが切り裂いた駒。その頭部をよく見れば、王冠ではない。塔。城。それはキングではなく――ルークだった。流鹿が肩を鳴らす。
「キャスリングや……」
「キングとルークを入れ替えた」
エイリヤカの視線が動く。右の盤面。大量のポーン達の奥。そこに、本物のキングが静かに存在していた。流鹿は笑う。
「本当のキャスリングは厳しい条件あるし……入れ替えってわけでもないけど」
肩をすくめる。
「ここ、俺の盤やからな」
その瞬間。流鹿の足元の黒マスが発光した。ポーンやナイト、ルーク、ビショップ。そしてクイーン。白黒の軍勢。まるで本物の戦争だった。流鹿の目が鋭くなる。
「お前、強いで」
素直に認める。
「頭も回る」
だが。拳を構える。
「せやからこそ、誘導した」
全駒が一斉にエイリヤカへ武器を向ける。
「王狙うって思うたからな!!」
次の瞬間。
軍勢が、一斉に襲いかかった。




