白黒洋棋
流鹿はエイリヤカを見る。
「厄介な能力やなぁ……!」
エイリヤカの能力は移動の省略。それが分かった所で対処が楽になるわけではない。
「でも――」
流鹿が口元を吊り上げる。
「俺の方がやっかいやで」
エイリヤカが刀を構え直す。空気が張り詰める。その中で、流鹿はゆっくり両手を合わせた。乾いた音が響く。
「ほな」
流鹿の声が静かに落ちる。
「盤、開こか」
その瞬間。地面が変質する。流鹿の足元から白と黒の線が走り始めた。マス目。規則正しい格子模様。それが一気に広がっていく。周囲一帯を飲み込むように、巨大な盤面が形成されていく。
「な……」
亜爆が息を呑む。ドロイも薄れる意識の中でそれを見ていた。エデンは理解する。能力。しかも、かなり大規模な。エイリヤカは周囲を見回す。だが、その表情に焦りはない。静かに刀を構えている。そして。マス目の広がりが止まった。次の瞬間。流鹿とエイリヤカの身体が、同時に消える。
「!?」
エデン達が目を見開く。消えた。いや。違う。マス目そのものが宙へ浮かび上がっていた。白黒の盤面。それが圧縮されるように収束していく。空間が歪む。巨大な盤面はやがて、宙に浮かぶ菱形へと変わった。白と黒が入り混じる立体。異様な存在感。まるで空間そのものを切り取ったようだった。エデンは呆然とそれを見上げる。
「なんだ……これ……」
ケイの声が響く。
『空間に干渉する能力か』
『かなり高度だ』
一方、その内部。
流鹿とエイリヤカは別空間へ移されていた。世界が変わる。空も。風景も。全てが消える。あるのは白と黒と、そして流鹿の後ろに存在する王冠を被った駒のみ。上下すら曖昧になるような空間。足元には、白と黒のマスが交互に並んでいた。静寂。その中央で、流鹿が立っていた。ガントレットを鳴らす。
「ようこそ」
軽く笑う。
「俺の盤上へ」
エイリヤカは周囲を見渡していた。赤い刀を構えたまま。その目は警戒している。流鹿はゆっくり両腕を広げた。
「白黒洋棋....これが俺の能力や」
その言葉と同時に。足元のマスが淡く発光する。白。黒。
世界そのものが、盤上の戦場へ変わっていた。静寂の中、エイリヤカがゆっくり刀を構える。その赤い外骨格だけが、この空間で異様な存在感を放っていた。対する流鹿は、肩を回しながら笑う。
「さて……」
「盤上戦、始めよか」
その瞬間。足元の白いマスが光った。盤面から何かがせり上がってくる。それは人型だった。全身が白い装甲に包まれた騎士。頭部には兜。手には巨大な槍。エイリヤカの赤とは対照的な、純白の駒。さらに。黒いマスからも現れる。今度は巨大な盾を持った兵士。そして後方には、長い杖を持つ駒まで現れた。まるで、本当にチェスの駒が兵士になったようだった。エイリヤカが僅かに目を細める。
「式神……否」
流鹿が指を鳴らす。
「チェスの駒や」
ニヤリと笑う。
「ルール無用のな」
次の瞬間。白騎士が動いた。凄まじい速度で突進。槍が一直線にエイリヤカへ向かう。エイリヤカは刀で迎撃。激突。火花が散る。その瞬間。横から黒の盾兵が突っ込む。
「……!」
エイリヤカが反応する。だが、盾による体当たりが直撃した。エイリヤカの身体が僅かに浮く。そこへ。後方の杖を持つ駒が光を放った。光弾がエイリヤカへ降り注ぐ。爆発。流鹿は腕を組む。
「この盤の上やと、お前の能力は少し読みやすいんよ」
エイリヤカが煙の中から飛び出し、消える。瞬間。白騎士の背後へ現れ、斬ろうとする。だが──
「一手遅いわ」
流鹿が笑う。その瞬間、エイリヤカの後ろから槍が迫る。
「……!」
初めて、エイリヤカの表情に明確な驚きが浮かぶ。流鹿は地面を蹴り、一瞬で距離を詰める。
「チェックや!!」
ガントレットが唸る。エイリヤカの顔面へ直撃。赤い外骨格が砕け、衝撃で吹き飛ばされるエイリヤカ。盤面を滑る。流鹿はさらに追撃する。
「ビショップ!」
白マスが光る。次の瞬間。斜め方向から光弾が飛ぶ。エイリヤカが刀で防ぐ。だが、その隙に。
「ナイト!!」
今度は騎士駒が空中から飛び込む。槍による一撃。エイリヤカの鎧がさらに削れる。
「……ッ」
エイリヤカが後退した。流鹿は笑う。
「どうした?」
手を叩く。
「さっきまでの余裕、無いやん」
白と黒の盤面。
その上では、完全に流鹿が主導権を握っていた。




