斬撃
朝。エデンはゆっくり目を覚ました。柔らかいベッド。静かな部屋。一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなる。
「……あ」
クロウ島。旅行中だったことを思い出す。昨日はかなり疲れていたらしい。身体が少し重い。エデンはベッドから起き上がり、窓の外を見た。その時だった。
「……?」
何かがおかしい。外が妙に騒がしい。人の声。叫び声。車の急ブレーキ音のようなものまで聞こえる。エデンは眉をひそめた。
(……怪盗?)
真っ先にシェイド達のことが頭をよぎる。だが。次の瞬間。
「いやああああッ!!」
悲鳴。それも、クローズフェザー号での混乱とは違う。もっと切迫した、本気で命の危険を感じている声だった。エデンの表情が変わる。
「……違う」
胸騒ぎがした。急いで部屋を飛び出す。廊下へ出ると、ちょうど別の部屋からも人が出てきていた。
「エデン!」
ジエル。その後ろから亜爆。さらにドロイも出てくる。全員、外の異変に気付いたらしい。
「なんだこの騒ぎ……!」
ジエルが窓の外を見る。そこでは、人々が慌てて走っていた。観光客。ホテルスタッフ。誰もが恐怖に顔を歪めている。
「下行くぞ!」
エデン達はすぐにホテルを飛び出した。外へ出た瞬間。空気が違った。騒然としている。人々がどこかへ逃げ込んでいた。店のシャッターが閉まり始めている。遠くでは煙も上がっていた。
「なんだよこれ……」
亜爆が息を呑む。エデンも周囲を見る。昨日までの平和なリゾート地とは思えなかった。すると──
「エデン君!!」
聞き覚えのある声。振り向くと、アグレスがこちらへ走ってきていた。だが、その姿は昨日とは違う。顔に焦りが浮かんでいる。警察官達も慌ただしく動いていた。
「アグレスさん!」
エデンが駆け寄る。アグレスは息を切らしながら言った。
「大変だ!」
その声には、明確な緊張があった。
「エイリ星人が「現れた!!」
アグレスが叫ぶ。その声には、昨日までの余裕がまるで無かった。
「君たちも逃げるんだ!」
真剣な表情でエデン達へ言う。
「あれには、多分勝てない!」
「……!」
エデン達の空気が変わる。アグレスがここまで断言する。それだけで異常だと分かった。ジエルが眉をひそめる。
「何が出たんだよ」
その瞬間。遠くで何かが崩落した音が鳴った。地面が僅かに揺れる。ホテル街の向こう側。建物の上半分が地面に落ちていた。建物は斜めに切断されている。
「きゃあああ!!」
「逃げろ!!」
観光客達が悲鳴を上げながら走る。昨日まで賑わっていたリゾート地は、一瞬で地獄のような空気になっていた。エデンはその光景を見ながら、無意識に拳を握る。すると。ドロイが静かに前を見た。
「……来ます」
その視線の先。煙の中から、“何か”が現れる。ゆっくりとした足音。だが、その一歩ごとに妙な圧迫感があった。そして。煙の中から姿が現れた瞬間。エデン達は息を呑んだ。
「……なんだ、あれ」
ジエルが低く呟く。それは人型だった。だが、人ではない。全身が赤い外骨格に覆われている。鎧。まるで武士のような姿だった。肩や腕には硬質な装甲。頭部も兜のような形状になっている。そして右手には――。赤い刀。血のような色をした、異様に長い刀身。その刃を地面へ擦るように歩いていた。ぎりぎりと嫌な音が響く。
「エイリ星人……?」
エデンが呟く。だが、今まで見た個体とは明らかに違う。存在感そのものが異質だった。周囲の空気が張り詰める。すると、そのエイリ星人がゆっくり顔を上げた。赤い外骨格の奥。暗い隙間から、光る瞳が見える。その視線が、エデン達を捉えた。背筋が冷える。
次の瞬間──
エイリ星人が刀を振るった。直後。後方の街灯が斜めに切断される。数秒遅れて街灯が崩れ落ちた。
「斬撃……!?」
エデンが目を見開く。遠距離まで届く斬撃。しかも、ほとんど見えなかった。ドロイの表情が険しくなる。
「危険です……」
ジエルはエイリ星人を睨む。
「好き勝手しやがって.....」
電気が身体から漏れ始める。だが、アグレスが叫ぶ。
「駄目だ!!」
エデン達を見る。その顔には焦りがあった。
「あれは普通のエイリ星人じゃない!ECOに応援を呼んだから君たちは......」
エイリ星人はゆっくり刀を持ち上げる。そして。低い声が響いた。
「……いざ、尋常に.....」
その瞬間。ケイの声がエデンの頭に響く。
『エデン』
鋭い声。
『戦うな....』
短く、だが強い警告。
『こいつは強い』




