クロウ島到着
事件は、複数人による犯行だった。最初に「盗まれた」と騒いだ男を中心に、数名が協力して動いていたらしい。怪盗騒ぎで乗客を混乱させ、その隙に金品を盗む。そしてワゴンサービスへ隠す。単純だが、豪華客船という閉鎖空間ではかなり効果的な手口だった。アグレス達警察は、判明した犯人達をすぐに拘束した。船内は一時騒然となったものの、犯人が捕まったことで徐々に落ち着きを取り戻していく。
「……終わったぁ……」
エデンは疲れたように息を吐いた。精神的にも、かなり消耗していた。怪盗騒ぎ。能力者との戦闘。窃盗事件。短時間で色々起こりすぎた。
その後、エデン達は亜爆が待機していた部屋へ戻る。扉を開けると、亜爆がすぐに顔を上げた。
「お、終わりました?」
「あぁ……」
ジエルがだるそうに答える。
「なんか疲れたわ、色々あって……部屋で寝る」
そう言いながら、自分の荷物を持ち上げる。普段ならもう少し騒ぎそうなものだが、流石に今日は疲労が勝っていた。
「じゃあまた明日な」
ジエルはそのまま211号室へ戻っていく。亜爆も欠伸をした。
「俺もそろそろ寝ますかねぇ……」
ドロイは静かに伸びをする。
「今日は妙に濃い一日でしたね」
エデンも苦笑した。
「ほんとだよ……」
そして、それぞれ自分の部屋へ戻っていった。
――――――
それから数時間後。クローズフェザー号がゆっくりと減速を始めた。低い振動。そして船内放送が響く。
『間もなくクロウ島へ到着いたします』
朝だった。窓の外には、美しい海と島影が見えている。太陽の光が海面へ反射し、きらきらと揺れていた。クロウ島。今回の目的地。エデン達は荷物を持ち、下船の準備を始める。廊下へ出ると、既に多くの乗客が移動していた。
「やっと着いたか」
ジエルが伸びをする。だが、その時。
「……なんか忘れてる気がすんな……」
ふと廊下を見る。そこではアグレス達警察が、拘束した犯人達を外へ連れ出していた。その光景を見た瞬間。エデンとジエルは同時に声を上げる。
「あ!」
「そう言えば怪盗が出たって言ってなかった!!」
完全に忘れていた。犯人探しと窃盗事件の方へ意識が向きすぎていた。二人は慌ててアグレスの元へ向かう。
「アグレスさん!」
「ん?」
アグレスが振り返る。エデンは急いで説明した。
「怪盗を見たんです!」
「……怪盗?」
アグレスは少し眉をひそめる。ジエルも続ける。
「シェイドって名乗ってた!」
だが、アグレスは困ったような顔をした。
「でも……怪盗はいなかっただろ?」
「は?」
「今回の事件は、この窃盗グループによる犯行だった」
アグレスは拘束された犯人達を見る。
「少なくとも、怪盗が盗みを働いた証拠はない」
エデン達は言葉を失った。確かに。実際に盗みをしていたのは別の犯人だった。シェイドは現れた。だが――何も盗んでいない。
その頃。シェイドとルノ、二人の怪盗は既にクローズフェザー号から離れていた。港から少し外れた場所。海風が静かに吹いている。シェイドはクロウ島の景色を眺めながら、小さく笑った。
「さて……どうやら幕は下りたようだ」
その声は、事件の緊張を洗い流すように穏やかだった。
「本来の目的は“犯人探し”だったはずだが――」
軽く肩をすくめる。
「思いがけず、なかなか愉快な舞台だった」
隣を歩くルノが静かに聞く。
「どうして、あの人たちにヒントをあげたの?」
シェイドは少しだけ空を見る。そして、ゆっくり微笑んだ。
「ここで起きたのは、怪盗騒ぎを利用した――ずいぶんと無粋な強盗劇だった」
その声には僅かな呆れが混じっている。
「私はただ、その幕間に少しばかり顔を出しただけさ」
海風が紫色の髪を揺らす。シェイドは近くの手すりへ軽く触れ、遠くに揺れる波間を見つめた。
「せっかく豪華客船でここまで来たんだ」
静かな声。
「追いかけるばかりでは、旅が泣いてしまう」
そして、少し楽しそうに笑う。
「たまには、物語の外側で息をつくのも悪くない」
指先で金のコインを弾く。綺麗な音が鳴る。シェイドはそのままルノへ振り返った。
「さあ――事件は終わった」
口元に笑みを浮かべる。
「次は、この島が見せてくれる“本当の楽しみ”を味わおうじゃないか」




