犯人
ドロイは一人、廊下の端に立っていた。豪華客船の明るい照明の下。静かに船内図を見つめている。周囲では乗客達が行き交っていたが、ドロイの意識は完全に別の場所へ向いていた。
(やはり、おかしい……)
指で船内図をなぞる。先程見かけたワゴンサービス。あれが引っかかっていた。
(ワゴンサービスが向かっていた方向には、スタッフルームも厨房もない)
つまり――。
「……」
ドロイの目が細くなる。
そこで。
「ドロイさん!」
遠くからエデン達がやってきた。二人とも少し慌てている。
「アグレスさんどこにいる?」
エデンが聞く。ドロイはすぐに答えた。
「アグレスさんなら、おそらく被害者の部屋にいると思いますよ」
そして続けようとした。
「それと……エデンさん」
その瞬間だった。
「盗まれたぁ!!」
遠くの部屋から叫び声。さらに。
「こっちもだ!」
「財布がない!」
「アクセサリーまで……!」
次々に声が響く。船内の空気が一気に騒然となった。
「!?」
エデン達は驚く。被害者が増えている。しかも大量に。ジエルが舌打ちする。
「クソッ!」
エデンはすぐに走り出した。
「アグレスさんの所へ!」
「おう!」
二人はそのまま廊下を駆け抜ける。
一方、ドロイはその場で静かに目を閉じた。
(やはり……そういうことか)
そして、ゆっくり歩き出した。
――――――
被害者の部屋。
そこにはアグレスと、最初に騒いでいた男がいた。男は苛立った様子で座っている。
「どうしたんだ二人とも、そんなに慌てて」
アグレスが振り返る。
「不審人物でも見つけたのかい?」
エデンは息を整えながら言った。
「不審な人物はいました」
シェイドの顔が頭をよぎる。だが。
「でも、犯人じゃない」
「……?」
アグレスが眉をひそめる。男は苛立ったように吐き捨てた。
「くそ……怪盗はいなかったのか……」
肩を落とす。
「悔しいが仕方ない……財布は諦め――」
「でも」
エデンが男を見る。真っ直ぐに。
「犯人の協力者は分かったかもしれません」
空気が変わった。アグレスの視線が鋭くなる。男も一瞬固まった。エデンは男に静かに聞く。
「あなたに聞きます。なんで盗まれた時、怪盗がいるって言ったんですか?」
「……!」
男の顔が僅かに強張る。そしてすぐ怒鳴った。
「き、君は私を疑ってるのか!?」
声が裏返っている。エデンは真剣な顔のまま動かない。沈黙。男は焦ったように言った。
「……よ、予告状で知ったんだ!」
その瞬間。アグレスが気付く。
「予告状が来てることは、警察しか知らないはずだ」
静寂。男の額から汗が流れる。
「そ、それは……!」
必死に言葉を探す。
「私は盗まれたんだぞ! どこに盗む隙がある!」
弁明。だが、その声には余裕がなかった。
すると。
「こうやってですよ」
静かな声が聞こえた。全員が振り返る。そこにはドロイがいた。片手で、ワゴンサービスを、もう一方の手で人を押さえている。
「……!」
男の顔が青ざめる。ドロイはゆっくりクロスを持ち上げた。すると――下段。そこには大量の財布。アクセサリー。腕時計。その他、金目の物が隠されていた。
「なっ……!」
アグレスの目が見開かれる。周囲の警察官達も騒然となった。男は完全にうろたえていた。
「な……なんで……!」
ドロイは静かに説明する。
「おそらく、最初に“盗まれた”と騒いで客を動揺させたのでしょう」
船内が混乱すれば、人々の注意は別へ向く。その隙に盗む。そしてワゴンサービスに隠す。
男の顔から、完全に血の気が消えていた。




